渋谷龍一のドラゴンノート2019.08-09

【第3編】職場~企業と「カイシャ」の違いを知っていますか~買いたたき

2019/08/19

非正規労働者の「宿命」は、カイシャから直接に賃金を狙われることです。労働時間の攻防となる正社員と違って、時間ドロボウに遭わない非正規の切実な問題は、賃金の不払いや賃金格差など、常に賃金となります。カイシャは材料費や品質を落とすか、労働者の賃金を買いたたくか、あるいはその両方です。

正社員は奪うための的を大きくするために長時間を強いる、と言いましたが(第28話)、同じように、非正規の的を大きくしようとします。賃金格差を付けて買いたたく場合には、低賃金のまま据え置くのはもちろんですが、一方で正社員と同等の働き方をさせるほど、もうけは大きくなります。

例えば、フードチェーン店などで注目を集めた「ワンオペ」。たった1人で店舗営業するほどの大戦力の本来の賃金と、それに見合わない実際の低賃金の差額が標的です。カイシャは、学生や主婦に働く場を提供しているという社会貢献の香りを混ぜて、それと引き換えに苦もなく的を大きくとれる労働者を採用してきたのです。

ですから、人手不足になり賃金相場が上がり低賃金で採用できなくなったり、非正規がいなくなる時間帯が出てきたり、ろくな教育訓練ができなくなるともうけは小さくなります。人手不足で営業や操業を続けるためには、人が雇える賃金まで上昇させなければ事業が継続できないはずですが、そうはなりません。

あなたは、本当に採用ができなくなると、賃金を上げるのではなく、店舗や工場の方を閉めてしまうのが不思議だと思いませんか。労働者が集まらないから事業所を閉めたり営業時間を短くしていると信じ込んでいませんでしたか。事業所閉鎖や営業時間短縮とともに、事業の売り買いも盛んになっています。本当は「労働者の宿命」の通りになるビジネスモデルが破たんしたから、事業を放り出し始めています。カイシャに社会貢献はありません。

渋谷 龍一 (しぶや りゅういち) 労働ジャーナリスト
日本労働ペンクラブ会員。主著に『女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』(旬報社)がある。
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