特集2020.12

2021春闘に向けてバイサイドからの不当労働行為に注意を
企業組織再編への対処法を知る

2020/12/14
「コロナ・ショック」に伴う経済の落ち込みで、企業組織再編が加速する可能性がある。労働組合は何をすべきなのか。課題を整理しておこう。
徳住 堅治 弁護士・日本労働弁護団会長

バイサイドによる不当労働行為

企業組織再編では、バイサイド(買い手側)からの不当労働行為が問題になります。

バイサイド(買い手側)が労働組合を敵視する場合、元々あった労働組合に対して、「チェックオフ協定を廃止する」「労働組合を解散しろ」という不当労働行為を行ってくることがよくあります。

こんな事例もあります。A社が、労働条件維持などを条件に、B社に入札方式で事業譲渡を行ったのですが、B社が入金の直前で労働組合の解散を要求。A社は折衝したのですが、B社は態度を変えず、結果、組合が解散したという事例です。ほかにも上部団体からの脱退を含め、組合運営に不当に介入してくる事例が少なくないことに注意が必要です。

また、バイサイドが、売り手側の資産を簒奪するケースもあります。例えば投資ファンドが取締役の過半数を占め、会社の経営権を握った後、会社の資産を売却したり、現預金を流出させたりしてしまうケースです。こうしたケースではバイサイドの経営者は労働組合との団体交渉を拒否し、不当労働行為を仕掛けてきます。

このようなあくどいバイサイドに対しては、水際で上陸させないことが大切です。2006年に「村上ファンド」が阪神電鉄の株式を買い占めようとした際、阪神電鉄労組は短期の株主利益を追求するファンドによる買収に反対の声明を発表しました。会社は株主だけのものではないとして、社会的な運動を展開、買収の阻止に一役買いました。他社でも悪質企業が経営者になることで雇用が失われるとしてストライキなどで対抗し、売却先を変えさせた事例もあります。このように悪質な企業がバイサイドになる場合は、まず上陸させないことが重要です。

労働法の学説では、近い将来に労働契約関係の現実的・具体的な可能性のある企業は、不当労働行為の使用者とみなされます。実際、労働委員会が吸収会社による不当労働行為を認定した事例もあります。買収等される前に労働組合が行動することが大切です。

その上で、悪質な企業がバイサイドになり、不当労働行為をしてきた場合は、労働組合として徹底的に闘うことが大切です。東急観光事件は、国会での議論にまで発展、投資ファンドへの批判が強まる中で、労使の和解が成立しました。

企業組織再編の類型

企業組織再編には四つの類型があり、類型ごとに権利の承継方法が変わります。企業組織再編の類型は「合併」「事業譲渡」「会社分割」「株式買収」の四つです。

ごく簡単に説明していきます。

「合併」は、「包括承継」と言われ、すべての権利義務が存続会社に移ります。そのため雇用を巡る問題は起きづらいものの、合併前後に両社の労働条件を統一するために労働条件の切り下げの問題が起きがちです。

「事業譲渡」は、会社の特定事業を第三者に売却します。この場合の権利義務は「特定承継」と呼ばれ、譲渡元と譲渡先の間での合意の範囲で権利義務が承継されます。「事業譲渡」は、法的な規制がほとんどなく、譲渡先の意向で雇用承継される労働者が決まる傾向があり、トラブルが多発しています。不採算部門だけを譲渡する「泥舟譲渡」もあります。こうした場合、譲渡先での労働条件の切り下げが起こりがちです。ただし、譲渡先に転籍する場合は労働者本人の同意が必要です。

会社分割への対応

「会社分割」は、分割計画書等をつくり、そこに記載のある権利義務がすべて承継されます。「部分的包括承継」と呼ばれます。

「会社分割」では、分割される事業に主に従事していた労働者が、分割計画書に自分の名前の記載がない場合、異義を申し立てることで分割先に移動することができます。一方で、分割される事業に主に従事していなかった労働者が、分割計画書に自分の名前がある場合、異議申し立てをすれば元の会社に残れます。こうした権利が法的に認められています。

「会社分割」においても、分割後の労働条件の調整の問題が生じます。近年は法改正の結果、「泥舟分割」や「濫用的会社分割」が横行するようになり、問題になっています。

労働組合としては、労使協議会で事前協議や団体交渉を行い、会社分割に対する対応方針を決めることがまず大切です。その上で、労働契約承継法7条で労働組合との協議が定められている(7条協議)こと、商法改正附則5条で労働者との協議が定められている(5条協議)ことから、これらを活用することが大切です。特に5条協議は、これを十分にしない場合、その承継は無効になるという最高裁の判例があります。

労使協議の中では、分割先の企業に不測の事態が生じた場合、雇用に責任を持つという一文を取ることがポイントです。分割先企業への出向扱いを認めさせるという手法もあります。

最後に「株式買収」です。「株式買収」は経営者の交代に過ぎないため、会社と労働者の関係は変わりません。ただし、新経営陣が、リストラや労働条件の切り下げを行う恐れが多分にあります。

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このように企業組織再編ではさまざまな労働問題が生じます。単組だけで対応するのは困難です。日頃の労使関係の構築と上部団体との連携が重要です。事態が生じそうであれば、すぐに上部団体に相談してください。

(本稿は10月20日に行われた情報労連でのセミナーの内容を編集部で再構成したものです)

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