労働組合は企業の不祥事に
どう立ち向かうべきか
『半沢直樹』『下町ロケット』などで知られるベストセラー作家、池井戸潤の作品では企業の不祥事がよく描かれる。映像化された作品『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』はまさに企業不祥事ものだ。製品の欠陥を隠蔽し続ける組織、それに対して社内外で立ち上がる人が描かれている。池井戸作品はよく、VSOP(ベリースペシャルワンパターン)と評されるが、とはいえ『半沢直樹』同様、正論で不正を暴いていく姿は実に痛快であり、彼の作品の魅力である。各種サブスクで視聴できるので、ぜひご覧いただきたい。
『空飛ぶタイヤ』は、大手メーカーの大型トラック脱輪死傷事故や、リコール隠し事件を下敷きにしたものだ。中小運送会社で脱輪事件が起こり、これが命を奪う。整備不良とされ、運送会社も倒産寸前に追い込まれる。実は車両自体の問題であり、リコール隠しだったのだ。
企業の不祥事がメディアをにぎわす今日このごろである。日本を代表する企業での粉飾決算、品質偽装などが次々に明るみに出ている。ともに、ステークホルダーに対する裏切り行為である。中でも品質偽装などは、『空飛ぶタイヤ』のように、人の命を奪うことさえある。不祥事は企業にとって致命的なものになるだけでなく、社会に不幸の連鎖をつくり出すことを意識したい。
労働組合関係者は、普段から企業の不正を内部からチェックし、問題提起する役割を果たしてほしい。ハラスメント、長時間労働などについて告発するべきであることは言うまでもない。どの事業部、職種の社員が疲弊しているか、長時間労働や離職が問題となっているか。ここに社内の不正を探すヒントがある。無理な仕事をさせられていないか。
企業の不正が多発するのは、実は取り巻く環境も関係している。競争の激化、株主や顧客からの厳しい要求から、よりよい数値が期待され、無理が発生する。企業のあり方の問題でもあるのだ。成長をひたすら追い求めることが正しいのか。今の企業活動、労働環境そのものが不祥事の温床になっていないか問題提起するべきである。
不祥事が起きた後こそ、労働組合の出番である。問題について独自の調査をした上で、労働者の立場から今後のあり方を問題提起するべきである。この不祥事はポジティブに捉えると、従業員視点で企業を健全化する機会となり得る。皮肉なことに、経営陣が一掃され、一気に浄化されることだってあり得る。
私が新卒入社したリクルートは、なんせ戦後最大規模の贈収賄事件「リクルート事件」で創業者らが逮捕された企業である。この事件の際も、その後、経営が傾きダイエーが資本参加した際も、現場のエースたちが今後の企業のあるべき姿について議論したという。私が入社した頃は、現場レベルで、仕事を通じて顧客からの信頼を高めていこうという空気に満ちていた。
不祥事は、思いもしないときに発覚する。そのような事態を起こしてはならないが、起こったときに適切に対処するためにも、他社で問題が起こるたびに自分事として捉え、どのようにしたら防ぐことができたか、労働組合としてその時にするべきことは何かを考えたい。