常見陽平のはたらく道2020.11

コロナと転職
こういうときほど慎重に

2020/11/13
「コロナ・ショック」に合わせて転職を考える人もいるかもしれない。だが、こういうときほど慎重に考えてほしい。

私の古巣リクルートは『B-ing』という転職情報誌を発行していた。10数年前に休刊したのだが、末期に流れていたテレビCMは大爆笑ものだった。『仮面ライダー』の映像がそのまま使用され、これにショッカー構成員の「この仕事は、オレじゃなくてもいい気がする」「うちの職場は無責任な上司が多すぎる」「これって、土日まで使ってやる仕事だろうか」という心の声がテロップで入る。「もっと輝ける場所へ」がテーマだった。

もっとも、その業界の「中の人」だった立場で語るが、求人広告や人材紹介会社が広告を派手に投下するのは好況期か、競合する他社サービスよりもシェアを取ろうとしている局面である。少しでもサービスの効果を上げるためだ。ここ数年、You Tubeを見るたびに求人関連ばかりだったという人もいることだろう。それはあなたが、転職適齢期だったからかもしれない。

新型コロナウイルスの影響で転職を考えている人もいることだろう。この局面での転職は、「もっと輝ける場所へ」というよりよい条件を勝ち取るものには、必ずしもならない。勤務先の倒産、業績の悪化、企業の未来への不安、給料のダウン、コロナによる過重労働などから転職を考える人も多いことだろう。

切羽詰まった人ほど、落ち着いて聴いてほしい。転職は、こういうときこそ慎重に考えてほしい。転職市場とは文字通り、「市場」だ。気を付けないと、自分自身が買いたたかれることがよくある。特にこの局面は、自分自身を大安売りしてしまうリスクや、よりよい条件を求めていたのにもかかわらずむしろ環境が悪化するリスクも認識するべきだ。

転職は自身の何らかの事情が関係する。ただ、自身の都合だけではなく、転職先の募集背景についても理解しておこう。なぜ、この企業はその募集を行っているのか? この環境下でも業績が好調で人手不足なのか、あるいは人の出入りが激しいからなのか? このあたりを読み解こう。

新型コロナウイルス・ショックに合わせたUIターンや、地方に移住した上でのテレワークなども話題となっている。ただ、石川県のいしかわUIターン応援団長を拝命し、4年間活動してきた立場から言うと、これが納得感のある移住になり得るかどうかは疑問が残る。そのエリアのことをじっくり調べるべきであることは言うまでもない。「地方」や「田舎」をイメージで語ることほど危険なことはない。自身や家族の置かれている環境と果たして合っているのかを考えたい。理想の暮らしがむしろ手に入らない場合もある。

人類が新型コロナウイルス・ショックをどのように乗り越えるのか。人ごとではなく自分事なのだが、その着地点はまだ見えない。ただ、転職を考えるなら、コロナ後を見据えて、ゆっくり考えることをおすすめする。

転職は慎重に。以前、求人情報誌編集部にて転職をあおるという罪深い仕事をし、自ら4つの組織を渡り歩き、フリーランス活動を経験した私は心からそう言いたい。そして「こんな会社、辞めてやる!」と怒り狂っているときこそ我慢のしどきで、「さあ、次に行こう」と心から思える瞬間を待つことをおすすめする。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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