特集2020.12

2021春闘に向けて非正規雇用の処遇改善と組織化
「春闘」という場を活用した取り組みを

2020/12/14
春闘は、処遇改善とともに仲間を増やす機会でもある。非正規雇用の処遇改善に向けて求められる視点とは何かを聞いた。
金井 郁 埼玉大学教授

パート労働者の組織化

「メリットを感じないからパート労働者は労働組合に入ってくれない」。1990年代後半、スーパーマーケットでパート労働者の組織化が始まった当初、労働組合の中にはこうした声がありました。「中核的な人材だけを組織化する」。そう割り切る組合もありました。

しかし、実際は多くの組合ですべてのパート労働者の組織化が進みました。スーパーマーケットでは、パート労働者を組織化しないと過半数労働組合を維持できないという切実な事情もあり、労働組合はパート労働者の組織化を進めたのです。

組織化の過程で労働組合はパート労働者などに対し、「何のために組合費を払うのか」などの説明を積み重ねてきました。その後、組織化が進むと当初心配していたような問題は起こりませんでした。ランチミーティングのような説明会や、他社の職場見学などへの参加率は、パート労働者の方がむしろ高いという結果も現れました。パート労働者が労働組合活動に無関心というのではなく、一人ひとりの労働者に向き合って、説得していけば、参加率は高まるのです。

パート労働者の組織化

一方、非正規雇用の組合員が主体的に労働組合活動に参加するという点では課題が残っています。日本企業の問題点(労働組合の問題でもありますが)は、非正規雇用労働者について能力を発揮する主体としてきちんと認めていないということです。会社は非正規雇用労働者について、与えられた仕事だけをやってくれればいいと捉え、能力を発揮する主体として捉えていません。

一方の労働組合でも活動の中心は正社員が担っているケースがまだまだ多いです。例えば、パート労働者のランチミーティングのような活動への参加率は高くても、組合の意思決定への場への参加率は低いというように、活動の「本流」にかかわれないということがあります。

こうした状況を変えるためには、非正規雇用労働者が能力を発揮する主体であると捉え、発言できる場をつくっていくことが重要です。

そのためには、組織構造上の問題を再点検する必要があります。なぜパート労働者が組合の会議などに参加できないのかなど、「本流」の活動に参加できないハードルを洗い出し、課題をクリアしていく必要があります。

さらには、非正規雇用労働者の声がジェンダー化されていることに注意する必要があります。会社は、転勤や異動、長時間労働ができるということを雇用管理区分の基準にしています。働く側もその基準を内面化して、「転勤できないから処遇格差も妥当」というように処遇格差を受け入れてしまっています。

そのことは、非正規雇用労働者の声自体が、会社のつくった枠組みの中でしか表明されないことを意味しています。職場説明会では職場の不満などがたくさん出てきても、そうした構造そのものを問う声は出てこないというのがその表れです。転勤や長時間労働ができないから処遇格差は仕方ないということではなく、その構造そのものを問い直すことを労働組合がしていかなくてはいけません。

春闘の活用方法

春闘という場を、そのために活用することができます。春闘は、1年のうちで会社のことを最も考えることができる場です。会社の内情を組合員と共有しながら、意見を交わし、説得しながら会社への要求を考えます。それは、組合員が学習する場でもあります。

その場を利用して、非正規雇用の組合員にも会社のことを知ってもらう。法律や社会構造の問題も一緒に学んでいく。そのように自分たちの立ち位置を相対化することで、今までとは異なる改善要求につながっていきます。

それは正社員の働き方の見直しにもつながるはずです。正社員にとっても、非正規雇用労働者との処遇格差の理由をはっきりさせるために労働強化が求められるという悪循環を断ち切らなければ、結果的に自分たちの首を絞めることにつながります。正規・非正規それぞれが自分たちが置かれている状況を構造的に捉える視点を持つことが重要です。

意思決定への反映

組合の意思決定に、雇用管理区分の異なる組合員の声が反映される仕組みをつくることも大切です。雇用管理区分ごとの部会を設けて、そこから執行委員を選出するという方法を行っている労働組合もあります。

その際には、それらの部会が自律的な組織として活動できることが欠かせません。活動内容を執行部があてがうのではなく、部会のメンバーが自分たちの利害関心に沿った活動ができるようにサポートすることが大切です。

さらには、多様性や多様な意見を担保するためにも、雇用管理区分ごとの代表者は1人だけではなく複数人を選出していくべきでしょう。

非正規雇用労働者を能力を発揮する主体として認めないことは、効率的な観点からもマイナスの影響があります。役割を決めつけることで現場からの意見が出なくなったり、登用しようとしても手が挙がらなかったりします。

非正規雇用労働者を働く一人の主体として捉えること。その人たちが主体的に発言できる場を設けること。構造的な視点で問題を捉えられるよう情報を提供すること。そのために春闘という場を活用すること。こうした取り組みが、非正規雇用労働者の処遇改善と組織化につながるのではないでしょうか。

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