特集2018.03

労働組合って何するところ?何をしている?「労働組合」って何で必要なんですか?情報労連書記長が答えます

2018/03/15
労働組合って何で必要なんですか?4月に入社してきた新入社員にそんなことを聞かれたら、あなたはどのように答えますか?情報労連の書記長が日常の活動に従事する視点から疑問に答えます。
柴田 謙司 情報労連書記長

Q1 労働組合って何で必要なんですか?

昨年、話題になったテレビドラマ『陸王』をご覧になりましたか?主人公の勤める会社が危機に陥る場面を覚えている人もいるでしょう。役所広司ふんする社長は、会社が存続するために必要な融資を受けられるかどうかという場面で、幹部のみならず従業員全員と対話をしながら危機を乗り越えていきました。失敗すれば従業員の整理解雇に行きつく場面です。社長の行動が会社を救いました。その後、会社が再建した際には従業員は増えていました。利益もおそらく従業員の賃金に還元されたことでしょう。

このような会社であれば労働組合は必要ないかもしれません。しかし、テレビドラマが現実ではないように、すべての社長が「役所広司のような社長」であるわけではありません。たとえ社長が役所広司のようであっても何かの事情で交代してしまうかもしれません。

むしろ、ドラマの中の競合他社は風通しが悪い雰囲気でしたし、現実には「ブラック企業」という言葉が表すように、法的知識を持たず、従業員とのコミュニケーションも取らず労務管理をしている企業が随所に見受けられます。

私たちが生きているのは、テレビドラマの中ではなく、現実世界です。そうした現実の中で、会社が危機に陥った時、経営者と従業員が対話できる場をつくれるでしょうか。会社が利益を生み出したとき、従業員に公平に配分するための話し合いの場をつくれるでしょうか。現場で起きていることを経営者に伝える場をつくれるでしょうか。

厳しい現実世界の中で、経営者と働く人が対等な立場で話し合いできる場をつくるのは容易ではありません。だからこそ、日本国憲法28条は団結する権利と団体交渉する仕組みと団体行動する権利を保障しています。「理想の職場」をつくるためには、こうした権利を行使することが大切なのです。

労働基準法が定めているのはあくまで最低限のルールです。それより働きやすい条件・環境にしていくためには、労使が話し合ってより良いルールをつくっていかなければなりません。その話し合いの場となるのが、労働組合による労使交渉です。

現実世界はテレビドラマと違うからこそ、労働組合が必要なのです。

Q2 会社に長く勤めるつもりがないので労働組合に入るつもりはありません。

憲法が職業選択の自由を保障しているように、転職するのは個人の自由です。しかし、リストラや労働条件の不利益変更に直面した場合に自分の意見を会社に伝えたいとしたら?労働組合に入っていた方が意見を伝えやすくなりますし、会社も多くの人が加入している労働組合だからこそ組合の意見に耳を傾けます。

また、長く勤めるつもりはないと言っても辞めるために入社したわけではないでしょうし、働くからには働きやすい環境の方がいいですよね。例えば、あなたの周りでパワハラが起きていたらどうしますか?病気やケガにあったらどうしますか?一人で交渉するより、労働組合があれば心強いのではないでしょうか。

会社の発展や、より良い職場環境をつくるためには、すべての従業員が参加して、労使の信頼関係を構築することが大切です。転職した先の会社にも労働組合があった方が安心できるはずです。

Q3 労働条件に不満がないので労働組合に入る必要を感じません。

今あなたが享受している労働条件は、経済成長と競争を勝ち抜いてきた結果でもありますが、先人たちの労使交渉の結果でもあることを忘れないでほしいと思います。

例えば、突然の環境変化が起こって会社から労働条件の引き下げを提案されたらどうしますか?日本がインフレになって賃金が上がらないと買い物もできないようになったら?今の労働条件を「維持」し、「向上させる」ためにも、労働組合が日頃からアクションを取ることが必要です。今の条件に不満はなくても、環境の変化はいつ訪れるかはわかりません。日頃から労使が情報を共有し、環境の変化に対応することが大切だと思います。

Q4 政府が賃上げしてくれるので、労働組合や春闘は不要ではないですか?

労働組合がなければ会社組合から賃上げを要求されませんし、会社からすれば求められてもいない条件アップに応える道理もありません。経営者も簡単に賃上げしないでしょう。

従って、政府がいくら経団連に賃上げを要請しても、労使が話し合う場がなければ、それは「絵に描いた餅」です。もちろん、会社が人材不足を理由に労働組合がなくても賃上げする場合もあるでしょう。しかし、経営者が理由もなく簡単に賃上げするほど、経営は甘くありません。労働組合が声を届けるところから賃上げ交渉が始まります。

Q5 春闘って「出来レース」じゃないですか?

春闘を「出来レース」にするような「甘い」経営者はいません。経営者は少しでも利益を創出するために懸命です。「出来レース」などと甘いことは言っていられません。

従って、労働組合側も交渉で少しでも有利な条件を引き出すために懸命にがんばります。そこで大切なのは、団体交渉の席上での「交渉術」だけではありません。交渉中に発せられる言葉にどれほどの「重み」があるのかが重要です。例えば、労働組合にどれだけの人が加入しているか。それだけでも、交渉の結果は変わります。迫力が違います。加盟組合によってはストライキ投票を実施して、スト権を背景に交渉に臨んでいます。仮にストライキとなれば、事業が停滞する事態に直面します。

春闘は毎年、決まった時期に妥結が集中しますが、相場を形成し波及効果を高めるためには、一定の日時を意識することも当然のことだと言えます。

Q6 労働組合がなくても個人ががんばった方が賃金は上がるんじゃないですか?

個人ががんばることは大切です。また、個人のがんばりを労働条件に反映する仕組みも望ましいことだと思います。しかし、そのことと、会社全体の人件費を引き上げていくこととはまた別の話です。

再び『陸王』の話になりますが、竹内涼真演じる茂木選手がマラソンで優勝した際のインタビューで「自分だけの力で優勝したんじゃない」と答えていました。会社もこれと同じで、個々人がそれぞれのポジションで働くことでチームを動かしています。個人の労働条件は、チーム全体を底上げ・底支えをするという基本の上に設計されることが重要です。

Q7 労働組合って政治活動ばかりしていませんか?

組合員の労働環境・生活環境をよくしていくためには、個別企業の労使関係だけでは解決できないことがたくさんあります。従って、それらの問題を解消していくために政治活動は必要です。

選挙で当選するためには、よほどの有名人でない限り、候補者の人間性や政策を浸透させるためにかなりの労力を割かなければなりません。

Q8 組合費ってどういう風に使われるのですか?

情報労連では主に、▼調査に基づく政策の立案▼法律の周知活動▼加盟組合の組織強化▼政治啓発活動▼活動や政策の広報▼社会貢献活動─などに取り組んでいます。そのための費用として用いています。労働組合は、人と人とのつながりが重要な組織です。こうした活動を支える役員やスタッフの人件費もかかります。また、47都道府県に拠点があるので、必要な活動資金を交付しています。これに加えて、連合や国際労働組合への加盟費にも組合費を用いています。

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