トピックス2021.06

東日本大震災から10年「つながり」を訪ねて伝承活動の社会的価値を高める
語り部と対話し
オリジナルのストーリーをつくる

2021/06/14
東日本大震災の語り部・伝承活動をサポートする公益社団法人「3.11みらいサポート」。震災の経験をより多くの人にどう伝え、どう命を守っていくのか。伝承活動の社会的価値を高め、社会全体でその活動を支えていくことが大切だ。

体験を掘り下げる

公益社団法人「3.11みらいサポート」は、2011年3月、東日本大震災後に「石巻災害復興支援協議会(IDRAC)」として発足した。当初は、震災直後にボランティア活動などを展開するNPOの活動調整の場づくりを行ってきたが、その後、「みらいサポート石巻」に名称を変更し、住民ネットワークや街づくりのサポートに活動をシフト。そこからさらに、「震災支援の連携から、震災伝承の連携へ」に活動の重点を移し、現在に至っている。2019年4月には名称を「3.11みらいサポート」に変更した。

「3.11みらいサポート」は現在、2017年11月に発足した「3.11メモリアルネットワーク」の事務局を務めている。このネットワークは、岩手、宮城、福島の3県で活動をする個人の語り部や団体などが集まって設立された団体だ。

また、「3.11みらいサポート」独自の伝承活動も展開している。そこでは、ARやVRなどの技術を用いて案内するほか、施設も運営しながら企業研修や修学旅行などを受け入れている。

「3.11みらいサポート」の伝承活動のミッションは、「つなぐ 3.11の学びを生きる力に」だ。常勤理事の藤間千尋さんは、「語り部の方々が訴えることは、『次の命を守りたい』『同じ悲しみを味わってほしくない』ということ。そのために、自身の体験のどこを伝えれば、聞く人の心に響くのか。災害時の行動を変えられるのか。語り部の方々も日々工夫しながら伝えている」と説明する。

藤間さんは、伝承活動に取り組む際、語り部の人たちと一緒に考えるスタンスを大切にしている。語り部の中には、自身の体験の何を伝えればいいか悩む人もいる。そこで藤間さんは、対話を通じて、その人の体験を掘り下げていく。すると伝えるべき体験が見えてくる。

ある建設会社の経営者は、自宅も会社も津波で流された。語り部を務めることに気後れしていたが、藤間さんと確認を進める中で伝える内容が整理されてきた。震災当時、作業に出ていた社員全員が避難して助かっていた。さらに詳しく聞くと、避難する経路などを毎朝のミーティングで確認していた。「学校でも毎日、こうした取り組みができれば、緊急時の対応も変わるはず」と藤間さん。

伝承活動の社会的価値

他方、クリーニング店の経営者は、震災当日、配達中だったが、揺れが収まった後に店に戻った。話を聞くと「お客さんの服を預かっているから」と答えた。

藤間さんは、このように一人ひとりの経験を丁寧に聞くことでオリジナルのストーリーができあがり、それが実効性のある防災対策につながると訴える。「ただ『逃げましょう』だけでは伝わらないこともあります。震災当時、逃げなかった理由を丹念に拾い上げることで、聞く人も共感し、伝わるものになります」と話す。

「3.11みらいサポート」の伝承活動には、2011年3月から今年3月末まで4万6000人強が参加。オンラインでの伝承活動を含めると約6万人が語り部の話を聞いた。

今後は、伝承活動の社会的価値を高める取り組みに力を入れたいと話す。

「伝承活動は当事者だけが行うものではありません。当事者だけにそれを背負わせるわけにはいきません。それを伝えるメディアや、語り部の育成をサポートする人など、社会全体で支えていくことが求められます。伝承活動にはそれだけの社会的意義があります。広島や長崎で平和学習が毎年行われるように、東日本大震災の経験や防災を学ぶことが当たり前と認識されるよう、その価値をもっと高めていきたいと考えています」

その上でこう訴える。

「伝承活動は社会全体で行うもの。その協働作業に皆さんにも一緒に加わってくれたらうれしいです」

津波伝承ARアプリを使用した案内風景
公開語り部の様子
オンライン語り部
「3.11みらいサポート」が今年3月にオープンした伝承交流施設「MEET門脇」
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