常見陽平のはたらく道2021.03

社会貢献活動
「上から」の貢献を超えて

2021/03/15
企業や市民団体による社会貢献活動が盛んだ。支援する側に求められる姿勢とは何か。

プロフィルには北海道札幌市出身と表記しているが、実は宮城県仙台市生まれだ。生後10カ月で札幌に移ったので仙台の記憶はまったくないが、生まれ故郷であり、仕事などで何かと縁があり、仙台に行くたびに特別な感情が湧いてくる。

東日本大震災、福島第一原発事故から10年だ。仕事の打ち合わせ中に被災した。携帯がつながらず、ノートPCのメールで妻と連絡を取り合い、合流。寒い中、1時間弱歩いて帰宅した。人生を考える機会になり、大学院進学を決意した。

その1年後、POSSEのメンバーに誘われ、仙台で就労支援のボランティア活動をした。代表の今野晴貴さんは大佛次郎論壇賞受賞作となる『ブラック企業』を、私は代表作である『僕たちはガンダムのジムである』をそれぞれ準備中だった。お互い、何かを変えようとギラギラしていた。震災から1年たった後も、就労で困っている人は多数いた。作戦会議に参加し、就労希望者を面談し、就労支援セミナーに登壇。自分ができることを精いっぱいやった。

さて、この10年で社会貢献活動はどう変わったか。企業活動の前提としてSDGsが重点的キーワードとなった。震災後には、被災地ボランティアに社員を送り込む企業の動きもあった。途上国を視察する研修を実施する企業も現れた。会社とは別にスキルを生かして社会貢献するプロボノ、「2枚目の名刺」ムーブメントなどが起こっていた。コロナ禍により、在宅勤務が進み、自由な時間が増えた人の中には、社会貢献活動に力を入れる人も現れている。社会を変えるための費用を調達するクラウドファンディングの定着、ハッシュタグによるソーシャルデモ、ネット上の署名運動など「社会の変え方」の変化も見られた。

しかし、恵まれている人たちが、そうではない人たちを救済しているという「上からの貢献」にも見えてしまう。そのスタンス自体は否定しない。豊かな者には貧しい者を助ける義務があるとも考えられる。困窮している人に、他者を助けることを期待するのは酷だ。ただ、上からの貢献ではなく、対等な関係で向き合うという方向性も考えられないだろうか。

幼少期は、脳腫瘍で半身不随の父、人工透析をしている祖父と暮らしていた。介護・看病をしつつ家計を支えた母から教えられたのは、病気や障がいとは、突き詰めると「違い」であり、本人や周りにいる他者はそれと向き合うべきであるということだ。上下、優劣の関係ではない。

対等に向き合い社会の課題を学び、解決策をともに考えるという姿勢が必要ではないか。ここには、営利的な目的さえあってよい。つまり、この課題を解決するという行為そのものが、本業のビジネスを進化させ、新しい価値や強いコスト構造を作り出すのだし。

労働組合にとって社会貢献活動とは、社会と会社の負の側面と向き合う行為でもある。困っている人、弱い人の立場で考え、普段の活動にもフィードバックする。

社会貢献活動は、もうけている企業が、批判をかわすためのもの、人気とりになりかねない。そうではなく、日常のビジネスにビルトインすること、ともに課題と向き合い、解決するという姿勢を大切にしたい。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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