特集2020.12

2021春闘に向けて「不利益変更」への対応を
組織強化につなげよう

2020/12/14
新型コロナウイルスによる経済情勢の悪化で、会社から不利益変更の提案があるかもしれない。どう対応すべきかおさらいしておこう。
松岡 康司 情報労連組織拡大局長

不利益変更のルール

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、会社から労働条件に関して「不利益変更」を提案された、または「不利益変更」されてしまったという労働相談が増えています。そこで今回は、「不利益変更」の対応において、労働組合が留意すべき点について解説します。

「不利益変更」とは、就業規則等に定められた賃金や労働時間、休日、福利厚生などの労働条件が、現行と比して労働者にとって悪くなる変更のことをいいます。

まず対応にあたって押さえておきたいポイントは、「会社は勝手に『不利益変更』はできない」ということです。労働契約法第9条は、会社は、労働者と合意せずに労働条件を労働者の不利益に変更することはできないよう定めています。そして、会社が一方的に労働者の不利益に就業規則を変更したとしても、社員の合意が得られないときは、就業規則は適用されないようになっています。ただし、同法の10条によれば、その変更が、合理的であり、労働者に変更後の就業規則を周知させることにより、「不利益変更」が認められる場合があります。

ここでいう合理性とは、(1)労働者の受ける不利益の程度(2)労働条件の変更の必要性・変更後の就業規則の内容の相当性(3)労働組合等との交渉の状況──によって判断されます。当たり前ですが、会社は合理性があるものとして「不利益変更」を実施しようとしますが、労働組合の重要な役割である「労働条件の維持向上」と相反するものです。会社の合理性を簡単に受け止めるのではなく、「不利益変更」の対応は優先的に取り組まなければならない労使案件として、団体交渉でしっかり対応する必要があります。

団体交渉でのポイント

団体交渉での重要なポイントは、「不利益変更」をする理由と変更内容の合理性の判断です。会社からの説明を聞いて、対象となる組合員に労働組合としてきっちり説明できるかどうかが判断のカギとなります。例えば経営不振による倒産を避けるために、社員の賃金を半分にカットするという「不利益変更」が会社から提案があったとします。一見、変更の理由には合理性があるように感じられますが、賃金をカットする前に、経営不振の打開策や支出削減など従業員の賃金カット以外の合理化策がまったくとられていなければ、組合員に説明し、理解を求めることができるでしょうか?

また、賃金をカットすることで、到底暮らしていけないような賃金になるようでは、いくら倒産を避けるためとはいえ合理性があるとはいえません。労働組合には、「不利益変更」の必要性と組合員に生じる「不利益」のバランスを見極め、少しでも不利益を減らすことが求められます。

交渉力を高めるために組織化を

もちろん会社との交渉の力の源泉は、組合員の数です。組合員数が少なければ労働組合の意見は少数の意見の代表となり、力を発揮できません。さらに組合員の数を「交渉力」とするには、組合員に周知をしっかり行うとともに、会社と最終的に合意をする前段では、大会や委員会などで組合員と合意形成(意思統一)の場を設定することは言うまでもありません。

「不利益変更」は扱いがデリケートで、最も難しい労使案件の一つです。しかし、団体交渉を通じて、会社の経営状況を理解し、組合員の不利益を最小に収めるための対応は、組織強化や労使間のさらなる信頼感の醸成に必ずつながります。わからないこと、困ったことがあればいつでも情報労連に相談できるので、まずは対応の「一歩」を踏み出してほしいと思います。

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