特集2020.12

2021春闘に向けて「同一労働同一賃金」最高裁判決
判決にとらわれず格差是正の要求を

2020/12/14
「同一労働同一賃金」に関する最高裁判決を踏まえ、労働組合はどのような要求を構築していくべきか。判決にとらわれず、労働組合の意義を再確認することが重要だ。
水野 英樹 弁護士・日本労働弁護団幹事長

最高裁判決の評価

労働契約法20条に関する最高裁判決は、有期契約労働者に対する賞与や退職金の不支給を不合理と認めない一方、手当に関しては不支給を不合理だと認める内容でした。

今回の事例で、賞与や退職金の不支給が不合理だと認められなかった背景には次の理由が考えられます。▼対象になった企業の賞与や退職金が職能給を基礎としていたこと▼賞与や退職金の支給の目的として最高裁が「正社員確保論」を認めたこと▼正社員への登用制度があったこと▼正社員との職務分離を進めている最中だったこと──。最高裁はこうした要因を踏まえ、賞与や退職金の不支給が不合理ではないと判断しました。しかし、今回の判決はあくまで事例判断であり、このような事例に当てはまらなければ、一般論として賞与や退職金の不支給が不合理であると認められる可能性は十分にあります。

そもそも、今回の判決は労働契約法20条をベースにしたものです。今年4月からはパート・有期法が施行されています。さらに、それに基づく「同一労働同一賃金ガイドライン」の適用も始まっています。労働組合は、今回の最高裁判決ではなく、パート・有期法8条と「ガイドライン」を踏まえて要求を構築してほしいと思います。

労働契約法20条とパート・有期法8条の大きな違いは、基本給や賞与などそれぞれの待遇ごとに不合理性を判断すること、その際に「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮」して不合理性を判断することです。この「適切と認められるものを考慮」という言葉が入ったことがポイントです。

待遇の性質や目的、それが適切かどうかは、使用者だけが決めるわけではありません。労働組合がどのような性質や目的が望ましいのか、それが適切かどうかについて意見することが欠かせません。労働組合との協議は、「その他の事情」として、不合理性を判断する要素になります。望ましい賃金体系のあり方について労働組合が積極的に発言することが大切です。

判決にとらわれず要求を

労働組合は最高裁判決にとらわれず、自分たちが納得できる要求を組み立ててください。労働組合はそもそも法律を守らせるためだけの組織ではありません。法律以上の権利を要求して勝ち取るための組織です。今回の最高裁判決は、事例に基づき、あくまでも「最低限」の判断を示したに過ぎません。労働組合がそれにとらわれる理由は何もないのです。労働組合は、今回の判決とは無関係に、あるべき賃金体系をめざし要求すべきです。

今回の最高裁判決を受けて、使用者は「正社員確保論」を掲げて、賞与などの不支給は不合理ではないと説明してくるかもしれません。

しかし現実的には、職場における非正規雇用労働者の割合は高まり、その存在は事業運営にとって不可欠になっています。非正規雇用労働者も正社員と同じように企業の売上に貢献している現状を踏まえれば、賞与の目的が「正社員確保」のためだけとは言い切れないはずです。仕事の内容に違いがあったとしても、「賞与がゼロ」はおかしいと主張すべきです。

「ガイドライン」にも次のように記載されています。

「賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない。また、貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給しなければならない」

この内容を踏まえても、「賞与ゼロ」という判断にはならないはずです。それは退職金も同様です。労働組合は、今回の最高裁判決ではなく、あくまでパート・有期法および「ガイドライン」を踏まえて要求を組み立てるべきでしょう。

パート・有期法14条の活用

交渉の際には、パート・有期法14条2項を活用することができます。パート・有期法14条2項は、パート・有期契約労働者からの求めに応じて、使用者に待遇の違いや理由を説明させる義務を課しています。労働組合であれば、団体交渉権を用いれば、この条文がなくても使用者に説明を求めることができるのですが、この条文も活用できます。

この条文に基づいて通達が出ています。そこでは、「事業主は、パートタイム労働者・有期雇用労働者が説明内容を理解することができるよう、資料(就業規則や賃金表など)を活用しながら口頭で説明することが基本」とされています。ポイントは、「資料を活用しながら」という部分。使用者に資料を出させて、どういった要素を勘案した上で処遇を決めているのかなどを説明させることができます。

この説明義務を履行しなかったことは不合理性の判断に影響を与えることが国会における大臣の答弁からも示唆されています(2018年第196国会衆議院厚生労働委員会・加藤厚生労働大臣発言)。こうした通達や大臣答弁を活用しながら、労使交渉を進めても良いでしょう。

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繰り返しになりますが、労働組合は今回の最高裁判決にとらわれる必要はありません。めざすべき賃金体系を堂々と掲げるべきです。

労働者全体の処遇を改善しなければ、格差と分断が広がり、その結果として労働運動の力も弱まっていきます。そうした中・長期的な視点を持って要求を掲げられるかが、労働組合に問われているのではないでしょうか。

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