2025年の崖にどう向き合うか「雇用によらない働き方」のメリット・デメリット
就業者の保護へ法的対応は不可欠
「自由」の裏のデメリット
「雇用によらない働き方」の最大のデメリットは、労働法の保護が及ばないことです。「雇用によらない働き方」で働く人は、最低賃金や時間外手当、有給休暇、労災保険、雇用保険など、雇用されて働く労働者であれば享受できるメリットがありません。
法的な観点では「雇用によらない働き方」には、労働基準法、労災保険法、労働契約法などの個別的労働関係を規律する法律が適用されません。一方、労働組合法のように集団的労使関係を規律する法律では労働者性が認められる場合もありますが、使用者が労働者性を否定するケースも多く、対話の入り口に立つまで時間のかかるケースもあります。
一方、「雇用によらない働き方」のメリットを挙げるとすれば、組織に縛られず仕事ができることでしょう。私は「ウーバーイーツ」で働く人たちと意見交換をしていますが、彼らはその働き方のメリットとして「自由に働ける」ことを挙げます。上司から指示されず、好きな時間に働けることにメリットを感じているようです。
ただ、その一方でさまざまなリスクがあります。「ウーバーイーツ」で働く人たちの話を聞くと、月の収入はフルタイムで働いて、だいたい1日1万円くらい。1カ月間休まず働けば30万円程度になりますが、休みを取ると20万円程度。前述した通り各種の社会保険が適用されないので、仕事ができなくなると一気に収入を失うリスクもあります。ケガをしても労災が適用されず、治療費は自己負担しなければいけません。
働き方はアプリで管理されています。アメリカの「ウーバー」のドライバーの事例ですが、過去には評価が5段階中4.85を下回ると配車のリクエスト頻度が下がるというケースも報告されています。アメリカでは上司に管理されていた働き方が、アルゴリズムに置き換えられただけという論文もあります。
国内の「ウーバーイーツ」でも、インセンティブや仕事の配分がどのように決まっているのかよくわかっていません。また、理由もわからずアカウントを停止されることもあるようです。例えば、労組結成をめざした人がアカウントを停止されるようなことがあれば、働く人たちは容易に声を上げることができません。
法的対応の動向
プラットフォームビジネスやクラウドソーシングで働く人は、完全な自営業者とも呼べず、かといって今までの労働者概念ではカバーしきれません。何らかの手当てが必要ですが、労働基準法の労働者として扱うということは、個人的には難しいと考えています。対処法としては、労働基準法と労災保険法の対象を切り離し、後者の対象を広げたり、イギリスやドイツのように自営業者と雇用労働者の間に第三の労働者の概念をつくったり、フランスのように立法措置で企業に対して団体交渉の応諾義務を課したりするなどの方法が考えられます。現状では、労働者に当てはまるかどうかによって得られる保障がゼロか100かで極端です。「雇用によらない働き方」をする人たちが、安心して働けるように仕組みをデザインする必要があります。
昨年4月、カリフォルニア州の最高裁が、請負労働者として働いていた宅配業者のドライバーを雇用労働者だとみなす判決を下しました。その際、裁判所は「ABCテスト」という基準を採用。三つの要件を満たさなければ請負労働者として認められないとし、立証責任は使用者にあるとしました。その基準は以下の三つです。
1 業務従事者は、契約上も事実上も、業務履行について使用者の指揮命令下に置かれないこと
2 業務従事者は、使用者の通常の業務の範囲外の業務を行うこと
3 業務従事者は、使用者のために行われた業務と同じ性質の商売、職業、またはビジネスを独立して継続して行っていること
カリフォルニア州ではこの判決の法制化を進めており、現在、下院を通過し、上院で議論されているようです。プラットフォームビジネスへの影響は大きいと言えます。
労働組合が結節点に
情報サービス産業に対する影響をどう考えればいいでしょうか。IT業界の多重下請け構造の下、「フリーランス」という呼称とは裏腹に、発注元の事業所に常駐し発注元の指揮命令を受けて労務提供しているケースがあると聞きます。こうした働き方には解雇規制が存在しないため、契約終了を突然言い渡される理不尽があります。使用者に対する交渉力が弱い就業者が増えると、使用者が労働力を安く買いたたく、「底辺への競争」が進む可能性が懸念されます。
プラットフォームビジネスで難しいのは、労働者間の物理的な連帯が生まれにくいことです。私は今、「ウーバーイーツ」での労働組合の結成を呼び掛けていますが、SNSを使って意識的につながりをつくる努力が欠かせません。どこかに結節点をつくらないとプラットフォーム上で働く人たちはつながることができません。自由に働けることのメリットは認めつつ、安心して働ける仕組みをつくっていくために、労働組合が働く人たちの結節点になることが不可欠です。