常見陽平のはたらく道2018.10

なれ合いは労使協調とは言えず
労使双方を弱体化させる

2018/10/16
健全な対立をしなければ互いの力は弱くなってしまう。政治の世界も、労使関係の世界も同じことが言えるのではないだろうか。

自民党総裁選の告示2日前、私は立候補した石破茂衆議院議員を衆議院第二議員会館でインタビューした。「正直、公正、石破茂」というスローガンの真意、さらには「働き方改革関連法案」の審議は「正直、公正」と言えるものだったかを問うためだった。石破氏は法案については、与党の立場で賛成したものの、そのプロセスにおいて国民の理解を得るものに達していないのではないか、と明言した。

インタビューの最後に私はこう切り出した。「実は、自民党は今が一番もろい状態なのではないですか?」と。安倍一強、自民一強というが、それは消極的な支持から成り立っていると考えたからだ。派閥の健全な対立が弱まり、逆に組織のエネルギーが退化しているのではないか。なんせ、総裁選の対立候補が1人というのは、後継者が少ないとも言える。もろさを物語っていないか。

石破氏は、少し黙った後、話し始めた。「自民党がもろい状態は潜在的に続いていると思います。野党が弱い上にバラバラだから、強く見えるだけじゃないかと」。相手がエラーばかりしているチームだから勝てる。野党の支持者にとっては耳の痛い話であり、人によっては憤慨するかもしれないが、彼は自民党の強さは野党の弱さに救われているとコメントした。しかし、相手が弱くなると自分も弱くなる、安倍一強に何も言わないと、そのままの弱いレベルで完成してしまうと、危機感を募らせていた。

安倍晋三氏が総裁選に勝利し、3選を果たした。石破氏は残念ながら敗れたが、当初の予想よりも票を獲得。善戦したと言っていい結果となった。

この石破氏の「相手が弱いと組織は弱くなる」論は、労使ともに意識しなくてはならないのではないだろうか。日本の労使関係は、協調路線にあるとされてきた。そうであるがゆえに「なれ合い」や「御用組合」などとやゆされてきた。労働問題をテーマにした講演会の会場などで、労組関係者と名刺交換すると「ウチは典型的な御用組合でして……」というあいさつまでされる始末である。

健全な対立をしなければ、互いに力は弱くなる。特に来年度からは働き方改革関連法が施行される。この法律については、労使ともに賛否があるだろう。労働時間と賃金を切り離す高度プロフェッショナル制度とどう向き合うかなど、論点は山積している。しかし、通ってしまった法律とは向き合わなくてはならない。長時間労働是正や同一労働同一賃金、有休取得の義務化、労働時間の把握義務化などは労使双方が、真剣に向き合い、議論しなくてはいけない。そうしなければ、不正な運用がまかり通ってしまう。労使双方が疲弊してしまうことだって考えられる。労働者を守るためにも、真剣な議論が必要だ。

あるべき労使協調とは、なれ合いの「協調」ではなく、お互いを一目置くライバルと認め、真剣に議論することではないか。そうでなければ、互いが弱くなるのだ。

安倍一強、自民一強と言われることにため息をつく人も多いことだろう。しかし、われわれはそのもろさも含めて反面教師としなくてはならないのだ。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学専任講師。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所客員研究員。『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『普通に働け』(イースト新書)、『僕たちはガンダムのジムである』(ヴィレッジブックス)、『「できる人」という幻想』(NHK出版新書)など著書多数。
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