IT業界の実態をもっと知ろう「多重下請け」「偽装請負」
悪用されるSES契約の問題点
SESに特化して情報発信
SES契約の問題点をTwitterで発信するアカウントがある。「なかよし@SESちゃん4コマ漫画」(アカウント:@nakayoshi251、以下「なかよし」さん)だ。SES契約にテーマを絞って情報発信をする人は珍しい。なぜ、SES契約に特化した情報発信をしようと考えたのか。
「学生や就活生にSES契約の実態を知ってもらいたいと思ったのが第一の理由です。就活中の大学生が得る情報と、実際にSES契約で働いている人たちの実態が、あまりにかい離しています。そこに疑問を感じて活動を始めました」と「なかよし」さんは話す。
情報は主にインターネット上で収集している。その中で、最も多く指摘されているSES契約の問題点は、「偽装請負」だ。
「準委任契約で客先常駐を行うのがSES契約です。これを前提にすれば客先から指揮命令を受けてはいけないのですが、実際には客先の指示に従って働いている労働者がいます」
「偽装請負だと自社と常駐先からと二重で命令されます。客先からは次々と要求を出され、『もっと残業してほしい』、自社からは『客先の指示に従え』と言われるという事例をよく見聞きします」
Twitterに投稿した、元請けのエンジニアとSES契約で働くエンジニアの違いを描いた四コマ漫画(図表)には、3200回超のリツイート(拡散)があった。
「寄せられた声の多くは共感を示すものでした。例えば、『ホントここにあるとおり。だからSES企業を辞めたんだ』とか、『身体を壊して会社を辞めた』というものがありました」
「一方で、中にはSES企業でよかったという声もありました。常駐した現場の環境が良かったという感想です。客先常駐では、現場によって〈ブラックな環境〉になったり、〈ホワイトな環境〉になったりします。どの現場に常駐するかわからないため、インターネット上では、〈客先ガチャ〉と呼ばれています」
#SESクソ体験
Twitter上には、「#SESクソ体験」というハッシュタグすら存在している。ハッシュタグには、多重派遣などの問題を指摘する声が数多く寄せられている。「なかよし」さんのマンガにも「自社と常駐先との間に4社挟まっていたりした」という反響があった。
「まさにこれです、と。自社の営業の人と駅前で待ち合わせをしたら、別のSES企業の営業の人に連れて行かれる。そうして次の場所に行ったら、また違うSES企業の営業の人に引き渡されるという話もありました。他社の名刺を渡される場合もあり、自分は一体どの企業に所属しているのかわからなくなるという声もありました」と「なかよし」さんは話す。
「とはいえ私は、SES契約自体が悪なのではなく、運用次第ではまっとうな事業として存在し得るはずと考えています」
「そのためにも行政が偽装請負や多重下請けへの対応をもっと強化したり、発注側の企業が請負・準委任と派遣の違いを理解した上でまっとうな取り引きをしたりすることが大切です。就活生には業界構造の実態をもっと知ってほしいと思います」
労働組合の役割
労働組合に期待することはあるだろうか。
「インターネット上で情報を収集する中で、労働組合の話が出てくることはほとんどありませんでした。SES契約で働いている人の中には、〈偽装請負〉が違法だと知らない人もいます。そうした人たちが違法状態にあることを認識すれば、労働組合に入ろうという動きが出てくるかもしれません」
多重下請けや偽装請負で苦しんでいるITエンジニアに対する積極的な働き掛けが求められている。