特集2021.10

交渉のツボ!
──労使交渉から目標管理制度まで──
労使交渉の現場の声
組合役員の実感は?

2021/10/13
労働組合の交渉担当者は、どのような姿勢で労使交渉に臨んでいるのだろうか。要求の組み立てや労使合意に向けたポイントなどを現役労働組合役員に語り合ってもらった。

──簡単な自己紹介を。

Aコロナ前は、支部を含めれば年間60〜70回の団体交渉に出ていました。コロナ後はリモートの交渉が増える一方、団体交渉の数は半分くらいに減りました。

B弊社では、団体交渉は春闘時期を中心に年4回ですが、団体交渉の前に事務折衝(労使交渉)を頻繁に行っています。賃金から労働時間、安全衛生など幅広い課題を取り上げていますが、最近はワクチン接種休暇などを含めたコロナ対応に追われました。

C弊社も団体交渉は春闘を中心に年2〜3回です。それ以外に月1回の労使協議会があります。春闘で結論が出なかった課題を継続的に議論するなどしています。継続協議の中で、成果を得られることもあります。

──要求はどのように組み立てていますか?

A要求の組み立てには、情報収集が欠かせません。具体的な数字がわからないままだと、労使ともに「こうあるべきだ」という抽象論に偏った交渉になってしまいます。交渉を具体的に進めるためにも、情報収集が不可欠です。

経営データを開示してくれる会社ならいいですが、会社によっては、経営状況を開示しない場合もあります。そういう場合は、粘り強く交渉し、信頼関係を築いた上で、共有する情報の範囲を広げていきます。会社がどうしても開示しない場合は、信用調査会社に依頼することもあります。

一方、労働組合として何より大切なのは、現場の声です。会社が情報を開示しなくても、現場の声を聞けばおおまかな状況は把握できます。会社が知らない現場の実態を集めて会社にぶつける。これが労働組合の一番の武器だと思います。

B従業員には職場単位で会社のリアルな数字が伝わっています。会社から情報をもらえなくても、組合員の声を聞けば、会社の言っている数字が本当かどうかわかります。そうした情報を要求組み立てや交渉材料に生かしてきました。

最近の課題は、在宅勤務が増えて、そうした声を拾いづらくなったこと。リモートで意見交換するなど工夫を重ねています。

事業計画の達成具合は、要求の一つの指標になっています。事業計画に対してプラスの成果が出ていれば、一時金を上積みして要求しますし、マイナスであれば、下げ幅をいかに小さくするかが課題になります。

C数十人の小さい会社なので、会社の情報は日頃から共有されています。要求組み立てのためには、組合員の声が大切なので、アンテナを張り巡らせています。

──組合員の声も多様化していると言われます。要求にどう反映させていますか。

A個別の課題のように見えても、みんなで取り組むべきものというのはあります。例えば、LGBTの課題はそうです。そうした課題に敏感になれるか、組合役員の感度とセンスに掛かっているのではないでしょうか。職場の内外で何が起きているのか、アンテナを高める必要があると思います。

──労使の立場のずれをどのように埋めていますか。労使合意に向けたポイントは?

Aベテランの執行委員が多い支部は、要求が控えめになりがちです。交渉の日程などを優先して、落とし所を最初から決めるとそうなってしまいます。

財務状況などを見ていくうちに、会社側の考え方を理解できるようになるのは当然です。でも、労使の立場は異なるのが前提。立場が違うからこそ、交渉でその差を埋めていきます。交渉しないと経営陣の考え方を聞いたり、対話したりする機会を自ら閉じてしまうことになってしまいます。少し高めの要求を出してでも、交渉することが大切だと思います。

一方、できたばかりの支部は、感情的な要素もあり、要求が高めになりがちです。交渉は対立ではありません。将来の労使関係を築くために、合意できる点を見つけることも大切です。

C情に訴えることはやめようと決めています。情けに訴えても会社は反応してきません。仕事をして利益を出して要求する。そういう姿勢を大切にしています。

また、労使交渉では、一つの結果にこだわらず、さまざまな形で成果を得ることにこだわっています。時短がだめなら休暇を増やす。賃上げが無理なら福利厚生を良くする。少しずつでも前進することが大事です。

あとは、結論を急がないこと。1年を通して交渉を継続する中で得られることもあります。

B労使の立場はいつもズレがあります。会社は「苦労に対して費用は払わない」と言ってきます。何かしら効果が出たものにしか費用を出さないという考え方です。一方、「こんなに苦労しているのだから、成果がなくてもいくらか払ってほしい」というのが組合員の本音です。

ただ、交渉ではそのズレを使って、両者が共有できる部分を探っています。例えば、組合員は金銭だけではなく、労働時間や生活のゆとりを求めている場合があります。ワーク・ライフ・バランスや女性活躍推進策などは、お金をあまりかけなくても、高い成果を引き出せる施策です。そうした複数の選択肢を探りながら、両者が合意できるところを探っています。

A交渉を通じて何か一つでも前進があることが大切だと思います。目標がないと運動が続かないので、今年は無理でも5年後には達成しよう。目標は、そういう風に活用しています。

──会社を動かすための交渉術は?

C会社は親会社の動きをとても気にしているので、親会社やグループ会社の実例を示しながら交渉することはあります。逆に言うと親会社が導入していないことはしないとも言えますが。

弊社は小規模の企業なので、大企業の事例は参考になりづらいので、地域の同業他社の実例を示す場合もあります。

B交渉が行き詰まることはしょっちゅうあります。よく使う手法は、「ライバル会社には導入されているのに、わが社には導入しないのですか」と経営者に詰め寄ること。経営者はそういうところをやはり気にしているので。

A誰が決定権を持っているのかを調べることが大切です。取引先やグループ会社との関係を調べて働き掛けたり、官公庁から仕事をもらっている場合は、関係機関に情報提供したりすることもあります。それによって相手の態度が変わることはあります。

ただ、労働組合の価値は、労使関係をどう維持していくかにあるので、将来的にも労使関係を維持するために、何が必要かを考えた上で、慎重に対応する必要があります。

──組合員へのフィードバックは?

B機関紙などでタイムリーに情報発信すべきなのですが、うまく伝えられていません。現場からは成果が見えづらいところがあると思います。労働組合としての課題です。

A交渉の成果をLINEで配信している支部があります。交渉の経過や結果をLINEで報告しています。比較的満足度が高いような気がします。

C大会や職場説明会で組合員にフィードバックしています。新しい施策に取り組むと組合員にも新鮮に映るようです。

──最近ではリモート団交も増えています。課題は?

C労使協議会をリモートで行っています。リモートでのコミュニケーションは、事務的になりがちで、表情や声のトーンがつかみづらく、相手のリアクションがわかりづらいと感じています。交渉でも、結論が出にくく、時間切れの際にも粘りにくいと感じています。

B事務折衝をチャットやリモートで行うようになって、交渉の範囲が劇的に広がりました。これまでは対面の時間を確保するのに苦労していましたが、オンラインツールを活用することでスキマ時間にチャットやリモートで会社側と議論できるようになり、交渉が非常にスムーズになりました。一方、デメリットは担当者同士でやりとりが進んでしまい、周りへの情報共有が遅れてしまうことです。

A団体交渉はほぼオンラインになりました。リモートでの労使交渉は、意見交換では使いやすいかもしれませんが、妥結点を探るような交渉には向いていないと感じています。

画面越しのコミュニケーションでは、相手の本音がつかみづらく、相手の動きや、机の上にどのような資料が置いてあるのかもわかりません。カメラに入らないところで打ち合わせをしていても、こちらからは見えません。

時間が来たという理由で通信を打ち切ってしまうような会社もあります。リモート団交は、経営者側にメリットが多いのではないかと感じています。

──最後に上部団体への期待を聞かせてください。

C交渉で困ったときに相談に乗ってもらっています。引き続き、頼りにしています。

B春闘の際に、大手の加盟組合の取り組みをもっと共有してもらえるとうれしいです。

A労働組合の特権は、会社と交渉できる権利を持っていること。労働組合を立ち上げたばかりの初心者の人でも、安心して頼れる交渉のプロを産別が育ててほしいと思います。

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