特集2019.08-09

仕事の未来を考える広がるプラットフォームビジネス
就労者の保護をどうすべきか

2019/08/19
技術発展に伴い、ウェブ上のプラットフォームを通じて仕事を見つける働き方が広がっている。一方、働く人たちの保護も課題になっている。労働法をどのように見直すべきか聞いた。
浜村 彰 法政大学教授

新しい問題提起

インターネットやAIの環境が整うにつれて、ウェブ上のプラットフォームを利用した仕事探しは不可避的に増加します。こうした働き方は、一般的に、企業の指揮命令に基づいて働くという従来の働き方とは異なり、好きな時間、好きな場所で働けるというメリットがあります。また、インターネットを通じて、国境を超えてボーダーレスに仕事を受注することもできます。仕事の幅が広がったり、自由に働けたりという意味では、プラットフォームを介した働き方が広がること自体は悪いこととは言えません。

しかし、だからといってプラス面ばかりではありません。企業側からすると、雇用契約を結ばずに、いつでも調達できる都合の良い労働力が増えることを意味します。この関係がそのまま是認されると、就労者は労働法の保護をまったく受けられないことになります。

プラットフォームを介した働き方であるクラウドソーシングは、こうした意味で労働法に新しい問題を提起しています。

労働者性はどうか

プラットフォームを介して仕事を得ているクラウドワーカーの労働者性について考えてみましょう。

労働者性については、労働基準法の労働者性と労働組合法の労働者性を分けて考える必要があります。

前者の場合、使用従属性という概念が、クラウドワーカーの労働者性を認めるために大きな課題になります。使用従属性では、業務遂行上の指揮監督の有無が問われます。クラウドワーカーは発注者の仕事をプラットフォームを通じて受注し、自らの好きな時間と場所で仕事をします。業務遂行上の指揮監督の有無という点に照らすと労働者性を認めることが難しいケースが多いと言えます。

一方、労働組合法の労働者性は、労働基準法より労働者性を広く捉えます。基本的な判断要素として、事業組織への組み入れや契約内容の一方的・定型的決定、報酬の労務対価性が問われます。特に労働者が、事業を遂行するために不可欠な労働者として組み込まれていれば、労働者性の認められる可能性が高まります。

クラウドワーカーに当てはめるとどうでしょうか。一般的にクラウドワークの場合は、クラウドワーカーが受ける仕事の発注者はプラットフォームもまちまちで、仕事の継続性がなく、恒常的に発注者の事業組織に組み入れられているとは言い難い実情があります。このような働き方は現状では労働者性が認められないことが多いでしょう。

特に「プロジェクト型」や「コンペティション型」の場合で、プラットフォームが料金の取り立てと支払いの代行を行うだけのクラウドワーカーと発注者との間の仲介だけにとどまっている場合には、プラットフォーマーに対する、クラウドワーカーの労働者性を問うことは難しいと言えます。

他方、「マイクロタスク型」のように特にプラットフォームが発注者から仕事を一括受注して、それを細分化しクラウドワーカーに再委託するような場合で、プラットフォームが業務の内容や仕事の方法・進め方を具体的に指示しているときには、プラットフォームとの関係でクラウドワーカーの労働者性が認められる可能性は高まります。

「ウーバーイーツ」の労働者性

しかし、「ウーバーイーツ」は上記とは形式が大きく異なります。「ウーバーイーツ」を飲食物の配送業者を営む事業者として考えれば、「ウーバーイーツ」は、レストランから受注した配送業務を配達パートナーに指示して利益を得るという事業を展開していることになります。実際、「ウーバーイーツ」は、配達パートナーを事業を遂行する上で不可欠な労働力として事業組織に組み入れており、報酬にも労務としての対価性があり、契約内容も「ウーバーイーツ」が設定したものに基づいています。これまでの判断基準に照らすと、配達パートナーが労働組合法の労働者性が認められる可能性はかなり高いと言えます。

労働法規の解釈見直しを

今後は、労働法規の適用のあり方が検討課題になります。現状では、労働者性が認められなければ、労働法の保護をまったく受けることができません。こうしたゼロか100かという適用のあり方を見直す必要があると考えています。

私は、新しい労働者のカテゴリーを立法政策によって創設するのではなく、まずは労働者性の解釈を柔軟にする形で対応すべきではないかと考えています。新しいカテゴリーを設けると区別が難しくなり、かえって複雑になる恐れがあるからです。

労働基準法の労働者性については、使用従属性に関する業務遂行上の指揮監督をもっと緩やかに解釈すべきと考えています。現状でも、管理監督者のように労務遂行に関する裁量性を認めながら、労働者性を認めている労働者もいます。一朝一夕に進む課題ではありませんが、使用従属性の解釈を見直していくことも必要でしょう。

その上で、労働者性を認めた請負労働者について、すべての項目の保護を適用すべきかは別問題で、例えば、安全衛生や労災補償、最低報酬については保護を適用し、労働時間や有給休暇の保護については場合によっては適用しないという考え方もあります。現状のようにゼロか100かという考え方では、多様化する労働者像に対応しきれないと思います。

共通ルールへ組織化を

労働組合法の労働者性に関しては、クラウドソーシングが広がると、必ずしも事業組織への組み入れ論が適用できない就労者が増えてくるでしょう。そうすると労働組合法の労働者性の認定も難しくなります。今後は、特定の企業や取引相手に対して継続的に労務を提供していない場合でも、労務を提供して対価を得ている場合には、労働組合法上の労働者性を認めるという方向性も検討すべきです。

そこで重要なのが、プラットフォーマーなどに共通ルールの策定を求めていく組織の存在です。産業や業種ごとに企業横断的に働く人たちを組織し、共通ルールを求めていく団体を組織していく必要があります。企業別組合以外のコミュニティーユニオンをはじめとした労働組合の役割発揮を期待しています。

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