仕事の未来を考えるグローバル化と労使関係
労働組合は国際連携をどう強化すべきか
経済のグローバル化と労働組合
経済のグローバル化は、労働組合運動にマイナスに影響するというのが学問的な見解です。元来、労働組合運動は国内労働者の雇用・労働条件の維持・向上が主な目的でした。安い人件費で自分たちから雇用を奪う他国の労働者とは敵対関係になりがちです。経営者はその敵対関係を利用しながら、労働組合運動を分断し、人件費がより安いところに雇用を移転させてきました。
経済のグローバル化は、ストライキにも悪影響があります。製造業はその典型です。A国で労働組合がストライキを起こすと、会社はB国に生産をシフトし、ストライキの効果を減退させてきました。
一方、労働組合運動は「ナショナルな運動」でありながら、その誕生時から「インターナショナルな運動」でもありました。外国に移転する雇用をどう守るかは繰り返し議論され、運動の統一は常に課題でした。現実的には言葉や文化、雇用慣行の違いがハードルとなって連帯がなかなか進まない現状がありますが、経済のグローバル化が進む中で、国際連帯の強化はますます重要な課題になっています。
グローバル枠組み協定の登場
国際労働運動では、1990年代から「グローバル枠組み協定」の締結が進んできました。「グローバル枠組み協定」は、多国籍企業と国際産別組織、当該企業労使等が署名し、締結するものです。効果は国外のサプライチェーンにまで及びます。
協定の主な内容は、国際労働機関(ILO)の中核的労働基準であり、団結権や団体交渉権の認識、児童労働・強制労働の禁止など普遍的な権利が中心です。ヨーロッパ系企業を中心に協定化が進んでおり、日本ではイオンや髙島屋、ミズノといった企業が締結しています。
この協定の意義は、国際産別組織が主体となって企業と交渉できることです。「グローバル枠組み協定」以前にもOECDの多国籍企業行動指針のような国際ルールの整備は進んできましたが、その実効性が課題視されてきました。その中で、「グローバル枠組み協定」は国際産別組織が一主体となって企業と交渉できる仕組みです。ILO条約などと異なり、労働組合が主体となって実効性を担保する点に意義があります。
具体的には、「グローバル枠組み協定」は、予防と違反行為が起きた後の事後対応のために使われます。ところが日本企業は、締結したら絶対に守らなくてはいけないという意識が強く、締結が進んでいません。予防や事後対応に役立てるという幅を持った考え方を持ち、締結を進めていくべきです。
UNIのグローバル協定締結実績例
- カルフール(商業。30ヶ国以上で450,000人を雇用)
- H&M(商業。世界最大のアパレル小売業者)
- メトロ(商業。250,000人を雇用)
- OTE(ギリシャに拠点を置くテレコム企業)
- ポルトガルテレコム(テレコム。欧州、アフリカ、マカオ、ラテンアメリカ)
- テレフォニカ(テレコム。ラテンアメリカで強く、欧州、米国でも展開)
- 髙島屋(2008年)
- ミズノ(2011年11月)
- イオン(2014年11月)
現地労働者との連帯
「グローバル枠組み協定」は一般的には、現地の労働者からの告発を受けて、国際産別組織や本国の産業別労働組合、企業別労働組合が対応するという流れで運用されます。
今後の課題は、現地の労働者・労組と本国の労働者・労組との連携です。
まず、日本の場合、本国の労働者・労組が現地の労働者の労働条件や労働組合の結成状況について知らないことがほとんどです。特に日本の企業別労働組合は、国外で働く現地労働者への関心が低いと感じています。
日本の労働組合は国外の労働者との連携にもっと積極的に取り組むべきです。例えば、海外事業所で労使紛争が起きた場合、その影響は本国にまで及び、場合によってはブランドイメージが傷つきます。国際産別組織などは多国籍企業を対象に、グローバルなキャンペーンを展開します。日本企業がそのターゲットになれば、企業経営へのダメージは避けられません。これは日本の労働組合としても放置できない事態です。消極的な理由であっても、日本の労働組合は国外の労働者の状況にもっと目を向けるべきではないでしょうか。
日本でも先進的な事例はあります。例えば、イオングループ労連では、イオンが国外に出店する際、労連のスタッフが現地の労働者に対して労働組合の権利などに関するトレーニングを行っています。イオンで働く人であれば、どの国の労働者であっても普遍的な労働に関する権利は守られるべきという理念に基づいています。このような取り組みがさらに広がっていくことを期待しています。
ドイツ自動車会社の事例
労働組合運動にとって、経済のグローバル化がもたらすもう一つの問題は、「真の使用者」に近づけないという構造的な課題です。工場閉鎖や事業撤退などのほとんどは、本社で決められます。たとえ現地の労使間で閉鎖撤回の交渉をしていても、現地のトップにその決定権限はないことがほとんどです。労組法も国内の労使関係には適用されても、海外にある本社との交渉には反映されません。
こうした問題に対応するためにドイツの自動車会社フォルクスワーゲンは、年1回、世界に約100ある工場の従業員代表が集まる会議を開催しています。そこでは例えば、ある工場の稼働率が低くレイオフの危険があるから、別の工場から生産の一部を移そうという話も出てきます。海外工場の労組が、本社の経営トップと意見を交わす場も設けられています。
こうした取り組みには多大な労力がかかります。でも、労組幹部たちは「世界のどこで働いていても、労働者は組合に加盟し、発言権を持つべき」「各国の労働者は団結し、支え合うべきだ」と願い、その使命感に突き動かされて運動していました。また、フォルクスワーゲン労組の国際担当者は英語を話せませんでした。彼は、「国際運動は、語学力ではなく、やる気の問題」と話していました。
費用は会社が負担
フォルクスワーゲンの「世界会議」の費用はすべて会社が負担しています。ダイムラーやGM、フォードも同様の取り組みを行っていますが、その費用もすべて会社が負担しています。これは労働組合が要求して勝ち取ったものです。渡航費や通訳費などを勘案すると労働組合の力だけで継続することは難しく、会社に負担を求めることも方法の一つです。労使関係の安定に寄与できるのならば、会社も負担のあり方を検討するのではないでしょうか。
企業がグローバル化を進める中で、労働組合だけが内向きになっている状態はアンバランスであり、いつか大きなひずみとなって表面化すると思います。企業戦略として生産拠点をどこまで国外に出していいのかという点でも、労働組合には理論武装が求められます。
すべての労働者のディーセント・ワークを求めることが、間接的に自国の労働者の労働条件・雇用を守ることにつながります。国際連帯の強化はさまざまなハードルがありますが、内向きになってはいられません。労働組合運動の理念や使命感をいかに取り戻すかが問われているのかもしれません。