常見陽平のはたらく道2021.07

改正育介法が成立
男性の「育休」取得は進むか?

2021/07/13
改正育児介護休業法が先の通常国会で成立した。目玉の一つは、子の出生直後の新たな育児休業の創設だ。

玩具メーカー時代、若手社員を、上司の一人が企画会議で叱責した。「これで、地球を救えるのか?」と。「これで救えるのか?」という、今どきの若者風に言うと「パワーワード」は、私の耳にこびりついている。

「これで、家族を救えるのか?」

今年の6月に改正され、来年の4月1日から段階的に施行される育児・介護休業法について、そんな曖昧な不安を抱いている。改正された点は多岐にわたる。出生直後の時期に柔軟に育児休業を取得できるようになること、雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置が事業主の義務となること、育児休業の分割取得、有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和、育児休業取得状況公表の義務化、育児休業給付に関する所要の規定の整備などだ。

わが国において産休・育休は制度としては「いたれりつくせり」だといわれている。もっとも、特に男性の育休取得率が低いことが問題とされてきた。今回の改正で、さらに充実したがこれでもし、うまくいかなかった場合は、これ以上ない絶望が待っている。

出生直後の柔軟な育休取得は、「男性産休」という言葉で説明されている。まず、この言葉に苦言を呈したい。正確には「男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設」だ。男性は産むことができない。LGBTQの当事者でこの件について悩んでいる人もいる。あまりにも無配慮、無頓着ではないか。

「柔軟に」取得できる、「使われる」制度をめざしたのだろう。その点は評価できる。ただ、労使合意の上という条件付きではあるものの、休業中の就業を認めている点は、「とるだけ育休」につながるのではないか。もちろん、子育てをしながら無理なく働くというシーンが想定されるが、労働強化にならないよう、注目するべきである。

男性が育休を取得できない理由に、職場の空気などが挙げられるが、その背景には仕事の絶対量、役割分担などの問題がある。育休に限らず、日本の休み方の課題はここにある。結局のところ、大企業の社員中心に使われる制度にならないか。これは通信料金などにたとえると「ライトプラン」が導入されたように見える。「全部入り」の男性育休も諦めてはならない。

最後に、元妊活当事者として警鐘を乱打しよう。このような政策は「少子化対策」として打ち出されるが、本当に有効なのか、多様な事情に配慮は十分か問題提起したい。少子化の問題については、出産可能な年齢の女性の絶対数が減っていること、第2子出産に至らないことなどが問題であり、必ずしも育休の充実で解決できるものではない。男性の育児や家事への参加、産後うつの解消には有効だろう。夫婦の幸福度アップにつながる政策である。

「少子化対策」はあくまで行政用語だ。カップルは「少子化対策のために子供をつくろう」とは言わない。「産ませる圧」が人を苦しませるようなことはあってはならない。

労働組合としては、いかにこの取得率アップをめざすか。育休中の就労が一般化しないように、子どもを育てやすい企業になるよう注視するべきだ。この政策で労働者が傷つくことがあってはならないのだ。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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