常見陽平のはたらく道2020.05

現実感のないコロナ禍の日々
みんなのリアルを共有しよう

2020/05/15
フィクションのような日々が続いているが、今こそみんなの困っていることを共有し、解決を模索しよう。

新型コロナウイルスショックの中、学生たちのことが心配になり、就活中の4年生を対象に、緊急リモート面談を行った。教員による面談は何かと構えてしまうのではないかと心配していたが、学生からの反応はよく、あっという間にスケジュールが埋まっていった。

一部の政治家から「若者よ、外出するな」という、いかにもレッテル貼りのような呼び掛けがあったが、皆、おとなしく家にいた。そこには学生の数だけ、ドラマがあった。アルバイト先が休業となった人もいれば、帰国者を泊めるホテルで働いている人もいた。新型コロナウイルスが大問題となる前に帰省をし、ずっと地元で過ごしている人もいた。家族全員、基礎疾患を抱えているという学生もおり、不安な日々を送っているという声も聞いた。いつも親と一緒で困るという、切実な声もあった。

多くの学生が、就活が中断し、困惑していた。選考が進んでいたのに、連絡が来なくなったという学生が多数いた。説明会や選考も、ウェブによるものになり、会社の雰囲気がつかめず、悩んでいた。

就活だけではない。卒業論文の不安ものしかかる。大学のキャンパス内には夏まで入ることができない。図書館も使えない。濃厚接触を避けるため、フィールドワークなども困難となる。卒論に没頭するということ自体が困難になっている。

少し前までの普通の日々を送ることができなくなっている。まるでSF作品を見ているかのような日々を送っている。これがフィクションなら、正義のヒーローが平和を取り戻してくれそうだが、残念ながらノンフィクションだ。新型コロナウイルスはどこにあるのかもわからない。外出自粛、在宅勤務推奨ということもあり、社会がよくわからなくなっている。

「新しい働き方を考えよう」。いかにも意識高い系の呼び掛けのようだが、真剣にこの問題と向き合わなくてはならなくなった。そういえば、ロシアの通信社スプートニクから取材を受けた。新型コロナウイルスショックと日本の労働者というテーマだ。こんな質問を受け、戸惑った。「日本は東京五輪に向けて、テレワークの準備を進めてきたのではないか? なぜ、みんなが円滑に移行できないのか?」

あなたならどう説明するだろうか? これまでの取り組みの化けの皮がはがれる。

「普通の日々」が、少なくともいったん終わってしまった。この異常な、異様な状態が普通になっている。新しい働き方の模索が続く。

このときに、「仕事があるだけまし」などと考えず、困っていることを共有し、解決策を模索することこそ大切にしたい。みんなが我慢して苦しみ、うまくいっている風を装う社会に未来はない。

みんなが困っている。在宅勤務前提だと、交通費はかからなくても、食費、光熱費、通信費は増える。これまで通りに働くことができないし、心身の健康の問題も顕在化する。孤立・孤独化の問題もある。

今こそ、労働組合は、労働者がいま、直面している課題の代弁者であるべきだ。このフィクションのような日々を救う、ノンフィクションを始めよう。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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