特集2020.12

2021春闘に向けて「賃上げの流れを止めない」
春闘で労働組合の役割発揮を

2020/12/14
連合は2021春季生活闘争で「2%程度」の賃上げ要求を含む闘争方針を決定した。労働組合の要求が、日本経済を支えることにつながる。方針の背景などを石田副事務局長に聞いた。
石田 昭浩 連合副事務局長

──足元の経済情勢をどのように捉えているでしょうか。

産業によって業績へのダメージにばらつきがあります。売上が大幅に減少し厳しい状況に追い込まれている産業がある一方、業務量が増え多忙化している産業もあり、その振幅が見られます。

現時点で、今後の経済動向を見通すことは困難です。例年の春季生活闘争方針には国内外の経済情勢を項目ごとに記載してきましたが、今年は最低限にとどめました。変化の幅が大きく、情勢が不透明だからです。

今回の場合、政府が感染症対策として人の動きを制限したことが経済に大きく影響しています。人の動きが戻れば回復基調になるとの分析もありますが、それがいつになるのか、はっきりとわかりません。

構成組織の間にも情勢にばらつきがあります。そのため、春季生活闘争の基本構想を練るにあたっては、一枚岩の方針へとつなげていくべく、構成組織と粘り強く論議を重ねてきました。

──その上で2021春闘の基本的な考え方をどのようにまとめたのでしょうか。

2021春季生活闘争方針の大前提として、まず賃金カーブ・定期昇給の維持があります。これは基本中の基本です。

その上で、賃上げ要求ですが、「要求をしない」という選択はしないでほしいというのが本音です。「要求してもゼロ回答だから」「こんなご時世に賃上げ要求はできない」という声もあるかもしれません。しかし、「要求なければ交渉なし」です。たとえ結果として賃上げを実現できないとしても、要求し交渉することで、そのプロセスの中から企業がどのような状況に置かれているのか、そのために何をすべきなのかが見えてきます。交渉を通じて労使が情勢について認識を共有することは、今後につなげていくためにも極めて大切です。企業に職場の現状を伝え、会社の状況を組合員に伝えるのも労働組合の役割です。

──方針では「2%程度」の賃上げ要求を掲げています。

春季生活闘争方針では、定期昇給相当分(2%)とともに、「2%程度」の賃上げ要求を掲げました。

「2%程度」という数字には、「厳しい環境下でも賃上げの流れを止めない」、賃上げの継続性という意味を込めています。連合はこの間、自律的な経済成長のためには2%程度の賃上げが必要だと訴え続けてきました。今後の経済成長のためにも、その数字を継続する必要があると判断しました。

確かに、今春闘を巡る賃上げの環境は例年とは大きく異なります。しかし、コロナ禍以前からの構造的課題である人口減少や格差の状況を踏まえれば、GDPの6割を占める個人消費の維持・拡大が不可欠であり、そのための賃上げは欠かせません。また、世界経済の不確実性が依然として高い中では、内需の拡大がいっそう重要になります。賃上げは「コロナ後」の日本経済を支えるためにも必要です。

過去のデフレ下では、不況を背景に賃上げ要求を控えた時期もありました。こうした状況では、賃金制度のある組合であれば定期昇給が確保されますが、制度がない組合では賃上げ要求をしなければ実質的な賃下げとなり、制度のある組合との格差が広がっていきます。賃金格差の拡大を防ぐためにも賃上げを求めていく必要があります。

加えて、コロナ禍の中、医療・介護、インフラ、食料品など生活必需品の製造、小売り・物流などいわゆるエッセンシャルワーカーなどの処遇が必ずしもその「働きの価値に見合った水準」 となっていない現状なども明らかになりました。こうした働く仲間の格差是正のためにも、賃上げを要求する必要があります。

──一方で、雇用維持も難しいという情勢の企業もあります。

業績がかなり厳しいところにまで要求水準の縛りをかけるつもりはありません。しかしながら、賃上げの継続性を担保するためには一定の要求水準を示す必要があります。

他方、互いの状況を認め合うことも重要だと考えています。方針では、それぞれの産業における最大限の「底上げ」に取り組む旨を掲げています。

──賃上げに向けてどのような戦略を描いていますか?

今回の方針では、賃上げに向けて、五つの分野で基盤整備を行うことを掲げています。

一つ目は、セーフティーネット機能の強化です。厳しい情勢において雇用のセーフティーネットの強化が欠かせません。連合は「コロナ禍における雇用・生活対策本部」を設置しました。失業なき労働移動の具体的な政策や社会保障や職業訓練などを強化するよう政府などに要請しています。雇用のセーフティーネットの整備は賃上げと同様に重要な柱です。

二つ目は、内需の回復のためには、必要以上に消費を冷え込ませない環境づくりが重要です。そのための取り組みとして、「消費者のマインドにプラスワン」という社会への呼び掛けを展開していきます。

三つ目は、サプライチェーンで生み出した付加価値の適正な配分です。賃上げ原資を確保していくためには、働き方も含めた「取引の適正化」の推進が不可欠です。連合は、構成組織や地方連合会と連携し、「パートナーシップ構築宣言」による好循環の実現をめざします。

四つ目として、「働きの価値に見合った水準」への賃金の引き上げを実現するために、個人別賃金データの収集や産業や地域での相場形成に向けた「地域ミニマム運動」などを展開していきます。

五つ目は、春季生活闘争方針を通じた組織拡大の取り組みです。集団的労使関係がなければ、交渉もできません。労働組合をつくって交渉できる体制を増やしていきます。

このように今回の春季生活闘争では、賃上げの基盤整備としての取り組みを整理しました。こうした取り組みを通じて、賃上げの実現をめざします。

──未組織も含めた春闘の波及効果が課題になっています。

交渉の結果だけではなく、そのプロセスも含めて、社会に対して連合の取り組みを「見える化」していくことが重要だと考えています。コロナ禍にあって、連合はなぜ賃上げ要求を掲げるのか、そうした背景も含めて社会に発信することが重要と考えます。

昨年の春季生活闘争では、未組織労働者や外国人労働者、請負労働者などの人たちにも、集会に参加してもらい、賃上げの重要性などについて認識の共有を図りました。こうした取り組みを通じて、賃上げ要求の重要性を社会全体で共有していきたいと考えています。コロナ禍で対面型の集会の開催が難しいため、デジタル空間をはじめとするさまざまな媒体を活用したアピール活動を検討しています。

厳しい情勢の中、方針の策定に至るまでに紆余曲折がありました。しかし、労働組合がここで踏ん張って要求を掲げることが、日本社会を支えることにつながります。「要求なければ交渉なし」です。苦しいときだからこそ、支え合いです。力を合わせてともに頑張りましょう。

特集 2020.122021春闘に向けて
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー