常見陽平のはたらく道2019.11

労働組合役員の「働き方改革」
「おまいう案件」にならないために

2019/11/15
「働き方改革」を訴える労働組合役員が働きづめでいいのか。「おまいう案件」にならないためにどうするべきか。

仕事柄、労組の集会で勉強会講師をする機会がよくある。皆さん、勉強熱心だ。控室や終了後の会食では、今後、労組として勝ち取るべきことについて激論になることもある。

ただ、ふと冷静になる瞬間がある。労働者の権利を守るために闘っている幹部たちも相当忙しいのではないか。私がお邪魔するのは、平日の午後や、週末ということも多い。業務を抜けなくてはならないし、休日も返上となる。その分の業務量は減らしてもらえないことだろう。結果として、残業も誘発されるのではないか。大きなイベントだけでなく、組合活動は日々、続いていく。

ネットスラングで「おまいう案件」というものがある。「それを、お前が言うか」というものだ。政治家や、経営者がこれまでの言動と矛盾するような偽善的な発言をした場合に使われる言葉である。

労組幹部は、労働者の権利を守るため、拡大するために日々、闘っている。しかし、熱が入るあまりに、本人自身が過労気味になっていないか。さらには、プライベートを犠牲にしていないか。自らが労働者、生活者として過酷な日々を送っていたとしたら、感謝されるどころか「ああはなりたくない」と言われるかもしれない。「おまいう案件」そのものである。

「よりよい労働条件」として上げられるものといえば、長時間労働の是正、有給取得率の向上である。これを労組幹部が自ら実践していなければ、すべての要求は絵に描いた餅になってしまう。仕事の絶対量、やり方を見直すこと、自分のプライベートの時間を確保することを自ら実践しなくては意味がない。

育児、介護など家庭の事情を抱えている労働者は今後ますます増える。普段の仕事もそうだが、労組の活動も生活者としての事情を考慮したものにするべきだ。子どもの卒業式や入学式、運動会シーズンの週末の活動には配慮が必要だろう。また、保育園の送迎などにかかわる時間と活動が重ならないようにすることもマストである。

やむを得ない場合は、テレビ会議などの活用も検討するべきだ。これこそ、情報労連が率先して取り組み、ベストプラクティスを世に提示するべきだろう。

私自身、労働問題に向き合う者の一人として、いかに育児・家事にかかわる時間を最大化するかにこだわっている。1日6時間、育児と家事に時間を注いでいる。家庭で出る料理の95%は私がつくっている。

主夫生活を最優先するために、大好きだった酒もやめた。いざというときのために、いつでもクルマを運転できるようにするためである。「あの人は飲まない人」というキャラに認定されると、自然と飲みの誘いも減る。結果として、家庭にいる時間が増え、人生が充実した。

もちろん、以前ほど働くことができず、モヤモヤすることはある。ただ、自分自身がいかに働きすぎないか、生活者としての自分の時間を優先できるか、実践しなくては社会が変わらないと思い、取り組んでいる。

労組にかかわっている人はつらそうだと思われては元も子もない。労組にかかわる者こそ、働き方改革が必要であるし、生き生きとしていなくてはならない。生活と両立できる活動をめざそう。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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