トピックス2021.06

沖縄情勢を読み解くバイデン政権の対中強硬策で
リスク高まる沖縄
菅政権の対米追従路線では危険

2021/06/14
バイデン政権の発足は沖縄の安全保障にどのような影響を及ぼしているのか。沖縄国際大学の前泊博盛教授に寄稿してもらった。
前泊 博盛 沖縄国際大学教授

バイデン政権発足で激化する米軍訓練

バイデン米政権発足後の2021年1月以降、嘉手納、普天間など在沖米軍基地の爆音被害が常軌を逸するほどに激しさを増している。外来機のF35BやF18など戦闘機群の離着陸・周回・低空飛行訓練が活発化している。バイデン政権の軍事依存の対ロ、対中強硬姿勢は、いまアジアに新たな武力衝突の危機を高めている。

対米追従の菅義偉政権は、建設反対の民意を無視し辺野古新基地建設を強行。外来機の訓練激化を容認し、米軍基地被害の負担増に拍車をかけ、馬毛、奄美、沖縄、宮古、石垣への自衛隊配備による南西諸島地域の軍事要塞化を強行・加速させている。

米軍嘉手納飛行場には、米軍岩国基地(山口県)からF35B最新鋭ステルス戦闘機など「外来機」が頻繁に飛来し、住宅密集地の真ん中にある米海兵隊普天間飛行場などでも戦闘機や要人輸送用の米航空機の離着陸、旋回飛行訓練が、住宅密集地上空で急増している。

加えて「常駐機」のF15戦闘機やMV-22オスプレイ、CH53大型ヘリなどが騒音防止協定(取り決め)違反の午後10時以降の飛行訓練を繰り返すなど、沖縄の基地負担は過去最悪レベルまで悪化している。

常軌を逸する爆音被害と米海軍ホワイトビーチへの寄港増などが、東アジア周辺地域での有事即応訓練の激化と武力衝突の危険性の高まりをうかがわせている。

この4月、菅義偉首相とバイデン米大統領との日米首脳会談が行われ、日米の緊密な同盟関係の強化とともに「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調」「両岸問題の平和的解決を促す」などの「台湾情勢」を盛り込んだ共同声明がまとめられた。

日米共同声明に、台湾情勢を盛り込んだのは52年ぶりだ。背景には台湾情勢の緊迫化がある。2020年秋以降、中国は台湾の防空識別圏に20機前後の軍用機の進入、台湾周辺海域への空母部隊の展開など「一つの中国」に向け緊張度を高めているとされるが、日米共同声明は米中対立に「火に油を注ぐ」結果を招いている。

中国の動向

香港への「国家安全維持法」制定による民主活動家の制圧に加え、中国は「人民解放軍創設100年となる2027年までに「アジア太平洋地域で米軍と均衡する軍事力の保持」を目標に掲げた。今年は中国共産党創立100年。来年22年2月には北京冬季五輪、第20回党大会が開かれ、習近平総書記の三選続投を決める第20回党大会が控えるなど「政治大年」を迎える。「対外的に強硬姿勢を示し続けることが、国内での政治的求心力を維持するための必要不可欠な策」とする対外強硬路線は、コロナ対応と経済対策で苦戦するバイデン政権と習政権の共通政策ともいえる。

バイデン米政権はアジア太平洋地域における民主主義の保持を掲げ、対中強硬姿勢を強めている。英国、ドイツ、フランスも米国に追従する形でアジア太平洋地域に空母、強襲揚陸艦を派遣するなど、中国包囲網の強化に「参戦」している。台湾や日本周辺海域では、日米独仏の“連合軍”による軍事共同演習も実施あるいは計画されるなど、きな臭い動きが始まっている。

日本政府は日中間が抱える尖閣問題への波及懸念などから「両岸問題の平和的解決」を共同声明に押し込んだとされる。だがその一方で、島嶼部への侵略への対応として2016年には台湾と国境を接する与那国島への陸上自衛隊配備を端緒に、朝鮮半島から九州、鹿児島県の馬毛島、奄美大島、沖縄島、宮古島、石垣島へと自衛隊配備を強化。米国が国防上重視する南西諸島から台湾、南沙諸島、インドシナ半島へとつながる「第一列島防衛線(中国封じ込めライン)」の軍事要塞化に、安倍──菅政権は積極的に対応している。

有事の「標的・沖縄」

「台湾有事には沖縄が真っ先に攻撃対象となり、犠牲を強いられる」と軍事専門家の多くが声をそろえる。対中攻撃拠点となる米軍基地、対中包囲網の攻撃・ミサイル基地となる沖縄、宮古、石垣、与那国の自衛隊基地を抱える沖縄県の宿命という。

米歴史学者のG・Hカーは著書『琉球の歴史』の中で、日米政府にとって琉球は「エクスペンダブル(Expendable 代替品=消耗品)」として扱われていると指摘した。菅政権にとって沖縄は「捨て石」とされた沖縄戦と同様に「消耗品」であろう。沖縄の民意を無視し、有事に標的となる米軍基地や自衛隊基地の沖縄への集中配備・強化に積極的である。

有事の際、国民(県民)の命は、どのように守られるのであろうか。政府は外部からのミサイル攻撃や爆撃、武力勢力の上陸、爆破テロ攻撃の際の「避難実施要領」を、国民保護法(2004年)に基づく「国民保護に関する指針」(05年閣議決定)で市町村に作成を義務(努力義務)付けている。

20年3月時点で全国1741市町村中1076と約62%が策定しているが、沖縄県内では41市町村中、沖縄、豊見城、石垣、宮古島の4市にとどまる。「人手不足で対応できない」との理由のほか「ミサイルが飛んで来たら島に避難する場所などない」「沖縄県では5万〜130万人もの住民の島外避難に必要な船舶や航空機の手配や確保は困難」という理由から策定に消極的だ。攻撃時に避難できる防空壕、核シェルターなど避難施設の建設に政府予算での対応が不可欠のはずだが、政府内にその議論はまったくない。

新型コロナ対策の「無策」ぶりで支持率が低迷する菅政権だが、台湾有事の危険性回避でも「対中政策」における過度の対米軍依存、平和・対話型外交力の欠如が、沖縄県民のみならずこの国の安全保障に危機をもたらしている。

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