特集2019.03

4月スタート!あなたの職場の準備は?働き方改革関連法「働き方改革」に欠けている観点とは?
「生活時間」の確保から労働時間を捉え直す

2019/03/14
「働き方改革」が叫ばれる中で、労働時間を短く、という観点だけでなく、もっと広い視野で働き方を見直すべきという指摘がある。それが「生活時間」の確保という観点だ。
圷由 美子 弁護士
「かえせ☆生活時間プロジェクト」発起人
中央大学法科大学院兼任講師
主な担当事件に日本マクドナルド店長「名ばかり管理職」(管理監督者性)事件など

今こそ時間主権を行使しよう

あなたやあなたの家族の時間、その時間の大半が労働時間に埋め尽くされ、生活時間やともに過ごす時間が確保できず、人間らしい生活が危うくなっていないでしょうか。人は生きるために労働するのであって、労働のために命、健康、家族、地域や社会の機能が破壊されるなどもっての外です。

2015年から、労働法研究者とともに「かえせ☆生活時間プロジェクト」を始めました。当プロジェクトでは、自らの時間を、自分自身、家族、仲間、社会のために還元し得る社会をめざし、提言を行っています(労働時間に対する「生活時間アプローチ」)。

「生活時間」の定義は、「仕事に従事し、または拘束されている時間(労働時間、休憩時間)を除いた時間全体のこと」とし、主に、(1)休息時間(休息・睡眠などの健康確保)(2)個人生活時間(労働者の余暇、自己啓発)(3)家族生活時間(家事、育児、介護、団らんなど)(4)社会生活時間(市民としての地域活動、社会活動参加)─に分類しています。すべての人が(1)〜(4)の時間を確保できるよう、今こそ、労働時間のあり方を設計し直すべき好機です。

「働き方改革」と生活時間

この観点から現在の「働き方改革」を見ると、決定的な欠落が見つかります。

一つは、労働時間の上限規制、これは月単位で設定されたに過ぎません。人の生活の基本サイクルは月単位でなく1日単位です。特に、家族的責任を負う者の場合、自身のほかに育児、介護される者が1日の生活リズムをつつがなく維持できるよう、ダブルの意味で、1日単位の生活時間を確保する必要があります。

二つ目は、上限時間そのものの長さです。単月で100時間未満や80時間といった上限は、前述(1)のうち過労死等防止のための最低限度の規制でしかなくおよそ(2)〜(4)の「生活時間」を確保しようという観点は皆無です。上限80時間の場合、ほぼ(1)の休息時間を確保するのがやっとの生活です。

労働組合への期待

学生には、会社選びの指標の一つとして、労組の存在を上げるようにしています。しかし今や、労組があるだけでは、彼らのお眼鏡にはかなわないかもしれません。職場選びも、やりがいより働きやすさ、賃金より労働時間や休日・休暇条件が重視される傾向になっています。

これからは生活時間確保について、いかなる要求をし、勝ち取っているかが重要な指標とされることでしょう。例えば、生活時間の必要性を提唱しているか、1日単位の上限規制を要求しているかなど。サバティカル休暇制度※の獲得も、生活時間確保の目玉の活動実績になるはずです。労働だけでは育成し得ない個人の多面性が伸ばされ、仕事にも、新たな着眼点、発想力となって還元されるはずで、労使win-winの要求だと思います。

さらには、危機的な政治状況、これを許容してしまう背景の一つに、時間の貧困、すなわち、(2)の学んで自身の頭で考える時間、(4)の議論を重ね、ともに行動する時間の欠如が考えられます。労組は、傘下の労働者が市民的社会的活動をするための、(4)の社会生活時間を取り戻し、民意が十二分に機能しないこの状況を打破する責務も負っているといえます。

労組の皆さんが、時に、36協定につき断固拒否を貫くなどして、(1)〜(4)の多義的生活時間確保の波を起こす力強い当事者になってくれることを大いに期待しています。

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