常見陽平のはたらく道2020.08-09

危機でも暴挙を許すな
雇用と生活を防衛しよう

2020/08/17
コロナ危機で苦境にある企業は多い。だが安易な解雇などの暴挙を許してはいけない。雇用と生活を防衛しよう。

新型コロナウイルス問題に直面する中で、雇用を、さらには生活をどのように守るか。今、そこにある課題である。人類の歴史に残る分岐点である。一部の業界では、売上が壊滅的にダウンしている。言うまでもなく休業者や失業者の増加につながるおそれがある。

「未曽有の危機なのだから、やむを得ない」。経営者はさまざまな苦渋の決断をせざるを得ない。このような言葉は説得力があるようにも聞こえる。企業が存続しなくては、従業員は路頭に迷うことになる。しかし、「新型コロナウイルスショックの対応のためには、やむを得ない」という切実な言葉を巧みに利用して、労働者を不当に扱うことなどは許してはならない。「倒産するよりも解雇して失業保険をもらった方がいい」などという暴論がのさばることがあるが、このような美談を装った暴挙を看過してはならない。

私自身、大学で教え子たちの進路相談をしている中で新型コロナウイルスショックの影響を至近距離で目撃している。人気企業の選考が進んでいたのだが、内定が出る前に採用活動が凍結されてしまった。メディアでは報じられていたが、目の前にいる教え子がその被害に遭うとは思わなかった。

このような採用活動の凍結は、航空会社や、旅行代理店など観光関連の企業などで見られた。確かに、これらの企業は業績悪化どころか「壊滅的」だ。2020年7月には、各地でまた感染者数が増加する中、「Go To Travel キャンペーン」が決行され賛否両論を呼んだ。感染拡大キャンペーンではないかと批判が殺到したし、一部の自治体では首長自らが「来ないで」と抗議声明を出すなど、異常な事態に発展した。とはいえ、業界関係者からすると、何もしなくては倒産が連鎖してしまう。何らかの支援を求める業界からの声には耳を傾けるべきだろう。

一方、採用凍結に関しては腑に落ちない点も多々あった。ある大手企業の社長は全国紙のインタビューで、新卒採用凍結について、入社してもしばらく仕事がないことなどを理由に挙げていた。今後はビジネスモデルの転換をめざすという。ただ、新しいビジネスを検討するのであれば、ますます新しい血を入れるべきではないか。リーディングカンパニーとして、採用はやめないという姿勢を見せてほしかった。実に残念である。コロナ時代の観光のあり方を考える上でも、コロナ後の観光復活を支えるためにも、人を採り続ける姿勢を期待したかった。

フリーランスや個人事業主の実態にも目を向けたい。中には、「実はウーバーイーツで働いている」など、「本業」以外の仕事で生活を維持している人が散見される。「好きなことをしているのだから、自己責任」という言説が横行しそうだが、苦しい実態を理解したい。

労働組合の立場としては、国内外においてこのような暴挙、策動が貫徹されていないか注視すること、それに対して声を上げること、さらには国内外の同志たちがどのように不当な対応に対してあらがい、前進を勝ち取ったかを確認し、その知見を学び、熱情を感じ取ることである。雇用を、生活を防衛しよう。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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