2025年の崖にどう向き合うか[覆面座談会]DX推進で業界構造は変わるのか?
SEの本音から見える現場の実態
ブラックボックス化の現状
──システムが「ブラックボックス化」「レガシー化」し、デジタルトランスフォーメーション(DX)の足かせになっている現状はありますか。
Aお客さまの成績が右肩下がりなので、お客さまも「攻めの投資」がしづらい現状です。お客さまの目線が「攻めの投資」よりコストカットに向いているので、DXを提案するにしても難しい現実があります
B「ブラックボックス化」しているシステムはあります。理由はいくつか挙げられます。まず、開発段階。この段階では優秀なエンジニアが時間をかけて機能をつくり込んでいきますが、業務プロセスを改善せずそのままシステムに当て込んでしまうので複雑なシステムができ上がります。その後、システムが安定稼働すると開発したエンジニアがいなくなって、中身をわからない人がメンテナンスするのでシステムがブラックボックス化してしまいます。追加機能をアドオンしていくと、もともとの思想からずれた形で機能が乗っかっていき、システムはどんどん肥大化して複雑化していきます
Aベンダーからもユーザーからもノウハウがなくなってしまい、どうやって動いているのかわからないシステムはありますね。「今動いているから正しいのだろう」みたいな
Bそうなんですよね。ベンダーもユーザーもわからない
C確かにレガシー化しているのですが、逆に機密性が高くて外から侵入できない堅固なシステムになっている場合もあります。そうしたシステムのメンテナンスは今は50代の技術者が担っていますが、世代交代のため20代の技術者に教育しないといけない場合もあります。DXで刷新するシステムもある一方、残っていくシステムもあると思います。レガシー化した機能の継承は必要かなと思っています。
若手のモチベーション維持問題
Aただ、若手社員に古い言語やレガシー化したシステムを担当させる場合のモチベーションの保ち方はすごく難しいですよね。すごくキラキラしたイメージで入ってきたのに、ウオーターフォールの開発現場に投入されて、「こんなはずじゃなかった」とか。レガシーシステムの維持には若い人たちの力が必要な一方、モチベーション維持が難しいと感じています
Cモチベーションは上がらないですよね。AIとかやりたい若手もいるので
B弊社も経営戦略的には、社員のローテーションを進めたいとしていますが、簡単ではないです。その部署にしばらくいるとギラギラ感がなくなって、落ち着いてきてしまうんですよね。ロールモデルを見つけてほしくて、先輩社員とのディスカッションなども進めていますが、思ったようにはいきません
A弊社も同じです。会社が言うほどローテーションが進んでいません。優秀な人材を他の事業部に出したくないという気持ちがあるのではないかと思います。誰も口に出して言いませんが……
B弊社では、エース社員を配置換えして、AIの案件にアサインさせています。いわば花形案件です
A弊社も事業部の中にAIを活用する部隊をつくりました。ただ、思ったような結果が出ていないのが難しいところです
C弊社も各部から社員を選抜した部署をつくっています。でも、これも痛しかゆしで、先端技術を学んだ社員が辞めていってしまう。知見を高めるほど、自分の会社ではそれを実現できないと思ってしまうんですね。もっといい土俵があると言って辞めてしまう
B確かに、人材の流出は弊社もすごく危惧しています。AI分野では世界中の企業が賞金を出してコンペを開催していて、そこに登録して課題を提出すると、後になってさまざまな企業から引き抜きが来るのだそうです。ものすごい売り手市場で、いい条件でアプローチがあるため、転職を考える社員も少なくありません。会社的には怖いでしょうね。
ユーザーとベンダーの役割
──DX推進のためにはユーザー側の変革も必要です。ベンダーの視点から見てどうですか?
Cユーザーから業務プロセスの見直しを提案してもらえればいいですが、従来のシステム基盤に合わせて、「今動いているからいいよ」というお客さまの方が多かったですね。ベンダーから提案してもいいのですが、お互いなれ合いになってしまったところもありそうです
A基幹系のシステムだと、初期段階で要件をグリップしておかないと、膨大な手戻りが生じて開発が追い付きません。法制度に関するシステムだと、業務改善より期日までのリリースの方が重要なので、安定して着実に動かすことが優先されます
B新しい機能を追加する際に、今ある基盤の上に載せた方が早いし、安いという判断もありますよね。ベンダーとしては、業務改善プロセスまで踏み込めないことが反省点です。
──DXレポートは、ユーザー側のトップの旗振りがDX推進のために重要だと指摘しています。
Aユーザー企業の担当者も、自分が担当の間に大規模な改修をして、「負の遺産」を残したくないという思いもあるのではないでしょうか。全体の基盤となれば、怖くて誰もやりたがりません
ただ、それでもお客さま側の姿勢も変化していて、パブリッククラウドを使うなんてもってのほかというお客さまでも、ここ数年は周辺システムにアマゾンのAWSを使い始めたりしています。
──ベンダー側はどう対応すべきでしょうか。
B弊社は経営計画の中で、コンサルティング力の強化や、お客さまのビジネスモデルを変革できる人材づくりを打ち出しています。顧客のラン・ザ・ビジネス(現行ビジネスの維持・運営)と新規分野への投資割合を9対1から6対4にする方向性で動いています
C弊社は一次請けの仕事が多いですが、その中でもAIを活用した新規事業に取り組んでいます。悩みはそうしたAI人材の働き方や賃金体系が従来のそれと合わないことです。例えば、稟議書を回すスピード感も従来通りでは追い付かない。ビジネスの仕方もこれまでの一次請けのやり方とは異なるので、働き方や賃金体系も変えなければいけないのかなと。現状とめざすところがフィットしていない感じがしています
花形部署が軌道に乗って稼ぎ出したときに、レガシーを担っている人たちの処遇をどうすべきかといった悩みもあります。人材流出が多いので、そういう発想になるのかもしれません
A私の職場も肌感覚では人材流出が進んでいます。さらに悩ましいのは協力会社の人たちの処遇。協力会社の確保がどんどん難しくなっています。別会社の人たちとはいえ、同じプロジェクトで働く仲間だし、ノウハウもかなり持っているので、その人たちが抜けてしまうことを危惧しています。
人材育成をどうするか
──レガシーシステムとそれに付随したビジネスモデルは今後どうなるでしょうか。
C私は残ると思っています。システムがある限り誰かが保守・運用しないといけないからです。課題はモチベーションの維持。若手はやりたがらないので
B既存のラン・ザ・ビジネスの割合をどれだけ縮小できるかだと思います。旧来のベンダー企業は、新興のクラウド企業にビジネスモデルを破壊されているので、新しいモデルに対応していかないと生き残りは厳しいと思います
A私は既存のビジネスモデルはかなり続くのではないかと思っています。ベンダーが保守・運用をやめるというまでそのシステムは残り続けるのではないでしょうか。
──人材育成はどうしていくべきでしょうか。
B弊社は人材育成に力を入れています。社員が自分のレベルをわかるようにしたり、レベルに合わせた研修プログラムを提供したりしています
システムエンジニアという仕事は、勉強し続けないとやっていけない仕事です。仕事以外の時間に仕事以外の勉強をしないといけないのですが、会社が指揮命令すると業務になってしまいます。そこで労働組合が、コミュニケーション基盤をつくって学習の場を提供しています。労働組合だからできることだと思います。職場の雰囲気や人間関係も重要なエッセンスですよね
A弊社では働き方改革で残業が減った分、業務時間内で一定時間、新技術などを学ぶ時間が設けられています。最近では、スキルの高い人材向けの人事制度もできました。一方、従来の処遇体系や労働組合活動との関係をどう考えるべきかや、従来の保守・運用の分野で働く若手のモチベーション維持も課題です。労働組合が若手の意見を聞いて会社に届けることが大切だと思います
C弊社も資格取得の奨励や資格手当の引き上げなどに取り組んでいますが、課題はそれに乗り切れない人の意識付けです。セーフティーネットも考えないといけません
B何を勉強したらいいかわからないという人は多いですよね。会社の方針をブレークダウンして方向性を示すことが大切だと思いました
Cどんなスキルが必要かわからないから何から手を付けたらいいかわからないんですよね
A新しいスキルを身に付けたとしても今の仕事とかけ離れているので役に立つかわからない場合もありますね
BDXレポートを労働組合がかみ砕いて、組合員に説明してもいいかもしれません