特集2021.10

交渉のツボ!
──労使交渉から目標管理制度まで──
女性は交渉しないで損している?
自分の思いを伝えることが大切

2021/10/13
働く女性は職場でさまざまな課題に直面する。会社や上司に意思をどう伝えるのか。交渉のポイントとは何か。女性の就労に詳しい治部れんげさんに聞いた。
治部 れんげ 東京工業大学
リベラルアーツ
研究教育院准教授

女性が交渉しない背景

同じ文化圏で比較すると、女性は男性よりも要求しない傾向があることが、諸外国の各種実験で明らかになっています。

背景には、社会が持つジェンダー観があります。男性が自分の意見をはっきり言う場合、頼りがいがあるとか、リーダーシップがあるとかポジティブに解釈される一方、女性が同じことをしても、図々しいとか、印象が悪いとかネガティブな解釈がされがちです。

このように、女性の発言に対して社会がネガティブな印象を与えていることが、女性が発言を控える要因になっています。女性個人の問題ではなく、社会がそうさせている、ということです。

女性が発言を控えることで不利益を被るケースは少なくありません。日本の女性も、交渉しないために不利益を被っています。加えて、日本の場合、働く人が男女問わず権利を主張できていない側面もあります。それを端的に表すのが有給休暇や男性の育児休業の取得率の低さです。日本では、男女ともに、権利主張が弱いというベースがまずあります。

交渉しない男女に生じる差

今の日本では、男性が上司であることが多いです。すると上司は、部下の男性に、「君もそろそろ昇進試験を受けるよね」と声を掛ける。女性が昇進したがらないという話をよく聞きますが、男性であれば、「自分もそうだった」「ほかの男性もそうだった」という、もう一押しの声掛けがある。つまり、男性にはロールモデルがたくさんあるので、周囲がサポートしてくれる。一方で、女性にはそれがないので、女性の「まだいい」という言葉を真に受けてしまう。女性の遠慮と、上司の遠慮が重なり合って、男女格差が広がっていると言えると思います。

一番の交渉相手は、実は夫

交渉が苦手な人は、謙虚であったり、周囲を気遣ったりする、いわゆる日本的な美徳を重視しているのでしょう。自分の仕事を自分で切り開く意識にやや欠けているところがあると思います。交渉の前提として、自立的にキャリアを形成する意識を持つことも大切だと思います。

昇進したいのであれば、そのことをはっきり伝えた方がいいです。そこで大事なのは、そういうシグナルを日常から出しておくこと。人事面談の際に伝えるだけでは足りません。打ち合わせや、一緒に外出する際など、折に触れて意思を示しておくべきです。

今、多くの企業は女性管理職を増やしたいと考えています。そのため、意思のある女性にとってはチャンスです。「残業が…」「責任が…」など、できない理由を決め付けず、そこも含めて、会社に意思を示すべきです。女性管理職を増やしたい企業は対応してくれるはずです。

一方、日本の女性が交渉すべき一番の相手は、実は会社ではなく、夫です。日本人男性の家事・育児時間は諸外国と比べて、恐ろしいほど短いです。女性が職場で働くためには、夫が家事・育児をもっと担うべきです。

他の先進国女性と比べて日本の女性は、夫と交渉していません。けんかになるとか、言っても無駄とか、なんだかんだ理由を付けて交渉を避けています。実は企業もそこで困っています。女性従業員にもっと活躍してほしくても、夫の働き方のせいで断られてしまうからです。

そこを乗り越えないと女性のキャリア展望は開けません。夫の家庭不参加に対峙することが、女性にとっての最も大きな心理的チャレンジだと言えます。

日本でありがちなのは、「うちの会社は理解がないから」「夫がわかってくれないから」とか、他人の事情が先にあって、自分の希望を諦めてしまうこと。ですが、それでは他人任せの人生になってしまいます。自分のしたいことは自分で決める。自己決定する意識を持つことが、交渉するに当たっても、まず大切なのではないでしょうか。

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