4月スタート!あなたの職場の準備は?働き方改革関連法「年休5日取得」の義務化
時季指定には必ず意見聴取を
日本労働弁護団事務局次長
法改正の趣旨
年次有給休暇(年休)は、雇い入れから一定期間働いた労働者に与えられる有給休暇で、労働基準法39条に定められた制度です。
日本では、年休取得率の低さが問題視され、1987年の労基法改正により「計画年休」制度が導入されましたが、取得率はそれでも伸び悩み、2017年の年次有給休暇の取得率は51・1%にとどまっています(図、厚生労働省「就労条件総合調査」)。
そのため、「働き方改革関連法」の中で、労働基準法が改正され、今年4月からすべての企業で年10日以上の年休が付与される労働者に対して、年5日については使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。年休の取得はあくまで労働者の請求に基づき取得するものですが、取得率が伸び悩む中、少なくとも年5日は年休を取得させるというのが法改正の趣旨です。
意見聴取が大切
年休はあくまで労働者の請求に基づいて取得することが前提です。今回の改正では使用者が時季を指定して年5日の年休を与えることが義務付けられましたが、新しく設けられた改正労働基準法施行規則24条の6では、今回の改正に基づいて時季指定する場合は、「当該有給休暇を与えることを当該労働者に明らかにした上で、その時季について当該労働者の意見を聴かなければならない」とした上で、「意見を尊重するよう努めなければならない」と規定しています。この意見聴取を踏まえずに使用者が時季指定をした場合、その時季指定は無効になると考えられています。年休はあくまで労働者が時季指定して取得することが原則ですから、労働者の意思を尊重することが大切です。
また、使用者が時季指定する場合、時季指定の対象となる労働者の範囲や時季指定の方法などについて、労働基準法89条に基づき、就業規則に記載しないといけません。就業規則に時季指定の記載がないと使用者は時季指定ができません。忘れられがちなポイントなので注意してください。就業規則には、合わせて、時季指定に当たっての意見聴取手続きを具体的に定めることも重要でしょう。
なお、すでに5日以上の年休を取得している労働者に対しては、使用者は時季指定をする必要はありませんし、することもできません。
労使協議で確実な取得を
こうした前提を踏まえると、年5日の取得に関しても、労働者の意見を踏まえながら、計画的に取得を促進していくことが望ましいと言えます。
厚生労働省のパンフレット(年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説)も勧めていますが、まずは職場で年休の取得計画表を作成し、一定のスパンで労使協議を重ねて調整をしながら、確実に取得していくと良いでしょう。使用者には、労働者ごとに「年次有給休暇管理簿」を作成し、3年間保存する義務も課せられています。労使協議ではこうしたデータに基づきながら、情報を共有し、協議するといいと思います。
厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」Q&Aから
Q. 使用者が年次有給休暇の時季指定をするだけでは足りず、実際に取得させることまで必要なのでしょうか。
A. 使用者が5日分の年次有給休暇の時季指定をしただけでは足りず、実際に基準日から1年以内に年次有給休暇を5日取得していなければ、法違反として取り扱うことになります。
Q. 今回の法改正を契機に、法定休日ではない所定休日を労働日に変更し、当該労働日について、使用者が年次有給休暇として時季指定することはできますか。
A. ご質問のような手法は、実質的に年次有給休暇の取得の促進につながっておらず、望ましくないものです。
Q. 使用者が時季指定した年次有給休暇について、労働者から取得日の変更の申出があった場合には、どのように対応すればよいでしょうか。また、年次有給休暇管理簿もその都度修正しなくてはいけないのでしょうか。
A. 労働者から取得日の変更の希望があった場合には、再度意見を聴取し、できる限り労働者の希望に沿った時季とすることが望ましいです。また、取得日の変更があった場合は年次有給休暇管理簿を修正する必要があります。
こんな場合は?
今回の改正により、年5日の取得ができなかった労働者が管理監督者も含め1人でもいたら法違反として扱われることになります。違反した場合、従業員1人あたり最大30万円の罰金が企業に科されます。そのため、使用者としては、労働者にも年5日の取得を意識してもらうことが大切です。
例えば、使用者が時季指定を行ったにもかかわらず、労働者が自分の判断で出勤してしまった場合、労働者は、年休を取得したことにはならないので、使用者はあらためて年休を指定し直す必要がありますし、それによって年5日の取得義務を果たせなかった場合、使用者は法違反に問われることになります。一方、労働者の立場では業務命令違反に当たり懲戒の対象になる可能性もあるので注意が必要です。
他方、使用者が年休日に労働者に業務命令を出して、労働者がその日の一部を労働した場合、労働者は年休を取得したことにならないため、使用者は労働者に別の日に年休を取得してもらう必要があります。
不利益変更は拒否を
労働組合として気を付けたいポイントは、まずは年休の完全取得です。今回の法改正に当たっては、使用者による意見聴取義務を履行させることが大切です。
その上で、時季指定に当たって使用者が不利益変更を行ってくるケースも想定できるので注意が必要です。
例えば、会社が独自に設けている有給休暇制度(夏季休暇や年末年始休暇)を年休に振り替えて時季指定するような行為は、就業規則の不利益変更に当たるため、裁判では違法とされる可能性が高いです。また、週休2日の会社で土曜日を年休に当てさせるような対応も就業規則の不利益変更に当たります。今回の改正の趣旨は年休取得の促進なので、休日を減らすような対応は不利益変更に当たると言えます。労働組合としては拒否していくことが求められます。
加えて、使用者がある時季を一方的に指定して、一斉に年休を取得させようとするケースも想定されます。この場合も、まず意見聴取をしていないことでその時季指定が無効になると考えられます。労働組合としては、労働者が希望する日に年休を取得できる環境をつくっていくことが望ましいと言えるでしょう。
年休取得を組織化の武器に
今回の改正で罰則が設けられましたが、労基署がすべての事業場の取得状況まで調べられるわけではありません。とはいえ、1人でも要件を満たしていない人がいれば、会社は法違反に問われます。取得できなかった人が労基署に駆け込む可能性もゼロではありません。会社としては法違反とともに社会的な信用にもダメージが及びます。すべての人が要件を満たせるよう、しっかり年休取得を促進していく必要があります。
一方、労働組合としては、会社に刑事罰のある法違反であることを理解させながら、業務負担の軽減策などを交渉していくことが大切です。厚生労働省は、労働時間等設定改善指針の中で、納期や仕様変更などについて配慮するよう事業主に求めています。こうしたツールを活用することもできます。
今回の改正は、労働組合が組織化を進める上で重要なツールになると考えています。職場の中で、誰がいつ、どうやって休みを取るのか。そうした対話を重ねることが、組織化の一助になるはずです。与えられた「武器」を使わない手はありません。年休の取得促進を職場対話のツールにして仲間づくりをさらに進めてほしいと思います。