特集2020.12

2021春闘に向けて加盟組合の先進事例を紹介
2021春闘に向けて水平展開を図ろう

2020/12/14

小倉クラッチ労働組合
賃金実態調査を実施し賃金カーブのゆがみ是正へ

見えてきた賃金カーブのゆがみ

クラッチ/ブレーキの総合メーカーである小倉クラッチの労働組合・小倉クラッチ労働組合は、組合員の賃金実態調査を通じた労使交渉を展開し、賃金制度の改善に向けた労使交渉に取り組んでいる。

小倉クラッチ労組が組合員の賃金実態調査に初めて取り組んだのは3年前。当時は、労働組合として組合員の賃金データを持っていなかったが、近隣の労組と交流する中で、賃金実態の把握が必要という認識が執行部内で高まった。

賃金実態調査は、組合員にアンケートを配布し、自分の基本給などについて回答してもらう方法で行った。集めたデータを用いて、組合員の賃金の分布や賃金カーブなどを分析した。

3回の賃金実態調査の結果、職場の問題点が見えてきた。おおむね35歳以下の組合員の賃金は産業平均より高かったが、35歳以上になると逆転し40代以上になるとその差は顕著になった。賃金規定の昇給方法に、賃金カーブをゆがませる要因の一つがあることがわかった。そのため2020春闘では昇給方法の見直しと改善を要求として掲げた。

賃金実態調査を行う前は、連合や情報労連の方針を踏まえた賃上げ率に基づき要求してきた。ただ、それだけでは細かい配分交渉までできなかった。そのため、賃上げを勝ち取っても、配分に偏りが生じてしまい、それが賃金カーブのゆがみの要因になってきた。「賃金実態調査を行うことで配分比率を踏まえた交渉ができるようになった」と小倉クラッチ労組の堀内利之委員長は話す。

高い回収率の背景

過去3回の賃金実態調査のアンケートの回収率はいずれも90%超。小倉クラッチ労組では、分析結果などは組合大会を通じて組合員にフィードバックし、課題の所在やデータを用いた交渉の必要性を繰り返し説くことで、組合員から調査実施の理解を得てきた。アンケート票もプライバシーに配慮するとともに、シンプルなものにするなどの工夫を重ねた。高い回収率の背景を「組合大会などで組合員に賃金実態調査の趣旨や結果を丁寧に説明してきたから」と小野嘉久副委員長は話す。

アクションを起こす

労使交渉では、賃金実態調査の結果の賃金カーブと、同じ産業の年齢別の賃金データを重ね合わせて、是正が必要な部分を指摘した。改善要求は2020春闘では実現できなかったものの、会社と協議を続けている。

堀内委員長は、「これまでは会社から制度を提案されて交渉するケースが100%だったが、最近では組合側からデータを提示して改善策を提示することができるようになった。制度づくりの段階から組合がかかわれるようになったことが、一番の成果。労使でいい制度をつくりたい」と話す。

さらに堀内委員長は「自分たちでアクションを起こすことが大切」と強調する。今回も、職場の実態を把握するための調査が前進につながった。「課題を自分たちで見つけないと組合活動は前に進まない。職場の実態を把握したからこそ課題が見えてきた」と話す。実態調査をはじめ、まずは自分たちで動き出す。そのことが活動の前進につながる。

KDDI労働組合
契約社員の処遇改善で成果「業績への貢献は契約社員も同じ」

KDDI労働組合は契約社員の処遇改善に力を入れ、成果を上げてきた。

KDDI労働組合は2012年、契約社員制度の創設と同時に約2000人の契約社員を組合員化。翌2013春闘から契約社員の処遇改善要求を始めた。2013春闘では規程化されていない一時金の支給を要求。3〜5万円の一時金と弔事、結婚、産前産後などの休暇の有給化などを勝ち取った。

さらにKDDI労働組合は2014春闘から6年連続で契約社員のベースアップを確保。その積み増しの金額は同期間の総合職の積み増し額の3倍近い金額となっている。一時金も2020春闘では最大13万円となり、2013春闘から3倍近い金額に回答額を徐々に積み上げてきた。

KDDI労働組合の長谷川強副委員長は「正社員の中には、なぜ契約社員の処遇改善に取り組むのかという声はあった」と振り返る。しかし、「契約社員は顧客対応など会社の事業を前線で支えている仲間」と繰り返し説明してきた結果、要求開始から1〜2年後には「総合職はいいから契約社員に手厚い処遇を」という声が職場から出始めた。

2017春闘から契約社員の一時金は正社員と同一の支給月数を要求している。「会社業績への貢献度という意味では契約社員も正社員と同じように貢献している。であれば、契約社員にも同じ考え方で一時金を支給すべき。この考え方は一貫していて、今後も同様の考え方で要求を検討していきたい」と永渕達也政策局長は話す。

KDDI労組では、政府が2016年末に「同一労働同一賃金ガイドライン案」を公表してから3年にわたり労使で協議を続けてきた。今年には、パート・有期法の施行を前に、契約社員への一時金の規程化について会社と合意した。

「要求を続けてきたことで金額も徐々に増えてきた。満額回答を得られなくても要求を続けてきた成果だと捉えている。要求する組合が増えることで社会規範が形成され、契約社員への一時金の支給が当たり前になってほしい」と永渕政策局長は話す。長谷川副委員長は、「契約社員の皆さんも同じ働く仲間。処遇改善を少しずつでも前進させていきたい」と語る。働く仲間の処遇改善を今後も訴え続けていく。

De-self労働組合本所自動車支部
格差是正と仲間づくり、交渉力強化法整備をてこに同時に実現

中小企業の労働組合が加盟するDe-self労働組合の本所自動車支部では、契約社員の処遇改善と組合員化、さらには組合員化に伴う過半数労働組合の達成という成果を実現した。

De-self労働組合は、2019年の運動方針で、パート・有期法を意識し、パート・契約・再雇用労働者の処遇改善と組合員化をめざすことを掲げた。同労組は、中でも「過半数割れ」している支部にポイントを絞って働き掛けを強めた。

その一つが本所自動車支部だった。本所自動車支部は、正社員の組合員だけでは、「過半数割れ」の状態。De-self労組の中野匡中央執行委員長は、36協定の締結や交渉力の観点などから支部執行部に組織拡大の重要性を説明。2019年に支部の規定を改正し、まずは組合員の範囲の拡大を行った。

その後、正社員と契約社員、再雇用者との労働条件の違いを項目ごとに分析。その結果、いくつかの違いが浮かび上がった。その一つが食事の補助費。正社員は400円の仕出し弁当を80円で食べられたが、契約社員にはその手当がなかった。

こうした違いを踏まえて本所自動車支部は2020春闘で格差是正を要求した。交渉の末、食事の補助費のほか、再雇用者に対して家族手当支給の成果を勝ち取った。食事の補助費は月に20日利用すれば月額約6000円の賃金改善になる。

格差是正要求の一方で、非正規社員への働き掛けも強めてきた。手当が支給されるようになれば、組合費を上回る処遇改善になる、職場での不安などを組合を通じて会社に伝えられるなど、契約社員に労働組合の意義などを伝えてきた。「支部の執行部の皆さんが職場で日常的に対話できたことがよかった」と中野委員長は話す。

こうした努力が実って非正規社員全員の組合員化が実現。支部は、過半数労働組合になり、労使協定の締結当事者になった。ポイントは「支部が抱えている課題を洗い出し、個別にサポートすることが重要」と強調する。

「同一労働同一賃金」の法整備をてこに、格差是正と仲間づくり、交渉力強化を同時に達成した好事例だと言える。

NTT労働組合
有期契約社員等との均衡・均等待遇の取り組み

NTT労働組合は、有期契約社員等の処遇改善に向けて春闘や通年的な交渉を積み重ね、取り組みを進めてきました。

まず、そのポイントとして、一つは、2016年2月に確立した「NTT労組の雇用政策」です。この雇用政策では、「期間の定めのない直接雇用が原則」と定め、各企業本部において、派遣労働者の直接雇用化、有期雇用者の無期転換、有期・無期雇用者の正社員への登用を促進する取り組みを展開しました。

二つは、2018年12月に策定した「『同一労働同一賃金』に対するNTT労組の考え方」です。これは、政府が示した「同一労働同一賃金ガイドライン」等を踏まえ、NTTグループの賃金・服務・福利厚生制度等に対し、雇用形態間の処遇について、(1)「同一・同率・同額」とすべきもの(2)「位置づけ・役割等に応じた処遇」とするもの──に整理し、NTT労組としての考え方をまとめたものです。

NTT労組では、これらの取り組みを土台として、継続して会社対応を強化し、(1)2017年秋には、福利厚生のあり方について論議し、すべての雇用形態を対象にした基本項目としての新たな福利厚生パッケージサービスの創設や定期健康診断の充実(2)2018年秋には、無期雇用者を対象とした長期支援項目として、健康増進や財産形成メニューの充実(3)2019春闘では、「『同一労働同一賃金』に対するNTT労組の考え方」等を踏まえ、有期契約社員等の処遇改善を要求し、時間外労働等割増率の改善や特別手当の業績反映分の支払い等の引き出し(4)2019年秋には、働き方に応じた特殊勤務手当等の同一化やすべての雇用形態を対象とした休暇・休職制度の見直し──等、有期契約社員等の処遇改善につなげてきました。

同一労働同一賃金に関して労使間で継続論議となっているものは、(1)扶養手当(2)住宅補助費(3)退職金(4)特別手当──等についてです。今後、10月の最高裁判決を踏まえた会社側の見解を明らかにさせつつ、引き続き、NTT労組の考え方に基づき労使間で論議していきます。

通建連合・ミライト企業本部
勤務間インターバル制度を導入実態に基づいた要求で交渉を前進

通信建設業の労働組合で構成する通建連合の加盟組合・ミライトグループ労働組合ミライト企業本部(ミライト労組)は、2020春闘で8時間の勤務間インターバル制度を導入することを会社と合意した。4月から導入、運用している。

ミライト労組が勤務間インターバル制度の導入を初めて要求したのは2009春闘。交渉を継続してきたが、合意に至らなかった。変化が起きたのは昨年秋。上部組織の通建連合が通建業界の魅力向上をめざして2019秋年末闘争の際に、8時間の勤務間インターバル制度の導入を「必達目標」にした。これを受けてミライト労組は実態を調査。半年分の実績を調査したところ、8時間のインターバルを確保できていないケースは10数件だった。「この件数なら実態と乖離なく運用できる。ここから始めようと要求し、会社と合意した」とミライト労組の下山恵史書記長は話す。

通信建設企業の場合、夜間の回線やシステムの切り替え業務などがあり、夜間勤務はどうしても生じる。これまでは夜勤明けの午前中から働くケースもあり、個人の判断で年次有給休暇を取得するなどしてきたが、勤務間インターバルの導入で夜勤明け後に一定時間の休息が確保されることになる。

会社との交渉でポイントになったのは例外規定のあり方。通信はライフラインという性質上、災害時対応が必要な場合がある。「会社はどんな場合もインターバルを取らないといけないのかを気にしていた」と下山書記長。労働組合もその重要性を認識しているため、大規模自然災害で生じた応急復旧への対応等は除外とし、その他勤務間インターバルが設けられない事由が発生した場合は事前協議とした。しかし、単純な業務繁忙という理由では例外事由にならないことは、会社側と確認した。

今後の課題は、「制度の浸透」と下山書記長。各種の説明会で制度の概要などを組合員および管理職に説明している。

導入に向けたポイントとして下山書記長は、「具体的な数字を挙げて交渉すること。実態に基づいた要求にすれば合意に至りやすい」と強調する。

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