労働者の個人情報保護は、今、そこにある問題だ
「関西人にとって“内緒やけどな”で始まる話は、もう誰もが知っている話である」。SNSでこんな投稿を見て失笑した。
「秘密」をいかに管理するか。本当に隠したい話は、職場では話したくない。中には、上司や同僚に打ち明けることによって、気持ちがスッキリすることもあるのだが。
ただ、現代の「秘密」は実に多岐にわたっている。例えば、ウェブの閲覧履歴、ECサイトの購買情報などがそうだ。GAFAと呼ばれるプラットフォーマーは個人情報を活用し、ビジネスを行っている。世界的にこれらのプラットフォーマーに対する規制の議論が起こっている。
職場は、個人情報の固まりである。社内でのウェブのアクセス履歴は立派な個人情報だ。さすがに、プライベートな情報の閲覧は社内の端末ではなく、個人のスマートフォンなどで行うだろうが、とはいえ、各種クリック履歴からAIを駆使して、その人の行動パターンなどを分析することができる時代である。
データとテクノロジーを駆使して人事に生かす取り組みはすでに始まっているし、これをビジネス化する企業も現れた。これらの取り組みはHRテックと呼ばれる。企業の中でパフォーマンスが高い社員と低い社員の行動ログを分析する、離職しそうな社員を判断する、面接のやりとりをもとに入社後の活躍イメージまで診断する企業が現れ始めた。
昨年、問題となったリクナビの内定辞退率予測問題は求職者のデータの取り扱いの問題だった。承諾の取れていない学生のデータ利用は言語道断だが、そもそも内定辞退率の予測をすることの是非も問われた。
活用されるのはこのような人事にかかわるデータだけではない。最近では、同意を得た従業員の血液の遺伝子解析をし、これを活用した新規事業を行う企業も現れた。血液、遺伝子などは究極の個人情報だ。
もちろん、ウェブのログにしろ、血液にしろ、利用する際は従業員や求職者が「同意」したことが前提となる。ただ「同意」すれば何をしてもいいのか。弱い立場にある際は「同意」せざるを得ないことだってある。
一方、特にウェブのログなどを活用する側の論理も確認しておきたい。活用する側の意図としては、個人情報を最大限に活用することによって、よりその人にマッチした対応をしたいというものがある。
労組にとって、この個人情報の保護は新たな論点である。まずは自社が従業員、さらには消費者を含め、どのような個人情報を収集し、活用しているのか。そこに不適切な対応はないのかを確認しておきたい。データを人事上の判断に使っていないか、それは適切なのかなどは論点となるだろう。退職時にも、必要のないデータはすべて削除するなど、検討するべきことは多数ある。
法律に反しているわけでもなく、不適切ではないが、不愉快な活用というものもある。労働者が「このデータの活用は気持ち悪い。ゆえに、快適に働くことができない」と感じるものについては、NOという勇気も必要だ。
働く環境は常に変化する。労働者の個人情報保護に関して理解を深め、権利を主張しよう。