トピックス2019.01-02

吉川さおり議員 挑戦の年[特別対談]「就職氷河期」問題を放置できない
雇用確保に正面から向き合うべき

2019/01/15
「就職氷河期」世代の一員である吉川さおり参議院議員。2007年の初当選からこの問題に熱心に取り組み続けてきた。雇用問題に詳しい本田由紀教授と「就職氷河期」の問題点や対応策などについて語り合った。
吉川 さおり 参議院議員
よしかわ さおり 参議院議員。1999年、日本電信電話株式会社に入社。情報労連・NTT労働組合特別中央執行委員などを経て、2007年7月、第21回参議院議員選挙に比例区から立候補し初当選(最年少当選)。2013年7月の参議院議員選挙で再選。 本田 由紀 東京大学教授
ほんだ ゆき 東京大学教授。専攻は教育社会学。著書に『若者と仕事—「学校経由の就職」を超えて』(東京大学出版会)、『社会を結びなおす』(岩波ブックレット)、『もじれる社会』『教育の職業的意義』(ともにちくま新書)など多数

「就職氷河期」の体験

吉川私は1999年に大学を卒業した、いわゆる「就職氷河期世代」です。1997年に山一證券が破綻し、その前年には「就職協定」が廃止され、就職活動を巡る環境が大きく変化する中で社会に出ました。

学生時代は奨学金の貸与を受けながら大学に通いました。週6日、繁忙期は早朝5時から宅配便の荷物の仕分けと積み込みのアルバイトをする中で、女性にだけ深夜労働の制限があり、労基法との矛盾を痛感しました。私は巡り合わせで内定を得ることができましたが、どんなに活動を続けても職が決まらない同世代が大勢いました。

「就職氷河期世代」は厳しい状況に追い込まれながらも、「自分が悪い」と思い込まされ、政治の世界では「自己責任」の名の下に光が一切当てられなかった世代です。私は、運と縁の巡り合わせがよかっただけで正社員として就職でき、今は国会議員として貴重な議席を預かっています。こうして議員の仕事をさせていただいているからこそ「就職氷河期世代」の問題を、社会全体の課題として強く訴える必要があると考えています。

本田私は1987年に大学を卒業しました。その後、1994年まで大学院に通いました。バブル絶頂期で同級生が華々しい業界に就職していく中、私はつらい大学院生生活を送りました。1994年に研究職の仕事を得て、それから2001年までその職場で若年雇用の研究をしました。

この7年間は学卒の労働市場が崩壊するかのように激しく変化した時期でした。質問紙やインタビューによる実態調査を通じて90年代の若者を巡る状況の変化を目の当たりにしました。当時、その変化を説明するために用いられていたのが、「若者がダメになっている」という、若者の側に責任を求める言説でした。若者は「親に依存して定職に就かない」「のうのうと気楽でぜいたく」「おどおどして立ちすくみ、仕事を決められない」というイメージで描かれ、安定した雇用に就けないのは若者の意識に問題があるかのような説明が流布していました。

そのため、若年雇用対策は「若者をたたき直す」という施策がメインになりました。その象徴が2003年の「若者自立挑戦プラン」です。キャリア教育や「若者自立塾」など、若者側を変化させる方向で施策が展開されました。保守派の中には「若者を自衛隊に入れればしゃんとする」という言説すらありました。

しかし、実態は若者の意識だけでは説明できません。真の問題は、労働市場側の構造転換にこそありました。2005年に出版した『若者と仕事』という本では、学校から仕事への移行における日本の構造的な問題こそ見直していくべきと訴えました。

この世代が直面した厳しさは、今なお日本社会や経済に傷として残っています。近年、若年雇用の状況は就職率の回復で改善しているとみなされています。しかし、それは「正社員として企業に突っ込んでおきさえすればいい」という見方に過ぎません。行政や保護者には、「正社員礼賛主義」が色濃く残っていて、仕事に就いた先にある過酷な労働環境への対策は後手に回っています。

教育訓練の役割

吉川参議院議員になって初めての国会質問で、「就職氷河期世代」の問題を取り上げました。当時の厚生労働大臣に対して、この問題をこのまま放置すれば将来的に社会保障の持続性が大きな問題になると訴えました。この質問を作成する際に、氷河期世代の雇用対策を調べていると、当事者の側に問題があるという視点でつくられた政策ばかりでした。自分たちの努力が足りなかったから正社員になれなかったと言わんばかりの施策のあり方には、強い疑問を持ちました。その後も、ことあるごとに「就職氷河期世代」の問題を取り上げ、警鐘を鳴らし続けてきました。

ただ、世代が異なると問題の重大さをなかなかわかってもらえません。そのため、主張の仕方を工夫するようにしました。「就職氷河期世代」が正社員になれなかったことで国税と地方税に与える影響額がどれほどになるのか、繰り返し質問し続けました。最近になって政府もようやく数字を出すようになりました。「就職氷河期世代」が正社員になれなかったことによる影響は、国税で1000億円、地方税で500億円で、この10年間で1兆円を超えています。

「就職氷河期世代」の問題を放置すれば、将来的に社会保障支出の増加にもつながります。2008年に発行された総合研究開発機構の『就職氷河期世代のきわどさ』という報告書では、就職氷河期世代に増加した非正規雇用について、その人たちが低水準の賃金で十分な年金が確保されないまま退職後に生活保護需給状態に陥ったとすると、20兆円程度の追加的な財政負担が発生するという試算結果が示されています。

また、2018年10月の参議院本会議での代表質問では安倍総理に対し、入管法改正に関連して、「就職氷河期世代は、今なお非正規労働を余儀なくされている者が多い世代であり、自己責任の名の下に、政治の光は当時一切当たりませんでした。労働者不足の解消を言うのなら、まずは、この就職氷河期世代の雇用確保を最優先すべきではないですか」と訴えました。

本田就労支援という点にご注目されているということですね。その点、私は例えば公共職業訓練機関が重要な役割を担っていると考えています。例えば、ボイラーやマンション管理、自動車整備など具体的なスキルを提供する場で訓練すれば、かなりの確率で仕事に就けます。需要がある仕事に対して、公共職業訓練の場を増やすことは大切です。

ただ、現状では人気のある訓練は枠が少なく、選抜式になっています。積極的労働市場政策を取る北欧では基本的に選抜はなく、希望する訓練を受けることができます。訓練を受けられない人がいる現状は見直されるべきです。

職業訓練と同時に重要なのは労働条件です。職種別の最低賃金のようなものも必要になってくるでしょう。

大切なのは、ちゃんと人を育てて、ちゃんと仕事に就けて、ちゃんと報いる、という「三つのちゃんと」です。地味でもいいので、特定の仕事ができる人に育ってもらい、それに合致した仕事に就いてもらい、ふさわしい処遇を得られるようにする。この仕組みが崩壊していることが日本の労働市場の大きな問題です。

吉川「人間力」のような曖昧なものを強調したこれまでの施策はうまくいっていないですね。このスキルを身に付ければ、これくらいの処遇は保障されるという仕組みをつくることは大切だと思います。また、「就職氷河期世代」の正規化や雇用に積極的に取り組む企業に対するインセンティブを設けるという対策も考えられます。

教育から仕事への移行

本田40歳前後の世代の採用を企業が抑制したことで、スキルの受け渡しに問題が生じています。最近、企業の不祥事が頻発する背景には、組織の要である40歳前後の人材の層が手薄になっていることがあるのではないかと考えています。企業内で人を育てる仕組みが「就職氷河期」問題によって持続性を失ってしまったという側面があります。そうした点でも企業外での教育訓練機関の役割が大きくなっています。

ただし、ここですぐに注意しなければいけないのは、現在の大学教育には意味がないとする、政府の乱暴なやり方は受け入れられないということです。仕事に役に立つ教育というのは単に民間企業が喜ぶ教育をすることではありません。私は教育の職業的意義の重要性を訴えていますが、学んだことと仕事の関係はとても微妙で、間接的な関係にあります。民間企業出身の大学教員を増やせばいいのではなく、授業の内容と方法を少しずつ改善していくことこそが重要です。

吉川私は、大学は「学びの場」だと思っています。思考力やモノの見方、仲間との議論など、そうしたことが社会に出た後に生きていると思います。「就活ルール」が廃止され、形の上でもルールがなくなってしまうと、大学入学と同時に資料請求やインターンシップなど、就職活動に直結することを行うプレッシャーが高まることが心配です。大学はそういう場ではないと考えています。

本田企業の採用が、大学で学んだ内容を重視しないところに問題があります。採用活動が早期化するほど、卒業論文の前の段階で評価することになり、成果を見ないで採用することになります。経済界は、学びによって身に付けたスキルを評価する採用にも同時に取り組むべきです。

新卒一括採用には、若年失業率を低く抑えているという指摘もありますが、私はデメリットの方が大きくなっていると考えています。それは、大卒後の新入社員の離職率の高さにも表れています。つまりマッチングの体を成していないということです。日本の教育はジェネラルな一般的な能力を身に付けさせることにたけている一方、特定のスキルを身に付けさせる教育はかなり欠落しています。具体的な専門性を身に付けられる場を、バランスよく社会の中に配置していくことが必要だと考えています。

「自己責任論」の克服

吉川「自己責任論」は今も根強く残っています。私の同世代の人たちにも、自分がうまく就職できなかったのは自分が悪いと考える人は少なくありません。

本田単なる「自己責任論」というより、能力という概念を含み込んだ「自己責任論」がはびこっています。福祉国家であれば、どの能力が必要かを考え、それを身に付けるための制度やチャンスを整えるのは、政治や社会の責任です。しかし、日本の場合、その能力があるのか、ないのかの責任は、個人がすべて引き受けなければならず、能力がなければ生き残れないのも仕方ないという考え方が社会を支配しています。私はこうした状態を「個人化された能力主義」と呼んでいます。

知識や能力に応じて仕事に就くことは、身分制ではない近代社会ではやむを得ないことですが、その知識や能力を身に付ける責任を個人に押し付けるのではなく、社会の側がその機会を整備すべきです。

吉川就職氷河期世代は、今なお非正規労働を余儀なくされている人が多い世代であり、自己責任の名の下に、政治の光は当時一切当たりませんでした。今も自分たちが悪いと考えている人はいます。でも、このまま放置してはいけません。

先の参議院本会議の代表質問では、「『一億総活躍』を本当に進めるつもりなら、学校を卒業しようとしたときの社会経済状況に翻弄され、能力があるのに非正規雇用でくすぶり続けている就職氷河期世代の正社員化、雇用確保に正面から取り組む必要がある」と訴えました。

「就職氷河期」問題は、特定の世代の問題と矮小化されがちですが、社会保障にもかかわる社会全体の問題だと訴えることで引き続き対策を求めていきたいと考えています。

私は、大企業の正社員出身と言われることも実際にあります。でも、今この立場で発言できる人は私しかいません。「就職氷河期世代」の一員として、国会議員という立場に立たせていただいているからこそ、訴え続けていきます。

本田この問題に取り組んでくれる国会議員の方がいることを非常に心強く思います。私は、具体的な知識やスキルを身に付けて、それに合致した仕事に就くことができ、仕事に見合った処遇を得るという「三つのちゃんと」が大切だと考えています。教育や訓練をはじめ、国の施策の充実が求められています。引き続きのご活躍を期待しています。

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