「賃上げ」へ動く賃金表の有無が賃金格差の要因に
中小企業で賃金制度を導入しよう!
具体的に決める
賃金制度はなぜ導入しなければならないのでしょうか。賃金制度を導入しなければならないことを裏付ける法律として、労働基準法第89条があります。この条文には、就業規則に必ず記載しなければならない事項、いわゆる「絶対的記載事項」として、『賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項』をその一つとして挙げています。この規定を具体化したものが賃金制度であり賃金表であると受け止めることができます。
しかしながら、中小企業の多くの就業規則には、「年齢、勤続、学歴、職歴、能力、職務などを総合的に勘案して、賃金を決定する」といった、抽象的、かつ、曖昧な記載にとどめています。賃金制度を導入していない県協加盟組合に賃金制度を導入することで、具体的な賃金の決定方法を定めることができます。
仕事の意欲を高める
次に、「なぜ、賃金制度が必要なのか」を考えます。
一つ目は、賃金制度は労働者が安心して働き続けるために不可欠な制度であるからです。事業主は、労働者との間で雇用契約を結ぶ上で、労働条件を明示する義務があります。労働条件の基本である賃金の決め方や支払い方法、その具体的な金額を明示する必要があり、それらを具体化したルールが賃金制度です。
労働者にとっては、賃金がどのように決められ、どのように仕事をしたら賃金が高くなるのかが明示されることで、安心して働くことができ、仕事に対する意欲も高まることになります。
賃金格差の解消へ
二つ目は、賃金制度が賃金水準の維持向上を図るために不可欠な制度であるからです。2000年代に入り、春闘における賃上げが『ベアゼロ(=賃金表の賃金額は前年度と同額)』という結果が続きました。大手の企業においては、「ベアゼロ」であっても、賃金制度のもとに、企業内の昇給システムがあり、賃金表の上位の額に移動することで、個々人の賃金額は昨年度の水準よりも上昇します。いわゆる『定昇相当分』がそれです。ところが、賃金制度のない企業では、『ベアゼロ』=『個々人の賃金額が昨年度と同額』となってしまうことから、『定昇相当分』を確保できないために、賃金カーブが低下してしまいます。
上記のグラフは、連合が中小労組を対象に毎年実施している賃金実態調査のグラフです。折れ線グラフは賃金制度の有無による賃金の変化の違いを表したもので、2008年と2013年の年齢階層別賃金水準を比較したものです。左側が賃金制度のない組合、右側が制度ありの組合のデータです。同じ規模の中小労組であっても、制度がない左側のグラフでは、2013年の賃金水準が2008年よりも低下していますし、制度がある右側のグラフでは2008年と2013年の賃金水準がほぼ重なっていることがおわかりになると思います。従って、同規模の企業の間にも制度の有無により、賃金格差が生じることになります。
賃金制度導入に向けては、賃金実態を分析し、問題点を把握した上で、労使協議を重ねることが重要です。導入に向けては、情報労連中央本部に相談してください。