特集2019.03

4月スタート!あなたの職場の準備は?働き方改革関連法「残業学」中原淳教授に聞く
「働き方改革」成功のカギ

2019/03/14
「働き方改革」は国の政策でも、人事の施策でもない。会社を維持・成長させるための経営課題だ。話題の書籍『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』の著者の一人・中原教授に「働き方改革」成功のカギを聞いた。
中原 淳 立教大学教授

「働き方改革」はなぜ必要か

「働き方改革」を進めなければならない理由は主に二つあります。一つ目は「働き方改革が経営課題に直結する」からです。

経営者が今、向き合わざるを得ない経営問題の一つが人手不足です。「日本人・男性・正社員」という限られた層だけで職場を回すことは難しくなっています。多様な人材を多様な働き方で活用し、潜在的な労働力を労働力に変えないと、企業は事業を維持・拡大できません。「働き方改革」は、国の政策でもなく、企業の人事施策でもなく経営課題です。

長時間労働は、「日本人・男性・正社員」という長時間労働をできる人以外を職場から排除する効果を持ち、人手不足に対応する際の一番の障害となります。外国人労働者は長時間労働を嫌います。今の働き方のままでは、日本は外国人労働者から「選ばれない国」になります。

「働き方改革」が求められるもう一つの理由は、それが働く人個人にかかわる問題だからです。端的に言うと、これからの時代、社会保障の課題もあり、健康な限り働き続けることが求められるようになります。長時間労働は中・長期的にメンタル疾患などのリスクを高めることが明らかになっています。健康で働き続けるために長時間労働はマイナスです。それに、長時間労働は働く人たちの学び直しの時間を奪います。仕事人生が長期化するのであれば、それに見合った能力開発が求められますが、長時間労働ではそうした学び直しができなくなります。

私が講演で働き方の見直しに触れるときには、過去の自分の働き方を否定されたように感じる人もいます。特に経営者や管理職層は、自分たちが長時間労働を経験してきたこともあり、そうしたメッセージに敏感です。だから講演などでは、「人事課題として『働き方改革』に取り組んでください」とは一言も言いません。「あくまでこれは経営課題です」と言いますし「働く個人みんなにかかわる問題」だと強調しています。

失敗する改革とは?

「働き方改革」を、(1)時間外労働の時間数だけ施策の対象にすること(2)個人の努力に還元すること─にしてしまうと、不払い残業がまん延します。仕事量を減らさずに時間外労働にキャップをはめれば当然、その仕事はコップからあふれてしまいます。その結果、その仕事は社員が持ち帰り残業などをして、「見えない化」「アンダーグラウンド化」されて、施策は失敗します。

残業は個人の努力によって何とかなるという思い込みは社会に根強く残っていますが、個人にできることと上司や職場でやらないといけないことの割合はだいたい1対3くらいです。個人で解決できることは意外と多くありません。

上司も含めて組織ぐるみで対応しない限り、長時間労働慣行の問題は解決できません。しかし、「御触書」のように、上から施策を押し付けるだけではうまくいきません。上からお触れを出す→うまくいかない→またお触れを出す→うまくいかない。こういうやり方を繰り返していくと組織の体力も落ちていきます。組織改革という大手術はなるべく1回で済まさないといけません。2回も3回も大手術をすれば組織の体力が落ちてしまうからです。

成功のための「5点セット」

「働き方改革」を成功させるためのポイントは次の「5点セット」にあると考えています。

(1)経営者のコミットを引き出す

まずは、経営者のコミットメントを引き出すことです。経営者には人事課題と言わず、「働き方改革」は経営改革だとひたすら言い続けます。長時間労働慣行を見直さないと事業拡大ができず、経営を維持できないことを訴え続けます。学生を見ていると、「ブラック企業」や「ハラスメント」といった話題にとても敏感です。長時間労働などによる評判リスクは非常に高いと見るべきです。いい人材を採りたいのであれば、長時間労働は見直さざるを得ません。

(2)外科手術

経営者のコミットメントを引き出せたら、次は外科手術です。調査で現場をいくつか回って驚いたのは、終業時間を意識したことがない人が、組織に2割くらいはいることです。終業時間を意識しなければ、残業を減らすことはできません。だから、終業時間の境界を意識させることはどうしても必要です。例えば、パソコンのシャットダウンはその一例です。でも、それは同時に大手術でもあります。ハレーションリスクを減らすためにていねいに説明する必要があります。

(3)体力増進

その次は、体力増進です。管理職のマネジメントスキルを高めて、組織の体力を増進させます。長時間労働が組織にまん延する原因は、上司にあることが少なくありません。上司の働き方が部下に「遺伝」したり、上司のマネジメントスキルの不足で「ムダ」がたまったりするからです。日本の人材育成は「ドカンとチョロン」で、新入社員時には膨大な費用をかけて「ドカン」と教育投資をする割には、その後の教育投資は「チョロン」です。マネジメントするための教育をしなければ、その力は身に付きません。

(4)体質改善

体力増進の次は、体質改善です。いわば「漢方」のように組織の体質を変えていきます。ここでは、対話を通じて、仕事のやり方を見直していきます。業務の内容を「見える化」し、どの仕事を残し、どの仕事をやめるべきかを話し合います。講演ではよく、「変えられるものと変えられないものがある」という話をします。これまでのコンサルタントの経験からすると、「変えられない」と思っていたことでも「変えられる」ことは意外と多いです。「仕事はこうあるべきだ」という思い込みがあるかもしれませんが、対話を通じて見直すことはできます。

(5)給与制度の見直し

最後は、一番ハードルが高いですが、給与制度を見直すことです。具体的には、短い時間で効率的に働く人を評価する制度に変えることです。時間外労働の削減で浮いた費用は従業員に還元し、しっかり報いることも大きなポイントです。

この「5点セット」が「働き方改革」を進める上でのポイントです。とはいえ、長時間労働慣行の見直しに「魔法のつえ」はなく、「施策のコピペ」もできません。あの手この手で向き合っていくほかありません。

生産性を高めるために

具体的な進め方として、経営者のコミットメントを引き出したら、次に「働き方改革」の「コアチーム」をつくり、そこで議論したら次に管理職層を含めて施策を検討し、最後に従業員も含めて職場の状況を検討していきます。経営者にコミットする際も、その後の取り組みを進める際も、会社の状況や離職率など、徹底的にデータを用いながら説明を繰り返していきます。そのPDCAサイクルを繰り返していくと1年もすれば職場は大きく変わっているはずです。「改革」には、1カ月をめどに「谷」が現れます。この「1カ月の谷」を超えて施策を継続していくと、徐々に効果が実感できるようになるでしょう。

企業の生産性を上げるという点でも長時間労働の見直しは必要です。生産性を上げるための要素は、イノベーションと人材スキルの向上の二つです。前者は、かけた時間に比例して生み出されるものではありません。それよりも、労働の質の方が大切で、長時間労働で拘束されていては、質の高い時間を確保できません。後者のスキルの向上も、長時間労働するほど学ぶ時間が取れないことに意識を向けるべきです。「長時間労働をしないと力が身に付かない」と考える人もいますが、それはむしろ逆で、長時間労働で視野狭窄的に一つの仕事に向き合っていると、フィードバックやコミュニケーションによる学びを得ることができません。生産性という観点でも長時間労働は見直されるべきです。


このように「働き方改革」は、国の施策や人事施策ではなく、企業にとっては経営課題です。その上で、働く人個人の仕事人生を豊かにするための施策でもあります。労使が手を取り合える課題も少なくないのではないでしょうか。労使が協力して課題に向き合うことが建設的だと思います。

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