特集2018.11

通信産業のいま携帯ショップで働く人の声
提案プランの複雑化などに対応

2018/11/13
大手通信キャリア3社の携帯電話販売代理店で実際に働く人たちの声を聞いた。代理店や通信キャリアによって事情は異なるが、共通する声も聞こえてきた。

長くなる接客時間

「提案するプランが複雑化し過ぎて、ショップ店員もついていけなくなりつつある」(Aさん)

「いろいろな仕事を経験してきたが、この仕事は覚えることが圧倒的に多い。私が入社した7〜8年前より覚えることは10倍くらいに増えている」(Bさん)

「説明事項が増え過ぎて、入社2〜3カ月後の社員では説明しきれない」(Cさん)

携帯電話販売代理店の従業員に話を聞くと、説明事項の多さや複雑さを指摘する声が繰り返し聞こえてきた。大手通信キャリア3社の代理店、すべてで共通していた。

「機種変更だけで2時間くらい」(Cさん)、「機種変更で最低1時間、データ移行や設定などを含めればさらに長くなる」(Bさん)

提案するプランが複雑になり始めたのは4年ほど前からだとCさんは話す。通話定額プランやパケット定額制の登場に、電気通信事業法の改正による行政の指導が加わり、店舗での接客時間は長時間化した。そこに固定回線やタブレット、クレジットカード、電気、ガス、水道などのオプション契約の説明が加わる。背景には、格安SIMの登場などで、通信キャリアが他社と差異化を図るためにさまざまな商材を付加価値として販売するようになったことがある。

Cさんは「機種変更で2時間かかった後にオプションを提案することも。相当な接客スキルがないと契約を取れない」。「個人情報や電気通信事業法などのコンプライアンスを踏まえ、お客さまに説明漏れがないようにし、その上で営業の目標と格闘しないといけない。そこが一番苦しいところ」とAさんは打ち明ける。さらに、他社のサービスと比較提案するために、他社の固定通信のサービス内容を理解しておく必要もある、とBさんは話す。

ショップスタッフは多くの説明事項を顧客に確認するが、それでもトラブルは起きる。

「僕らでも覚えるのが大変なのに、それがお客さまに100%伝わるかというと正直、なかなか伝わらない。細かく説明するようにしても『言った、言わない』はどうしても起きる」(Bさん)、「お客さまに確認をしてもらっても、『案内した料金と違う』ということは起きてしまう」とCさんは話す。

現場から見たインセンティブ

携帯電話販売代理店には、一定の指標に基づいて、通信キャリアからインセンティブが支払われる仕組みがある。指標は通信キャリアによって異なるが、現場からさまざまな声が聞こえてきた。

「よく聞くのは、『これ、このお客さまに必要かな』と疑問を感じながら提案しないといけない場面があること」(Dさん)、「厳しい営業指標と目の前のお客さまの間に挟まれて苦しんだことがある。現場の感覚とずれた指標が落ちてくることはある」(Aさん)、「本当に提案したいものと違うものをお客さまに提案していることが嫌になって辞めていく人もいる」(Cさん)

Bさんは、「『価格訴求』から『価値訴求』に変わりつつある。例えば、タブレットを買うとそれだけ通信料は高くなるけれども、生活が豊かになるという価値をお客さまに提案している」と話す。

指標の評価の仕方もキャリアによって異なるが、厳しく変化しているという声が聞こえてきた。

「商材が増えたことで、商材ごとの売り上げをチェックするようになった」(Dさん)、「数字がこうなっていると毎日突きつけられている感じ」(Cさん)

最低ランクの評価が一定期間に複数回あると店舗が閉鎖される場合もある。目標の達成に向けて追い込めば数字は上がる。だが、そのせいで職場を辞める人も増え、仕事のノウハウが低下するという悪循環が起きてしまう店舗もあるという。

将来への不安

「スタッフの充実度が高い店舗は、営業などの指標も高い。活気があって雰囲気が違う」(Cさん)、「自分に余裕がないのに、他のメンバーやお客さまにいいサービスを提供できない」(Aさん)、「ショップの店員が仕事しやすくする環境をつくることが大切」(Bさん)

話を聞いた中で、従業員満足度が高いショップこそ、いいサービスが提供できるという点に全員がうなずいた。「ES(従業員満足度)なくして、CS(顧客満足度)なし」は現場の共通認識と言える。現場の労働条件についてBさんは、「労働時間は昔に比べるとかなり短くなった。有給休暇も使える」と話す。Cさんも「ショップの残業時間は多くて月に10〜20時間程度。それほど多くない」と話す。Bさんの職場ではかつては日付が変わるまで接客対応していたケースもあった。だが、通信キャリアも含め、コンプライアンスの意識が浸透し、長時間労働は改善されてきたという。

総務省では携帯電話料金やショップでの待ち時間短縮などが議論されることになっている。現場視点での思いを聞いた。

「人手不足と言われる中で、ショップスタッフには自分の雇用がなくなるという感覚は少ない」とCさんは話す。しかし、その一方で、「自動化が進んでショップがいらなくなる時代が来るかもしれない。右肩上がりで成長してきた業界なので、成長が頭打ちになったことで、これから現場の声はもっと上がってくるはず」(Aさん)、「キャリアの業績に影響することで自分の労働条件に影響を及ぼすかもしれない」(Bさん)と心配する声も上がる。

携帯電話の普及を支えてきたのは、販売の第一線でサービスを提供してきた働く人たちだ。今後の動向を語る上でも、働く人たちの存在を視野に入れた議論が求められる。

特集 2018.11通信産業のいま
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー