仕事の未来を考えるデジタル技術革新への対応
UAゼンセンの取り組み
生産性三原則をベースに提起
繊維・化学・流通・サービスなどの産業別労働組合「UAゼンセン」(組合員数約180万人)は、2019労働条件闘争で、デジタル技術革新に対して生産性三原則を労使で再確認する方針を掲げ、加盟組合に呼び掛けた。
具体的には、「革新的新技術導入に向けた労使確認(例)」を参考として提示。加盟組合における労使協議を促した。労使確認(例)の内容は、(1)革新的新技術の導入は労使確認の上で実施し、運用に関しても労使で協議する(2)従業員の能力開発を強化し、必要な場合は雇用維持を前提に職務転換などを行う(3)生産性向上に関して労使協議の上、株主、従業員、消費者などの関係者に適正な配分を行う──というもの。デジタル技術革命が進行する中でも、「生産性運動に関する三原則」が基盤になるとの考え方に基づいている。
「革新的新技術導入に向けた労使確認(例)」
(1)革新的新技術の導入は労使確認の上で実施し、運用に関しても労使で協議する
(2)従業員の能力開発を強化し、必要な場合は雇用維持を前提に職務転換などを行う
(3)生産性向上に関して労使協議の上、株主、従業員、消費者などの関係者に適正な配分を行う
労働組合が先手を打つ
こうした方針を掲げた背景についてUAゼンセンの松井健・常任中央執行委員は、「AIやIoTなどデジタル技術の広がりが雇用に与える影響が議論されるようになっています。従来、自動化は製造業で議論されてきましたが、流通やサービス業にも大きな影響を及ぼすということに問題意識を持っていました。大切なのは、会社が実際にデジタル新技術を導入する際に労使協議を実施できること。労働組合側から経営側に早めに投げ掛けることが大切と考え、今回の方針を策定してきました」と話す。組織内の議論では、製造業の加盟組合では同様の運動をすでに展開してきたという声もあったが、流通・サービス業への影響を意識して、あらためて労使協議の必要性を訴えた。労働組合から先手を打って労使協議を呼び掛ける点がポイントだ。
現場の声を反映させる
2019労働条件闘争では、4単組が要求趣旨に沿って労使協議を行った。需要予測にAIを用いる際の改善点について会社と協議した加盟組合もあった。「しゃくし定規にAIを導入するのではなく、現場の声を反映しながら展開できるのが、日本の労使関係の強み」と松井さんは説明する。人材育成の強化については26組合が要求し、9組合が労使合意した。今後の運動の展開については松井さんは「この問題に取り組む必要があるという意識は加盟組合の中でも広がっているので、今回提起したものをさらに広げていきたい」と話す。
また、今後の課題として人事、採用、評価におけるAIの導入について挙げる。「人事評価は労働者の納得が重要です。AIの運用についても労使協議が欠かせません。ルールづくりが今後の課題です」と松井さんは指摘する。
適正な配分が欠かせない
自動化が進んだ結果、「自動化コストに見合わない単純労働のところにだけ人が残る」と懸念する声もある。これに対して松井さんは「『人でなくてはならないから人がやる』という方向に持っていくことが大切。最低賃金など賃金を引き上げて、人のする仕事の価値を上げていくことも大切だと思います」と指摘する。その上で「やはり重要なのは、生産性向上の成果をしっかりと働く人たちに配分すること。ここが大きな課題です」と強調する。
デジタル技術の進展は、活用の仕方によって労働者にも経営者にもメリットをもたらすことができる。そのためには、労使での真摯な協議が欠かせない。