トピックス2020.08-09

新型コロナウイルスの影響子どもの貧困問題に新型コロナウイルスが与えた影響
ユニバーサルな子ども・若者支援が必要

2020/08/17
学校の長期休業をはじめ、新型コロナウイルスが子どもたちを取り巻く環境に与えた影響は大きい。子どもの貧困問題に取り組む「あすのば」の小河さんに現状や求められる支援策などを聞いた。
小河 光治 公益財団法人あすのば
代表理事

──新型コロナウイルスが子どもの貧困問題に及ぼす影響は?

一言では言い表せないほど深刻です。しかも日々、深刻化しています。先行きが見えず、経験したことのない事態に陥っています。

子どもの貧困問題は「コロナ」以前から深刻でした。困難を抱えた人たちは、以前から薄氷を踏むように何とか生活してきました。今回の事態で氷が割れ、冷たい海に投げ落とされたような状態です。

日本の子どもの相対的貧困率は13.5%。約7人に1人の割合です。さらに、ひとり親世帯の相対的貧困率は48%で半数にも及びます。これらは先進国でも最悪レベルです。

特にひとり親世代は「働いているのに貧困」です。シングルマザーの就労率は約8割で世界トップクラスに働いているのに、貧困率が高い。いわゆるワーキングプアです。

子ども自身も働いています。高校生を対象にアンケートを取ったところ、高校1年生の10月段階で3分の1の生徒がアルバイトをしていました。中には、学費や家計のためにアルバイトをしている子たちも少なくありません。雇用情勢が悪化し、休業や雇い止めに直面した人が数多くいます。

また、これまでも夏休み中に給食が食べられずに、休み明けにやせた状態で登校する子どもが増えるという話を聞いていました。今回、長期の休校によってその影響が深刻化しています。さらに、給食が出ないことで家庭の食費もかさみます。収入が減って出費が増えるというダブルパンチです。

このように、生活に困難を抱えていた世帯は、普段からぎりぎりの生活をしてきたのに新型コロナウイルスの影響でさらなる困難に追い込まれています。出口の見えない状態です。

──支援策は行き届いているでしょうか。

「あすのば」では3月から政府に政策提言してきました。政府は第二次補正予算でひとり親世帯に5万円、第二子以降に3万円ずつを上乗せ支給、さらに感染拡大の影響で大幅に減収している世帯に5万円を加算する支援策を盛り込みました。また、困窮学生等に対する支援策も打ち出しました。こうした政策には私たちの要望もかなり反映されました。その点は評価できます。

しかし、これだけで十分とは言えません。東日本大震災のような甚大災害も同じですが、社会的に立場の弱い人が災害から立ち直るには、ほかの人たちより長い時間がかかります。ですから、継続的な支援とそのための実態把握が欠かせません。政府に継続して働き掛けていきます。

──「あすのば」でも独自の支援に取り組んでいます。

これまでも「あすのば」では、「入学・新生活応援給付金」を行ってきました。進学や就職など新生活にかかる費用などを支えることが目的です。住民税非課税世帯の子どもなどに3万〜5万円を支援してきました。

今回は、緊急支援の第1弾として、2019年度の「入学・新生活応援給付金」の対象からもれてしまった1300人に追加給付として一律3万円を送金しました。また、緊急支援第2弾として、「家計急変・生活困窮特例給付金」を実施中です。住民税非課税世帯の高校生ら1200人に一律4万円を支給する取り組みです。高校生を緊急支援第2弾の対象にしたのは、公的支援から高校生が抜け落ちているからです。

第一弾の支援を含め総額8700万円が必要になりますが、7月20日現在、クラウドファンディングなどで5739万円が集まりました。寄付の受け付けは8月31日まで行う予定です。

──対策を講じなければ将来的にも大きな影響が生まれます。

新型コロナウイルスの影響で生じた格差を放置すれば、将来的な格差の拡大につながることは間違いありません。阪神・淡路大震災や東日本大震災でも経済的な基盤が弱い人ほど復興から取り残されてしまいました。今回は全国的にその問題が起きています。手を打たなければいけません。

──何が必要でしょうか。

「あすのば」を立ち上げて5年になりますが、つくづく感じるのは、日本ではすべての子ども・若者を対象にした公的な支援が少ないことです。子育てや教育に関する日本の公的負担の割合はOECDで最低レベル。出産から就職まで、すべての段階で支援が足りません。そのため生活困窮世帯でなくても分厚い氷の上を安定して歩けるわけではありません。スティグマを生まないような、すべての子どもや若者を対象にした普遍的でユニバーサルな支援の強化が必要です。そうすれば今回のような事態があっても、ダメージを軽減できます。例えば、児童手当の対象年齢の引き上げ(18歳まで)のような政策があってもいいと思います。

──雇用のセーフティーネットも重要になりそうです。

子どもの貧困は、家庭の貧困です。子どもの貧困は親の貧困でもあります。シングルマザーに象徴されるように生活困窮世帯であっても働いています。問題は、仕事に就くことではなく、仕事の質を上げていくことです。企業の努力と公的な支援の両方が必要です。

また、若年労働者支援も大切です。貧困の再生産を生まないためにも、若年労働者の就労支援には大きな意義があります。特に高卒者向けの手厚い就労支援が求められます。

子どもの貧困問題には雇用問題が大きくかかわっています。労働組合の皆さんのサポートを期待しています。

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