特集2018.03

労働組合って何するところ?何をしている?労働組合はなぜ必要なの?市場経済の視点でイチから解説

2018/03/15
労働組合というと「経済的ではない」なんていうイメージを持つ人もいるかもしれない。だが、労働組合は市場経済を維持するために不可欠な存在だ。経済の視点から労働組合の必要性を解説する。
橋元 秀一 國學院大學経済学部教授

市場経済の長所と短所

労働組合と言えば、労働者が一致団結して、使用者に労働条件の向上を求める─。そんなイメージを持つ人が多いでしょう。確かにそれは労働組合の役割の一つです。しかし、労働組合はこの経済社会でもっと根本的で決定的な役割を担っています。

そのことを理解してもらうためには、市場経済とは何かを理解してもらう必要があります。市場経済とは、生産と消費の繰り返しで私たちの暮らしを豊かにしていくための仕組みです。そこで最も大切なことは、生産と消費をどうやって調和させるか、ということです。そのことを深く追求したのがアダム・スミスでした。彼はグラスゴーの街を歩きながら、需要と供給が市場で出合えば、価格の上がり下がりを通じてそれらが調和する均衡点ができあがることを発見しました。こうして、各自が自由に判断しているのに、労働力や資本など経済的資源が効率的に配分されることになります。これが市場経済の長所です。

ただし、市場経済には短所もあります。短所には(1)市場メカニズムが機能しないことで生じる欠陥(2)市場メカニズムがきちんと機能した結果生じる欠陥─という2種類の性格があります。

まず前者から説明しましょう。(1)の市場メカニズムが機能しないことで生じる欠陥は、「市場の失敗」と呼ばれます。それには四つの類型があります。一つ目は、独占・寡占による市場メカニズムの阻害です。供給側が一方的に強い力を持って市場を独占すると市場メカニズムが働かなくなってしまいます。そのため、独占禁止法という仕組みがあって、独占・寡占状態がつくられないよう規制しています。

二つ目は、市場メカニズムでは供給できない「公共財」が存在する、ということです。例えば道路や警察などがそれに当たると説明されます。「公共財」は市場メカニズムだけでは供給できません。

三つ目は外部不経済です。外部不経済とは、その経済活動が外部の社会などに悪影響を及ぼすことを言います。典型的な例が公害や環境問題です。外部に悪影響を及ぼし、つまりズルをしながら競争に勝つのでは、公正な競争が行われず、市場機能が発揮されないため、チェックしなければいけません。

四つ目は、情報の非対称性です。市場を機能させるためには、まともな判断を下すために供給者と需要者との間で情報の偏在がないようにする必要があります。

欠陥を補うための「介入」

このような「市場の失敗」という短所に付け加えて、市場には、市場メカニズムがきちんと機能した結果生じる欠陥という短所があります。その一つが、格差問題です。市場メカニズムがきちんと機能して需要と供給が調整されるとします。すると、例えば需要のない労働力の価格はどんどん下がってしまい、極端に言えば、時給10円でも買い手がつかないケースが生じてしまいます。しかし、これではまともに暮らせない労働者が大量に生まれて、格差が拡大してしまいます。

さらにもう一つ、コントロールできない景気変動という問題があります。市場は需要と供給を調整する素晴らしい機能を持っていますが、ときに暴走します。景気変動が緩やかな範囲の中に納まっていればいいのですが、市場の機能だけに任せていると、「大恐慌」が発生します。1929年に起きた「世界恐慌」はまさにそれでした。

これらの欠陥に対応するためには、国家が市場に介入して、市場をコントロールする必要があります。つまり、(1)「市場の失敗」への対処(2)格差への対処としての所得再分配や社会保障(3)景気の安定化─この三つに政府が対処することが不可欠で、こうした対応とセットにしなければ、市場経済は安定して成立しません。こうして人類は、市場という仕組みを上手に活用しつつ、その欠陥をコントロールする必要があるという経済原理に到達しました。

市場の中の労働市場

では、市場経済を大まかに認識してもらった上で、労働組合はその中でどのような役割を果たしているのかを解説しましょう。先ほど、市場経済の欠陥を是正するのは政府の役割だと説明しました。政府がその役割を果たすよう先頭に立って促すのが労働組合の役割です。なぜなら、労働組合は生産にも消費にもかかわる労働者を束ねる組織だからです。私はこれを労働組合の社会的政治的役割だと呼んでいます。

さらに言えば、労働組合は市場経済の成立のために、もっと根本的な役割を果たしています。なぜかといえば、市場経済が成立するためには、財・サービス市場だけでなく、「労働市場」が安定して成立していることが不可欠だからです。ここがポイントです。

労働市場を経済原理から考えてみましょう。労働市場では労働力が売買され、企業の需要に対して労働者が労働力を供給します。その需要と供給に合わせて労働力の価格が調整されます。

例えば、需要側である企業は、労働力の価格が高い時には労働力の購入を控え生産を先送りすることができます。しかし、もう一方の供給側である労働者は、「今日は労働力の価格が低いから、明日売ることにしよう」ということができません。なぜなら、その日の労働力は、その日にしか売ることができないからです。これは労働力というものが、生身の人間が提供するものだから起こります。

そのため、その日の労働力は、需要がなく、その価格がたとえ1円でも、その日のうちに売るしかありません。そうした労働力の性格に対して、需要側である企業は労働力をいつ購入してもいいことになります。この状態で市場が成り立っていると言えるでしょうか。成り立っているとは言えません。

労働市場が成り立たないということは、市場経済も成り立たないということです。そのため先人たちは市場経済を機能させるために試行錯誤をしてきました。具体的には労働基準法や最低賃金法などの労働法を整備して、労働市場に市場経済の「フリ」をさせてきたのです。

市場経済のルールでは、供給側が話し合いをして価格をつり上げたり、供給を制限したりすることは、競争や自由な取り引きを妨げる行為として禁止されています。しかし、労働市場に限ってはこうしたルールが団結権やストライキ権といった形で認められています。これを認めないと労働市場が市場の「フリ」ができなくなってしまうからです。

市場経済たらしめる存在

私たちは市場経済という仕組みを使って暮らしを豊かにしています。市場経済を機能させるためには、労働市場が機能していることが必要です。そして、労働市場を機能させるためには、労働者に「特権」を与えることが必要なのです。

つまり、市場経済を市場経済たらしめるのは労働組合の存在そのものです。労働組合がその機能をしっかり果たさないと、市場経済の欠陥がむき出しになります。従って、その国の市場経済がどの程度のレベルなのかは、労働組合がどれほど存在し、どれだけの供給独占力を持ち、経営者にワークルールを実行させるかにかかっています。日本経済はここ二十数年低迷を続けていますが、その要因の一つは労働組合が機能を発揮できていないことにあります。

このように、労働組合はこの経済社会において、根本的で決定的な役割を担っています。おわかりいただけたでしょうか。労働組合の皆さんはぜひ誇りを持って労働組合の活動に取り組んでほしいと思います。それが経済社会を正常に機能させるために欠かせない行為なのです。

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