特集2020.12

2021春闘に向けて「コロナ・ショック」の経済情勢を読み解く
連合総研「2020-2021経済情勢報告」から

2020/12/14
「コロナ・ショック」は日本経済に大きなダメージを与えた。2021春闘に向けて情勢をどう読み解くべきか。経済情勢報告を発行している連合総研に寄稿してもらった。

連合総研は、2020年10月23日に、2020〜2021年の経済情勢報告を公表した。深刻な経済危機とそれに伴う、雇用・生活の危機が進行していることが、改めて明らかとなった。

日本経済全体の動向

新型コロナウイルスの感染拡大による経済危機(「新型コロナ・ショック」)は、需要・供給面で経済に大きなショックを与えており、2008年の世界金融危機など、これまでの経済危機とはまったく異なるものである。今回の新型コロナ・ショックでは、政府が感染拡大防止を最優先してヒトとモノの活動を制限した結果、個人消費と企業活動が急停止し、短期間に幅広い分野が影響を受け、景気の落ち込みを下支える存在がいなくなったことで、2020年4〜6月期のGDPは、戦後最悪となる大幅なマイナスを記録した。緊急事態宣言の解除後、経済活動は徐々に再開し、7〜9月期は、4四半期ぶりに前期比プラスとなり、回復の道をたどっている。しかし、画期的な治療法やワクチンが未完成な中での再開だけに、その後の回復の足取りは、弱々しいものにとどまらざるを得ない状況が続くものと考えられる。

新型コロナウイルスの影響で、法人企業の売上高・企業収益も大幅なマイナスとなったほか、設備投資についても見送る動きが出ており、減少している。

中小・零細企業を中心に新型コロナ関連の経営破綻が増えている。新型コロナウイルスの影響で売上が急減する一方で、短期資金の借入など運転資金を確保する動きが顕著に見られる。

新型コロナウイルスの感染拡大により消費者マインドが急激に落ち込んだものの、経済活動が再開された5月以降は持ち直しの動きが見られる。消費支出については、自粛期間中の5月に過去最大の落ち込みを記録した。

新型コロナウイルスの影響で多くの企業の売上が低迷する一方で、Eコマースや宅配サービスが急増している。

政府は、新型コロナウイルス感染症拡大に対応するため、4月に「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」、5月に「令和2年度第2次補正予算」を決定した。有効なワクチンの開発・生産・普及がない中で、経済活動を再開させるにあたっては感染状況を踏まえながら、経済活動を段階的に再開させていく必要がある。

日本銀行は、新型コロナウイルスの影響への対応として、企業等への円滑な資金繰りを確保し、金融市場の安定を維持する観点から、3月以降、金融緩和を強化している。その結果、日本銀行の総資産残高は急激に増加している。

新型コロナウイルス対策として大規模な国債発行による追加支出が行われた結果、財政状況は急激に悪化する見込みである。

情報通信産業への影響

財務省の「法人企業統計(2020年4〜6月期)」によると、金融業・保険業を除く全産業ベースで売上高が前年同期比17.7%の4四半期連続かつ大幅なマイナスとなっている中、唯一、情報通信業のみが前年同期比1.1%の増加となるなど、企業活動においては、負の影響を比較的回避できたように見える。

上述の要因として、挙げられることの一つは、コロナ禍における在宅勤務・テレワークの急速な拡大に伴う環境整備に向けたユーザー企業の情報化投資の増加であろう。ただし、今後の動きには課題も見える。労働政策研究・研修機構(JILPT)と連合総研が共同研究として、2020年4月から10月にかけて実施した「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」においては、緊急事態宣言の期間と重なる5月においても、勤労者個人ベースでは「テレワーク未実施」が約75%であり、9月には実に84%にまで上昇している。ニューノーマルとしてリモート型の社会を指向していくには、まだまだ多くの工夫が必要なのかもしれない。

情報通信産業におけるキーワードとしては、「5G」の今後の早期展開への期待も欠かせない。ソフトバンク・KDDIの2社は、基地局の増設などインフラ整備へ今後10年でそれぞれ2兆円を投じるとした。NTT(ドコモ)は、2023年までに1兆円を投資するという。インフラ整備のみならず、今後、さまざまな産業の参画を促進しながら、景気の下支えに一役買っていくことも求められている。

[厳しさがみられる雇用情勢]
[大きな影響を受けた女性・非正規雇用者]

雇用・賃金の動向

2019年まで雇用情勢は改善を続けていたが、2020年に入り、完全失業率は上昇傾向に転じ、有効求人倍率は急低下するなど弱い動きとなっている。

就業者数・雇用者数は近年増加が続いてきたが、4月以降ともに減少し続けている。雇用形態別にみると、正規の雇用者数は増加または微減にとどまる一方、非正規の雇用者数は3月以降大きく減少し続け、特に6月以降は100万人を超える減少幅となるなど多大な影響を与えている。

休業者数は、4月にこれまでの最大値の3倍近くにもなる597万人を記録したが、6月以降は200万人台まで減少し、前年同月差の増加幅も縮小している。

完全失業者数は2019年12月を底に増加傾向に転じている。勤め先や事業の都合による離職者を中心に増加している。

人手不足感も過剰に転じ、新規求人数は幅広い産業で大幅に減少している。特に、宿泊・飲食、生活関連のサービス、製造業で急激かつ大幅な減少となった。

賃金については、所定外給与の大幅減により現金給与総額は減少しており、実質賃金も3月以降減少が続いている。現金給与総額を産業別にみると、宿泊・飲食、生活関連のサービスをはじめ幅広い産業で減少している。

日本経済再生のために

日本経済の先行きについては、現時点では不確実性が非常に高い。

今後の先行きについては、仮に、感染拡大の勢いが加速し、回復テンポが遅くなれば、解雇・雇い止めによる雇用調整や廃業による雇用喪失が今後増大し、雇用者数の減少、失業者数の増加につながる恐れがある。そうなれば、追加的な財政出動による財政問題のさらなる悪化やさらなる金融緩和による金融政策の正常化の遅れ、中長期的な潜在成長率の引き下げ、雇用・所得格差のさらなる拡大をもたらす懸念がある。

従って、新型コロナウイルス感染症の流行が収束するまでの非常時の間は、あらゆる政策を総動員して、できるだけ早く日本経済を正常な軌道に復帰させることが重要である。そのためには、経済対策で財政赤字が膨らむ中、財政拡張というアクセルと同時に、財政引き締めというブレーキをいつ頃踏むことにするかという議論を並行して行う必要がある。感染が収束した後のアフターコロナの時代を見据えた負担の議論を一刻も早く開始し、負担に関する社会的合意形成、歳出・歳入一体改革に向けた具体的な方策を明らかにしていく必要がある。

なお、(公社)日本経済研究センターが毎月公表している「ESPフォーキャスト」の10月調査では、平均で、実質経済成長率は、2019年度前年比0.0%、20年度同▼6.12%、21年度同3.43%で推移すると見込んでいる。

特集 2020.122021春闘に向けて
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