特集2019.08-09

仕事の未来を考える世界の労働組合はAIやデジタル化に
どう対応しているのか

2019/08/19
世界の労働組合はデジタル化や技術発展にどう対応しているのだろうか。情報労連も加盟する国際産別組織UNIの事例を紹介する。
木村 富美子 情報労連中央本部国際部

UNIグローバルユニオンはデジタル化や技術の進展による職場環境の変化に対して、すべての労働者が「公正な移行─Just Transition」を享受できるための枠組みを構築しようとしています。国際的なAIやデジタル技術に関する枠組みづくりや、技術利用に関するルール策定、教育訓練、労働者のデータ保護などの活動を展開しています。

UNIの政策

昨年6月、UNIは世界大会で、「新たな労働の未来/新しい仕事の世界」に向けて「倫理的なAIに関する利用・開発・展開に関する国際基準づくりをめざしていく」という方針を打ち出しました。

取り組みの一貫として、UNIは労働組合として初めて、AIに関する非営利団体「AIパートナーシップ(PAI)」(注1)に参加しました。PAIはアマゾンやグーグルなどのビッグ5と呼ばれる米国巨大IT企業によって発足した組織です。AI技術の啓発と倫理面を含めた人間や社会の課題解決に取り組むことを目標として活動しています。PAIはロビー活動を行わないとしながらも、その発信力には大きな影響力があり、労働組合としてAIに関する労働者の課題について意見反映できる意義は極めて大きいと言えます。

また、労働者のデータ保護に関する政策も打ち出しています。企業が業務過程において収集した労働者の個人データに労働者と労働組合代表がアクセスでき、編集・削除する権利が保障されなければならないとしています。

現在、多くの国にデータ保護法はありますが、労働者の働き方、業績などを評価・モニタリングした情報を保護する法律は存在しません。UNIはこうした労働者の個人データが昇進や転職など、さまざまな場面で悪用されることがないよう、労働者のデータ保護に関して透明性あるガバナンスの必要性を訴えています。

先進的な事例

フランスの通信会社・オレンジは労働組合と「デジタル化に関する協定」(注2)を締結しています。新しい技術への訓練や従業員のデータ保護について労使で取り決めたもので、グループ会社の従業員も含んだ15万人以上の従業員がこの協定の恩恵を受けます。協約の実効性を高めるため、社内に「デジタル化委員会」が設置されました。労働組合代表もメンバーの一員です。この委員会で職場の状況をモニタリングし、従業員がデジタル化による過度なストレスを受けないよう監督しています。

情報労連が加盟するICTS部会の取り組み

AIが労働者に与える影響については、欧州地域がいち早く取り組んできました。欧州ICTS部会大会(2017年)は、デジタル化やAIに関するスタンスのとりまとめに着手することを決定しました。具体的には、データ収集と管理、スキル訓練、公正な移行の3点に焦点を絞って、現在は加盟組織間で情報共有を進めている段階です。

8月26日からマレーシアで開催されるUNI世界ICTS部会大会では、新しい仕事の世界におけるICTS部会の取り組みが議論されます。先に述べた「オレンジの事例」を世界に共有するとともに、デジタル化やAI倫理に関する国際的な枠組みやルールの策定に向けた世論喚起などが議論される予定です。

今後の展望

労働組合の力が脆弱なアジアの一部地域においては注意が必要です。UNI Apro ICTS部会大会(2017年)では「デジタル化の進展によりゼロ時間契約、自営業の急速な増加、出来高払いの仕事が特に若者の間での非正規化を復活させている。労働者と労働組合が直面する課題は以前よりもずっと大きくなっている」と警鐘を鳴らしています。デジタル化時代にふさわしい革新的で創造的な労働組合組織と労使交渉のあり方を考えなければなりません。

UNIは国際的なルールづくりへ関与し、加盟組織は国内法の整備と企業側へのアプローチを進めることにより、相乗効果が期待できます。あわせて、デジタル化時代に適応した組織化のあり方も考えていく必要があり、多面的な取り組みが求められています。

注1:AIパートナーシップ

注2:オレンジ・デジタル化に関する協定

オレンジ社のウェブサイト。デジタル化協定を締結した目的や考え方について掲載

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