特集2020.12

2021春闘に向けて職務評価を行う意義とは?
実例でわかったことから学ぶ

2020/12/14
点数を付けて仕事の内容を「見える化」する職務評価。実例から職務評価を行う意義などを学ぶ。
秃 あや美 跡見学園女子大学教授

「物差し」と「目盛り」

職務評価とは、職場の仕事を分析し、その職務に点数を付けることで、仕事の価値や分布などを客観的に表示するための仕組みです。

日本では長い間、「職務」ではなく、従業員の「能力」に関心が集中し、職務を賃金や要員管理などとリンクさせる視点が弱かったと思います。そのため、職務の概念があいまいで、職務を処遇決定の軸の一つに据える制度を導入するにしても、その手前の段階です。まずは職務について労使が納得できる概念や基準をつくることが大事です。

職務評価を行うためには、職務を点数で表示するためのいわば「物差し」と「目盛り」が必要です。

「物差し」には次の4要素があります。「負担」「知識・技能」「責任」「労働環境」の四つです。これらは国際労働機関(ILO)でも用いられる基準です。

この四つの要素を産業や企業に合わせてさらに細分化し、小項目をつくります。私は2013年に、三つの生活協同組合を対象にして職務評価を行いましたが、その際に、例えば「負担」の大項目の下に「重量物の運搬などによる身体的負担」という小項目を設けるなど、全部で12項目の「物差し」をつくりました。

これらの「物差し」に対してウエイトを割り振っていきます。今回は「負担」27%、「知識・技能」30%、「責任」35%、「労働環境」8%としました。日本では「責任」が重視される傾向があるので、ウエイトを重くしてあります。

その上で、「負担」の中の「精神的ストレス」は9%、「注意力・集中力」は10%というようにそれぞれの小項目に対してウエイトを割り振っていきます。そして、それらを4〜5のレベルに分割し、「目盛り」=点数を割り振ります。例えば、「注意力・集中力」はレベルを5段階に分け、レベル5なら100点、レベル1なら20点というように均等間隔で点数を割り振ります。すべてのレベルが最高位なら最高得点の1000点、すべてがレベル1なら228点となる設定です。

こうした項目は、事前にヒアリング調査を行い、仕事の内容を整理した上で作成しました。そして今回は、職場にアンケート票を配布し、点数を算出しました。回答者が自分の仕事の評価を重く回答するなど主観的なものにならないように、質問の仕方などを工夫しました。

これまでの職務評価の先行研究とは異なり、今回の私の調査は、役職に就いている正社員から一般正社員、パート労働者、委託労働者まで対象を広げました。

見えてきた事実

こうして調査を行った結果、興味深いデータが得られました。

一つ目は、高い役職に就いている人は職務評価点が高く、賃金も高い上に、一般正社員を100とした時の比率でみても、職務評価点の比率どおりに賃金が支払われていることがわかりました。日本では、「職務ではなく人基準で処遇が決められている」と言われてきましたが、それは現実の一側面に過ぎず、実際には職務の価値に応じて賃金を支払っている別の側面もあることがわかりました。

二つ目は、一般の正社員とパート労働者とでは、職務の種類や職務評価点がほぼ重なるのにもかかわらず、賃金は時給換算すると2倍以上の開きがあることです。パート労働者の低賃金は職務から説明できるものではありませんでした。

三つ目は、一般の正社員の中でも若年層の賃金が職務に照らしても低すぎるものでした。職能給の体系では、若いうちは賃金を低く抑えておいて、年齢を重ねるとともに賃金が上がっていくという、賃金の後払い的性格があると言われてきましたが、人材確保などの面からも見直しが求められそうです。

このように、職務評価を行うことで仕事の内容と賃金が見合っているかをチェックすることができます。

「ジョブ型」という言葉が最近よく使われますが、職務の価値が「経営に対する貢献度」のように、企業にとって都合の良い「物差し」だけで決められては納得できません。経営者と交渉する際、労働者側からみた「物差し」を持っておくことが必要で、職務評価から得られた知見はその一つの武器になり得ます。

職務評価をどう活用するか

一般の正社員とパート労働者との職務評価分布が重なることから、一般の正社員にとっては自分の賃金が下がるとの心配が出るかもしれません。かつて1950年代に日本で経営側が職務給の導入を検討した際、労働者が反対したのは、長期的に見た生活保障給が確保されないという理由が強かったと思います。ただ、現在は状況が異なります。非正規雇用労働者も多様化し、女性労働者は増えています。性別や雇用形態の違いがあっても公平で納得のいく仕組みを模索し、働く側からみても、よりよい選択肢を増やしていく必要があります。

職務評価には、転勤や異動の範囲や残業時間の多さなどは要素に含みません。こうした要素を含めることは、間接差別を助長することにつながるからです。

日本の「同一労働同一賃金」の政策や裁判所の判断でも、配置転換などの人材活用の仕組みの違いが処遇決定において重視されていますが、それを前提にすると正社員は無限定な働き方から抜け出せません。それどころか、正社員は自分たちの地位を守るためにますます無限定な働き方を強いられ、一方で、そうした働き方のできない労働者はますます活躍できなくなるでしょう。働き方の違いで処遇差を合理化すると、働き方の改善が進みにくくなります。

正社員自身の働き方の見直しは大切です。「人材活用の仕組み」や、経営の都合に合わせて柔軟に働ける人材を高く評価したり、それで処遇差を合理化したりするこれまでの基準ではなく、新しい「物差し」をつくるためにも、職務評価を行う意義があると言えます。職務評価はこうした状態を変えるためにも活用できます。

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