常見陽平のはたらく道2020.12

自由な働き方の罠
どさくさ紛れの改悪を許すな

2020/12/14
コロナ禍のどさくさに紛れて、美辞麗句をうたい、働き方の改悪につなげようとする動きを許してはいけない。

「今こそ、働き方を変えなくてはならない」

誰にでも響いてしまう魔法の言葉だ。危機感を抱く人もいれば、心が躍る人すらいるだろう。「働き方」は常に目の前に問題として存在し続けている。給料を上げてほしい、残業時間を減らしたい、育児や介護と両立させたい、勉強や社会貢献活動のための時間を確保したい、副業にチャレンジしたいなど、働き方について、労働者の立場から使用者側や国に求めたいことは多々ある。

もっとも「働き方」は使用者にとっては「働かせ方」となる。労働者のためを装った、「働かせ方改悪」が広がっていないか。

「働き方」の再検討は「今、変革しなくては後がない」という大義名分と、強烈なプレッシャーとともに発せられる。「ダイバーシティーの推進」「ワーク・ライフ・バランスの実現」「イノベーションを起こす」などがそうだ。

さらに、このコロナ禍だ。間違いなく人類の歴史的事件であり、分岐点である。この原稿を書いている2020年11月末現在においても日本が感染拡大の「第3波」の渦中にいることは明々白々だ。ワクチンの開発なども報じられてはいるが、2019年12月までの生活に戻るイメージが湧かない。

ここで推奨されるのが、「自由で柔軟な」働き方だ。リモートワークが広がったことや、業界・企業にとっても先行き不透明感が漂っていることなども影響している。

確かに、この働き方は検討するべきではある。やり方によっては労働者のため、社会のためにもなり得る。その象徴のようなリモートワークも、現状の時間管理の考え方では労働者によっては自由に柔軟に働いてはいけないことになっている。

とはいえ、このコロナ禍のどさくさに紛れて、労働条件を改悪しようという使用者側の意図が見え隠れする。労働者の「定額使い放題プラン」につながらないか監視する必要がある。最近、話題の副業推進も、うがった見方をするならば収入ダウンを許容させつつ、労働力として都合よく囲い込む策のようにも見える。「名ばかりジョブ型」による、「成果主義」の徹底などもそうだ。

社員の個人事業主化なども偽装請負の推進ともいえるものだ。電通、タニタなどの取り組みが賛否を呼んだ。気を付けなくては労働者にとって「不自由で硬直化」した働き方になり得るし、労働者を安く使う手段になってしまう。

ウーバーイーツに代表されるギグワーカーもそうだ。酷使され搾取される可能性もあれば、案件が少なく困窮することもあり得る。

結局、笑うのは使用者なのだ。人類最大の危機とも言えるコロナ禍に便乗した、労働者を奈落の底に落とすような働かせ方改悪を断じて許してはなるまい。そもそも、これらの取り組みが連呼されて久しいが、もともとの大義名分が実現できたのかどうかを確認しなくてはなるまい。

もちろん、「自由で柔軟に」働くことを諦めてはいけない。労働者側の論理でこれを実現するためにも、使用者や政府の動きを注視しつつ、われわれにとっての理想の働き方とは何か、コロナ危機の今だからこそ主張を続けなくてはならないのだ。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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