新年号企画 [座談会]地方政治のここに注目地方から全国へ 全国から地方へ
地方政治のポテンシャルを知ってほしい
かまた さとる 1983年、日本電信電話公社入社。1999年、熊本県議会議員に初当選。現在5期目。民進党熊本県連代表などを歴任。情報労連・NTT労働組合自治体議員団幹事長を務める。 (右上)本目 さよ 台東区議会議員
ほんめ さよ 2006年、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・イントラマートに入社。2010年、台東区議会議員に初当選。現在2期目。キャッチフレーズは「子育て、本命。ーやさしい政策ー」。政策のテーマは「子ども」「女性」「開かれた区政(ICT)」の3本柱。 (左下)関根 ジロー 松戸市議会議員
せきね じろー 2007年、NTT東日本入社。2010年、松戸市議会議員に初当選。2018年11月に3期目当選。避難者カード標準化や学校トイレの洋式化、カラーユニバーサルデザインなどを推進。「マニフェスト大賞」で7度受賞。 (右下)野田 三七生 情報労連中央執行委員長
幅広い活動範囲
野田2019年は夏に参議院議員選挙が、春には統一地方選挙が実施されます。今回は地方自治体議員の皆さんにお集まりいただき、地方政治の大切さなどを考える座談会にしたいと思います。
まずは、簡単に自己紹介をお願いします。
鎌田熊本県議会議員を5期務めています。情報労連・NTT労働組合自治体議員団の幹事長も務めています。地方にはさまざまな課題がありますが、熊本の場合、特に熊本地震からの復興が近年の大きな課題です。地震から2年8カ月が経過する中で課題も見えてきました。例えば、住宅再建。国の被災者生活再建支援法では、全壊した家の建て替えに300万円の支援金が出ますが、それだけでは足りませんし、国の制度では地盤強化に対する支援金がありません。そのため、熊本県では地盤強化に対して独自の支援金を出してきました。
全国ではさまざまな災害が起きています。国の制度だけでは足りない部分について、熊本県の被災地としての経験を全国に広げる取り組みが大切だと考えています。
本目台東区議会議員の本目さよです。29歳で初当選して2期、8年目を迎えました。プライベートでは2018年6月に出産しました。
私の政策は「子ども、女性、ICT」が3本柱です。地方議会を見ると、若年層女性がとても少ないです。台東区議会の場合、女性は32人中6人です。全国的に見ると多い方で、全国の地方議員のうち、20〜30代の女性議員は1%未満しかいません。この層の女性が議会にいないことで、議会の中でその声が取り上げられにくくなっています。同世代の人たちの声を聞き、問題解決に奔走しています。
関根松戸市議会議員の関根ジローです。11月に市議会選挙があり、皆さまのご支援をいただき再選を果たせました。前の任期では、「色覚チョーク」を市議会で取り上げました。「色覚チョーク」は、色弱者だけではなく、すべての子どもたちにとっても黒板の文字が見やすくなるチョークです。市議会で取り上げ、さらに全国の自治体議員とネットワークをつくって、それぞれの議会で質問してもらいました。その結果、全国的に「色覚チョーク」を導入する自治体が増えています。
地域での課題は?
野田ありがとうございます。近年のキーワードの一つは「地方創生」です。皆さんの自治体の状況はどうですか。
鎌田やはり人口減少が一番の課題です。熊本地震が人口流出に拍車を掛けているので、これをいかに打破するかが大きな課題です。熊本からの人口流出を防ぐために、県内の大学を卒業して、県内で就職した人に対して、奨学金の返済を免除する基金の創設を県議会で提案しました。今年度から実施されています。
野田東京は状況が違うと思いますが、どうですか?
本目台東区は人口が増えています。特に30〜40代が増えています。人口の増加は自然増ではなく、他の自治体から流入してくる社会増です。保育園をたくさん新設するなどしていますが、足りていません。区はここに税金を使っていますが、一方で「ふるさと納税」で本来入ってくるはずの税収が入ってこないという問題があります。「ふるさと納税」の趣旨は理解しますが、それが返礼品に代わってしまっているという点では問題を感じています。
野田東京はオリンピック・パラリンピックの準備の真っ最中で、人手不足という問題もあり、外国人労働者が増えています。
本目台東区は浅草観光などで多くの外国人が訪れますが、居住する外国人も増えています。国会では外国人労働者の受け入れ拡大が議論されていますが(11月27日現在)、実際に受け入れ態勢を整備するのは地方自治体です。
野田国は受け入れ拡大だけを先行して決めようとしていますが、実践するのは地方自治体ですね。松戸市の場合はどうですか?
関根松戸市は、都市と地方の中間で位置付けが難しいです。松戸市も社会増で人口が増えていますが、詳しく見ると外国人が増えています。高齢化と外国人への対策が喫緊の課題になっています。労働力としてだけではなく、「人」として受け入れなければ、今後トラブルが増えることは明らかです。
野田今後は、中国をはじめとして東アジア全体で人口が減少していきます。日本が魅力ある国になるためにきちんと制度設計しなければなりません。地方自治体の実態を見ないで拙速に受け入れ拡大を進めるのには問題があります。
SNSなど活用し情報を発信
野田地方政治を活性化させるために何が求められていますか。
鎌田熊本県議会は議席の8割以上を保守派が占めています。議席のバランスが悪いと議論も活性化しづらいという問題があります。多様な意見を反映させるために、選挙で勝って勢力分布を変えなければいけません。
本目若い世代の議会参加が必要です。特に働いている世代は、男性も女性も地方政治に接する機会が少ないです。この人たちの声が地方政治に反映されないのはとてももったいない。日常生活の中の困ったことでいいので、議員などに声を伝えてほしいと思います。例えば、区の施設に授乳室ができたけれど、カバンを置くスペースがないとか、ベビーベッドがあってもマットがないから寝かせられないとか、そういったちょっとしたことでもいい。そうした改善提案が暮らしやすい地域につながると思います。
野田住民の声はどう集めていますか?
本目私の場合、メールで要望をいただくことが多いです。保育などをテーマにブログで発信していますが、それを見て連絡をくださる方もいます。街頭で配布する区政レポートにウェブアンケートを付けて返信を待つとか、インターネットツールを活用した方法で試行錯誤しています。今の時代に即したゆるやかなネットワークができればいいなと思っています。
関根私もSNSを活用しています。こうしたツールを活用して、議会の情報を有権者に積極的に伝えていくことが必要です。
議会のルールも変えないといけない部分があります。松戸市議会は、議案に対する議員の賛否態度の情報を非公開にしています。どの議員が何に賛成して、反対したのか有権者にはわかりません。これでは、有権者からすると選挙のときに誰に投票すればいいか選びようがありません。議会の情報をもっとオープン化することで地方議会が活性化していくと思います。
議員ネットワークの強み
野田市民団体などとはどのようにつながっていますか?
関根私が「色覚チョーク」に取り組み始めたのは、駅頭行動をしている際に、学校の黒板が見えづらいと声を掛けてもらったことが始まりでした。それで調べてみると、「色覚チョーク」の問題に取り組んでいるNPOがあったので訪問して話を聞きました。それをきっかけに議会で質問したことで取り組みが実現しました。NPOなど特定の分野について活動している団体などと連携することで、より良い質問をつくれます。
さらに、議員同士のネットワークを使って、同じテーマの質問を各地の議会でしてもらいます。そうすると取り組みは一気に広がります。私がこれまで取り組んできた「学校トイレ洋式化」や「色覚チョーク」は、全国規模で報道されました。手法によっては、地方議会から全国規模で情報発信をすることができます。
野田議員同士のネットワークはどのように構築していますか?
関根今は個人的なネットワークの中でお願いしています。
本目似た問題を抱えている地域があるので、その自治体議員と相談したりしています。今ホットな話題や全国展開できる質問を議員同士で共有できるネットワークがあるといいですね。
関根そこから情報を仕入れて、自分の自治体で質問して、その結果を共有したり、質問原稿を共有できたりすればいいですね。
本目データベース化して検索できるのもいいですね。
関根テーマを決めて全国的に調査したりとか。
鎌田自治体議員団の調査項目を共有したり。
本目それぞれの行政がどう対応しているのかという情報があるとありがたいです。
野田日々の活動では大変なことも多いと思いますが、皆さん、楽しそうですね(笑)。地方議員のやりがいとは何ですか?
鎌田自分が提案したことが形になるとうれしいですよね。それによって喜んでくれる人もいますし。10個提案したうち、実現するのは一つとか二つとかしかないこともありますが、それでもやりがいはあります。
本目大変なこともたくさんありますが、それでもやりがいが何とか上回っているという感じです。
関根「色覚チョーク」の例で言えば、子どもたちや先生たちから黒板が見やすくなったと声を掛けてもらいます。やはり、うれしいですね。
鎌田届けてもらった声を形にできるとうれしいですね。LGBT関連の質問を県議会で行い、県の書類の性別記載欄について、必要のないものは外すべきと提案しました。その結果、いくつかの書類について性別記載欄が廃止されました。LGBTの支援団体から応援の言葉をいただきました。
地方から全国へ、全国から地方へ
野田地方政治をもっと身近に感じてもらうためにアピールしたいことは?
鎌田冒頭でお話ししたように、国の施策だけではフォローできない、生活に近いことの政策を決めている場所なので、ぜひ関心を持ってもらいたいです。
本目子育てや医療、介護、道路、水道など、生活する上で身近なものであふれているのが地方政治です。そこに関心を持ってもらうことで、皆さんの困りごとを減らすことができるかもしれません。そのことを伝えていきたいです。
関根地方政治というと、その地域の課題だけを扱っているように思われがちですが、そうではありません。各地域の先進的な事例を全国に広げることもできますし、先進的な事例を自分の街に取り込むこともできます。地方政治のそうした可能性を感じてほしいと思います。
野田では、最後に今後に向けた決意をお聞かせください。
鎌田選挙戦は、厳しい戦いになりそうですが、多様な意見を議会に反映させるために、生活者の声を代弁する議員が必要だと思っています。熊本地震から2年8カ月が経過し、被災者の間の格差が顕在化しています。言葉だけではなく、行動で被災者に寄り添うために何としても議席を得る決意です。
本目3期目のチャレンジになります。台東区議会では、現職中に出産した議員はいません。子育てをしながらの選挙へのチャレンジは未知の世界です。今、待機児童問題に直面していて、子どもを無認可保育園に預けています。「保活」の厳しさをリアルタイムで体験しながら、当事者の皆さんの声を区政に反映する重要な役割を果たしていきたいと考えています。子育てとの両立は体力的な心配もありますが、政策実現のためがんばっていきたいです。
野田情報労連も皆さんの活動をしっかりとサポートしていく決意です。皆さんのご奮闘に期待しています。
関根私も皆さんの選挙応援に駆け付けたいと思います。
野田本日はありがとうございました。