「賃金水準」追求を強化
賃金実態の把握・賃金制度の導入が不可欠
賃上げで経済に力強さを
連合は5年連続で賃上げ方針を掲げ、多くの構成組織・組合が実際に賃上げを勝ち取ってきました。これは大きな成果です。また、中小組合の中には大手組合の賃上げ率を上回る組合も出てきました。これも大きな前進と捉えています。
しかし、これだけ一生懸命賃上げに取り組んでも、経済の自律的成長につながっていません。数字を見ても明らかです。GDPや企業業績は緩やかながら回復傾向にあるものの、GDPの6割を占める家計の最終消費(個人消費)は伸び悩んだままです。連合は、賃上げを起点にした内需主導の経済成長をめざしてきましたが、いかんせん賃上げが個人消費の拡大に結び付いていません。
裏を返せば、金融政策で経済指標が支えられているものの、実態としては力強さを欠く経済状況になっているということです。
2019春季生活闘争の構想を練るにあたり、春季生活闘争の営みの成果を広く社会へ波及させていくには何が必要なのかについても議論してきました。連合700万組合員のうち、賃金改善闘争に参加する組合員数は430万人ほどです。賃上げの流れを組織内だけでなく広く社会全体に波及させなければ、個人の消費マインドは上向かないでしょう。
賃金水準の追求を強化
連合の2019春季生活闘争方針はこうした議論を踏まえて組み立てました。方針には、社会全体を俯瞰したとき、企業規模間、雇用形態間などの格差が依然として縮まっていないという課題認識を書き込みました。GDPの6割を占める個人消費が回復しなければ、「経済の自律的成長」という社会目標は達成されません。そのため、2019春季生活闘争でも月例賃金の引き上げにこだわることを強調しました。賃上げ要求については、2%程度を基準とし、定期昇給相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め4%程度を目標に掲げました。
さらに2019春季生活闘争では、闘争の成果を組織内外に広く波及させていくためにも、春季生活闘争の構造の再構築に向けた検討に着手するとしました。足元の最大の課題である中小組合や非正規労働者の賃金を「働きの価値に見合った水準」へ引き上げていくためにも、2019年をその足掛かりを築いていく年と位置付け、賃金の「上げ幅」のみならず「賃金水準」を追求する闘争を強化することを呼び掛けています。これまでも「賃金水準」を追求する運動方針を掲げてきましたが、今年はこれを「強化する」ことを強調しました。
賃金実態の把握が不可欠
月例賃金の引き上げは、名目賃金の到達目標の実現と最低到達水準の確保、すなわち「賃金水準の追求」にこだわる内容とする、としました。構成組織には産業ごとの個別銘柄の最低到達水準・到達目標水準を明示し、社会的共有に努めるよう要請しています。
「賃金水準の追求」の強化を呼び掛けたのには背景があります。闘争で賃上げ原資を獲得しても、その原資がどのように配分されたのか、とりわけ中小企業で把握しきれていない問題があります。賃上げ原資を勝ち取った後に賃金の水準がどうなったのか、どこに配分されたのかを検証しなければ、賃上げの効果を実感することはできません。
また、賃金の「上げ幅(率)」だけを追い求めていると、大企業と中小企業の格差を是正できません。格差是正のためには、賃金の到達目標水準を明確にし、それをめざした取り組みが求められます。
そのために不可欠なのが、賃金実態の把握です。各組合が組合員の賃金実態調査をもとに上部団体が設定する最低到達水準・到達目標水準との差の有無などを確認し、その到達に必要な額を要求・交渉することが求められます。賃金実態を把握してはじめて、他社や社会的な水準との比較が可能になりますし、自社の賃金制度のひずみやゆがみなども明らかとなります。さらに、把握した賃金データを連合「地域ミニマム運動」に提供いただくことで、地域における賃金相場の形成にもつながります。構成組織(産別)には、加盟組合における賃金実態の把握と賃金制度の確立に対する支援を要請しています。
社会的なメッセージの発信
闘争方針を議論する中では、「賃金水準」をどう設定するかに意見が集まりました。産業横断的な水準を示せるのか、職種や銘柄などを指定した水準を示せるのか、などさまざまな意見をいただきました。一言に「賃金」と言っても、これまでの労使交渉の積み重ねの結果であり、構成組織ごと・企業ごとにその範囲は異なります。連合で産業横断的な賃金水準を比較するための「モノサシ」をつくろうとしても、業種・業態ごとに賃金制度や賃金実態が違うという難しさがあります。産業の「モノサシ」はその産業を代表する構成組織でしかつくることはできません。すでにこうした指標を持っている構成組織も多くありますが、2019春季生活闘争を足掛かりとして、「賃金水準」を追求する闘争の基盤を整える運動を展開してほしいと考えています。
一方、2019春季生活闘争では、中小組合の働きの価値に見合った賃金水準を確保するため、これまで中小共闘方針で示していた指標を、「社会横断的水準を確保するための指標」として、闘争方針本体に持ってきました。これは、中小組合の「底上げ・底支え」「格差是正」の取り組みを闘争のど真ん中に据えるという決意と合わせ、「賃金水準」を追求する取り組みが社会で理解を得られるようにするためです。この指標の確からしさについても、構成組織・地方連合会の皆さんと一緒に今後追求していく考えです。
高卒初任給を目標水準に
連合はこれまで非正規労働者の賃上げについて、「誰もが時給1000円」を目標にしてきましたが、「誰もが時給1000円」は地域別最低賃金の到達目標であること、同一労働同一賃金の実現に向けた法整備が行われることなどを踏まえ、そのあり方を見直しました。具体的には、初職に就く際の基準として高卒初任給の参考値(17万2500円)を時給換算した1050円を新たな最低到達目標としました。すでにこの額を上回っている場合は、正社員との均等待遇の観点から改善を求めるなど、非正規労働者についても働きの価値に見合った水準の確保を追求していきたいと思います。
取引慣行の見直しを
「賃金水準」の確保を追求する運動を進める上では、中小企業の賃上げ原資確保のための取引の適正化の推進が不可欠です。「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配」を産業横断・社会横断の取り組みとして、社会的な認知から適正さの担保に向けて、もう一段、力を入れていきたいと思います。取引の適正化は働き方の見直しでも重要です。特に、時間外労働の上限規制は大企業先行で施行されますが、中小企業に負担感の偏在が生じないよう、働き方も含めた取引の適正化を職場段階から実践していきたいと思います。自分たちの働き方の見直しを、自分の職場だけでなく、企業を超えて、仲間の働き方の改善につなげていくことは、まさに、労働組合ならではのアプローチです。
賃上げと働き方の見直し、そして取引の適正化を同時に推し進めていきたいと思います。
「賃金水準」を追求する闘争の強化には、構成組織の皆さんの力が不可欠です。総掛かりで中小組合のサポートをしていただくよう強く期待しています。