特集2018.11

通信産業のいまIoTや5Gが導く「コラボ」
通信事業者は異業種と「共創」の時代に

2018/11/13
新しい技術が次々と生み出される情報通信産業。その中で通信事業者を巡る環境も変化している。通信業界は今後どのように発展していくのか。識者に見取り図を聞いた。
岸田 重行 株式会社情報通信総合研究所
ICTリサーチ・コンサルティング部
上席主任研究員

新技術の発展

AI、IoT、ビッグデータ、5G─。昨今の技術発展では、この四つが関連して語られます。これらはそれぞれ異なる概念ですが、つながることで大きな付加価値が生まれます。通信業界というと「5G」に注目が集まりがちですが、5Gはさまざまな技術の一つに過ぎません。一つずつの技術発展への注目も大切ですが、さまざまな技術発展とそのかかわり方をトータルな動きで捉えながら理解することが大切だと思います。

例えばIoTは、その一つの典型です。IoTとは、ものとインターネットがつながることです。デジタルな情報になっていなかったものをデジタル化してインターネットに呼び込むことがIoTの特徴です。スマートフォン以外にもインターネットとつながるものがどんどん増えています。椅子やコーヒーカップにもインターネットがつながるかもしれません。さらには、AIが搭載され、5Gでものとインターネットがつながるように変化していくのでしょう。

社会基盤とつながる

ここに通信事業者はどうかかわってくるでしょうか。IoTで、ものとクラウドを結び付けるのは通信であり、通信事業者はそれを支えています。その一方で、インターネット側のサービスを見ると、近年はIT企業がサービスをけん引してきました。クラウドサービスを展開するグーグル、アマゾン、LINEといった企業が続々と新サービスを提供し、その使い勝手を、アップルやソニー、サムスン、ファーウェイなどのデバイスメーカーが実現させてきました。通信事業者は新しいサービス、使い勝手を通信で支える側だったと言えます。

とりわけ、この間、通信事業者のビジネスモデルは個人が所有するスマートフォンを中心に構築されました。

加えてこれからは、社会基盤を対象としたビジネスに通信業界がより本格的に取り組むことになるでしょう。例えば「スマートシティー」といった、市民向けの行政サービスにICTを活用しようという動きが強まっています。実際、通信事業者は企業のみならず、自治体やスポーツ団体など、社会の基盤を担っている組織に対して、ICTを利活用した提案を積極的に行っています。通信を支えるだけではなく、社会における課題を解決するために「AI、IoT、ビッグデータ、5G」を組み合わせて、通信事業者がトータルに解決策を提案する時代に入ったところです。

異業種とのコラボレーション

社会基盤向けのソリューション提案では、単独の事業者だけでシステムを構築するのは困難です。例えば、スポーツ観戦の際にスマートフォンでベンチの画像が見られたり、選手の情報がわかったりする「スマートスタジアム」をつくろうとすれば、ネットワークを構築する人だけではなく、デバイスを開発する人、コンテンツを制作する人など、さまざまな分野でノウハウやプロダクトを持った人がコラボレーションしなければなりません。今、多くの通信事業者がこうしたコラボレーションに力を入れています。

そのような意味で、通信事業者は同業他社との「競争」とは別に、異業種との「共創」へ、という傾向が強まっています。トヨタとソフトバンクの提携のニュースが大きく報道されましたが、この動きもこうした流れの延長線上にあります。世界のトヨタといえども、新しい付加価値の創造に向け、異業種とのコラボレーションが必要と判断したということです。

「自動化」をポジティブに

では、今後の展望はどうなるでしょうか。これまでの情報通信は、スマートフォンを中心に設備投資や人材育成、規制が行われてきましたが、今後はこれを見直していく必要が出てきます。

特にスマートフォンのための規制を今後どのように見直して、IoTに適用させるかを検討していかなければなりません。例えば、機器認証に関する規制。IoTの発展で電波を発する機器が爆発的に増えたときに、現在と同じような認証システムのままでよいのか。安全性を確保しつつも、時代に合わせて規制を見直していく必要があります。

働く人に対する影響はどうでしょうか。AI、IoT、ビッグデータ、5G。これらの技術を広く捉えたときのキーワードの一つが自動化です。自動化により単純作業は効率化され、作業の手間を省くことができるようになります。働く人にとっては仕事の量と質が変わってくることを意味します。面倒な作業の手間を省くことで生まれる余裕をどのように用いるか、という現実に直面することになると思います。

自動化に対してネガティブなイメージを抱く方もおられるかもしれませんが、危険な作業を人間がしなくても済むようになる、その作業の代わりにもっと違うことができるようになる、とポジティブに捉えるべきです。

一方で、コラボレーション推進を担う各社の法人営業部門は、付加価値創造に向けてもっと人手が必要になるのではないでしょうか。中小企業にはICTソリューションに関するニーズがまだまだたくさんあります。人手を掛ければもっと新たなニーズを掘り起こせるはずです。AIやIoTが広がっても、手作業を含め人間的なフィーリングが求められる領域は残るでしょうし、それがむしろ付加価値になっていくのでしょう。

チャレンジできる刺激的な業界

通信業界は今、とても刺激的な業界です。新しい技術が続々と登場し、コラボレーションをはじめとした新しいビジネスの立ち上げに携わることもできます。本質的にはもっと人が求められる分野です。

通信産業はこれまで、大きな船(システム)を大勢の人たちで動かすという設備産業でした。しかし時代の流れとともに大きな船は自動化が進み、各々が小さな船で新しいことにチャレンジして価値を生み出す産業に変わってきています。

働く人に対しても、発想力やクリエイティブ性が今まで以上に求められるようになっています。通信産業は新しいものを提案することで、日々新しく、かつ社会に貢献できる業界です。

労働組合に対して求められることも変わってくると思います。労働組合は、企業側に対して現場からもっとクリエイティブな提案をしてもよいのではないでしょうか。トレンドを先取りし、さまざまな変化がもたらす課題を論点として企業側に意見を求め、企業側もそれに対して真摯に応えていく、というやりとりをもっと行っていくべきだと思います。

特集 2018.11通信産業のいま
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
志進
バックナンバー