渋谷龍一のドラゴンノート2021.10

【第5編】働く・2〜「F型」で考えてみましょうか〜メンバーシップ型

2021/10/13

メンバーシップ型雇用(MS)が就社型だと言う場合、労働者にとって職業人生の境遇という意味があります。まず、どの仕事をするのかわからないのに会社に就職します。最も多いのは営業職などですが、一人ひとりにとってはそうとは限りません。

就職とは言いますが、大企業に入社すると、企業のメンバーのようになるだけで、どういう職業人生を送るかは、ほとんど決まっていません。例えば、営業とは言うものの、仕事もさまざまで、販売の仕事なのか。仕入れの仕事なのか、それともマーケティングなのか。店舗で売る商品なのかインターネット商品なのか。

また売る相手は個人なのか、それとも会社なのか、学校や役所なのか。働く場所は東京? それとも関西なのか、九州なのか。仕事の内容や勤務場所は次々に変わっていきます。定年退職後に振り返ってみれば、いろいろな仕事を経験したなあ、たくさん転勤したなあ、ということになります。そう、メンバーになったあなたの職業人生は、社命によって、具体的には人事部門の指示によって、いかようにも変わります。

これらは正社員の話です。労働者の宿命(時間ドロボウと買いたたき)の話を思い出してください(第28話〜第32話)。正社員は労働時間を奪われ、賃金を奪われません。そう、MSの労働者は、賃金の方はまあ大丈夫なんだけど、労働時間がきついよね、ということのように見えます。確かに、大企業の正社員がとても生活できないという賃金ではなさそうです。しかし、正社員の長時間労働、サービス残業、過労死などは、どんなに努力しても一向になくなりません。

そう考えると、MSって、賃金はOK、でも労働時間はNG、という契約のように見えてきます。そんな契約書はありませんが、このような目に見えない心理的契約は、ずいぶんと日本に浸透しているようです。これが本当なら、次回から考えてゆく、働くということの実体について、あなたは合点がいくことが多いと思います。

渋谷 龍一 (しぶや りゅういち) 労働ジャーナリスト
日本労働ペンクラブ会員。主著に『女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』(旬報社)がある。
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