トピックス2021.10

緊急トップ対談 政治転換へ ビジョンをともに「自己責任」から「支え合う社会」へ
働く人を大事にする政治への転換を

2021/09/21
衆議院選挙は日本の針路を問う重要な機会だ。情報労連は、来る総選挙で勤労者、生活者、納税者の立場に立った政治の実現をめざす。立憲民主党は、有権者にどのようなビジョンを示すのか。枝野代表と安藤委員長が対談した。
枝野 幸男 立憲民主党代表 安藤 京一 情報労連中央執行委員長

「自己責任」で弱くなった日本

安藤次の総選挙は、日本の針路が問われる重要な選挙になります。

当面のコロナ対策が問われるのはもちろんですが、雇用・労働問題も非常に重要です。長い目線で見たときに、雇用は自民党政権下で大きく劣化したと捉えています。将来に向けても、雇用の立て直しが不可欠です。本日は、この問題に焦点を当てて、お話を伺っていきたいと思います。

まず、枝野代表が有権者に示すビジョンをお聞かせください。

枝野この30年間、「自助」や「自己責任」という言葉に象徴されるように、「競争はいいこと」「競争を加速させれば世の中がよくなる」という考えに基づく政治が続いてきました。しかしその結果、日本経済は強くなるどころか、むしろ弱くなりました。雇用が悪化し、人々の将来不安が高まり、消費も低迷しました。コロナ禍でさまざまな問題が噴出したのも、そうした構造があったからでした。

私たちがめざすのは、「支え合う社会」です。政治がやらなければいけないのは、いざというときや、将来に向けた人々の不安をできるだけ小さくすること。そのための支え合いの仕組みをしっかり整えることです。「自己責任社会」から脱却し、「支え合う社会」に変えることが選挙の争点だと考えています。

低迷する賃金・雇用への対応

安藤『枝野ビジョン』では、低調な日本経済の背景には、賃金の低迷があると指摘されています。確かに、この20年間を振り返っても、日本では非正規雇用が拡大し、賃金は伸び悩んできました。最低賃金は上昇していますが、他の先進国と比較するとOECD平均を下回っています。

枝野代表は、所得の再分配、将来不安の解消、エッセンシャルワーカーの下支え──この三つに取り組むことが社会と経済を活性化するポイントだとおっしゃっています。もう少し詳しく教えてください。

枝野雇用環境はこの20年で大きく劣化してきました。非正規雇用が拡大し、低賃金で不安定な雇用で働く人が増え、それが日本経済の足腰をもろくしてきました。

ですから、労働者派遣法をはじめとした緩め過ぎた規制の強化や、最低賃金のさらなる引き上げ、希望すれば正規雇用に就ける社会の実現などが必要だと考えています。

これらの政策は、短期間ですべてを実現できるわけではありません。強制的にやろうとすれば、民間企業、特に中小企業に影響が及ぶでしょう。段階的に取り組む必要があります。

ただし、すぐに取り掛かれる分野は間違いなくあります。

その一つは所得の再分配です。今の日本の税制は、富裕層に有利な仕組みになっています。例えば、「金融所得」には一律20%の税率しか課せられていないため、合計所得が1億円を超えると所得税の負担率が下がるという現象が起きています。富裕層に有利な税制を見直し、所得の再分配を行い、低・中所得者層の底上げをすることが非常に重要だと考えています。

もう一つは、保育や介護、看護師などのケア分野や、ハローワークの窓口のような「非正規公務員」のように、賃金の原資を税金でまかなっている分野の処遇改善です。これは、政治の力で行うことができます。むしろ、ケア労働・公的労働の非正規化を進め、賃金を低く抑えてきたのがこの間の自民党政権でした。最近では、地方自治体の高卒公務員の初任給が、時給換算すると最低賃金より低くなるという指摘まで出ています。この流れを逆転させます。

こうした取り組みは、これらの分野で働く多くの女性の労働条件の引き上げにつながります。加えて、サービスを利用する側にも恩恵を与え、将来不安の解消にも貢献します。「自己責任」でもろくなった社会を強くし、「支え合う社会」のベースになる施策だと考えています。政権をお預かりすれば、このように早期に改善できることは山ほどあると思っています。

企業・経営者団体との関係

安藤「支え合う社会」の構築に向けて、エッセンシャルワーカーの底上げからはじめ、中・長期的にステップを踏んで改善するということですね。おっしゃられる通り、短期間での急激な変化には、会社側の大きな反発が予想されます。現に、今年の最低賃金の引き上げに対しても、経営者団体が強い抵抗を示しました。政権運営をする上では、経営者の理解と納得も必要になるはずです。どうお考えですか?

枝野もちろん、経営者団体ともコミュニケーションを図りながら、プロセスを踏んでいきます。

政治が原資を負担している分野から処遇改善を始めることで、社会全体の状況も変わっていくはずです。国や地方自治体が直接かかわるエッセンシャルワーカーを下支えするだけでも地域の消費は間違いなく伸びます。そこを起点に経済の好循環をつくっていく。そのプロセスにおいて、経営者団体への働き掛けも行っていきます。

企業に対する啓発活動も大切だと考えています。例えば、役員に占める女性割合が高い企業ほど収益性が高いというデータがあります。安定的に優れた人材を確保し続けることは企業にとっても中長期的にプラスです。労働者を大事にすることのメリットを、データとして企業に対してしっかり示すことも大事だと思っています。

また、労働分野の規制強化だけではなく、一定の産業規制も必要だと考えています。例えば、トラック運送の分野では運送料金が低く抑えられていることが、ドライバーの低賃金の要因となり、人手不足を招いています。労働の価値に見合った賃金をベースとした競争環境を整備しなければいけません。地方の公共交通も同じです。住民にとって必要な路線を確保するためには、運転手を確保しなければいけません。そのためには、運転手が生活できる賃金が必要であり、公的な支援で支えていく必要も出てきます。

さらには、税制や社会保険料のあり方を見直し、正規で雇用した方が有利になるような工夫も取り組んでいきたいと思っています。

処遇改善の財源

安藤それらの政策を実現するための財源の確保についてもお聞かせください。

枝野2009年当時と今では、財源を巡る議論のベースが決定的に異なります。コロナの感染拡大防止と暮らしと経済の下支えのためには、国債で対応するしかないというのは、自公も含めて共通認識になっています。命や暮らしが失われてしまってからではどうにもなりません。コロナ対応は、国債を財源に行うということは、堂々と申し上げます。

その上で、中長期的な視点では、エッセンシャルワーカーの処遇改善は大きなポイントです。下がりすぎた直接税の水準を引き上げることで財源を確保できると考えています。できることを着実に進めていきます。

労働運動への支援

安藤私たち労働組合はこれまで、有期等契約社員の処遇改善に取り組んできましたが、会社側は要求に対して厳しい姿勢で臨んできます。労働組合としては、無期転換をはじめ、雇用の安定を図りながら、労働条件を引き上げる活動を展開してきました。

民主党政権下で実現した労働契約法の改正(無期転換ルールの制定、「雇い止め法理」の法定化、不合理な労働条件の禁止)は、民主党政権の大きな成果だったと思っています。

また、「同一労働同一賃金」の関連法制を背景に、諸手当の引き上げをはじめ処遇見直しを実現できました。労働基準法のような直接的な規制だけではなく、こうした処遇改善につながる環境整備もお願いしたいところです。

枝野労働契約法の改正は、100点満点の結果とまではいきませんでしたが、前進につなげるという思いで取り組みました。現場の皆さんの声を受け止めて、さらなる改善を図っていきたいと思っています。

民主党政権時代の反省の一つとして、現場で働く皆さんの声をもっとタイムリーに把握できればよかったと思うことがあります。政権をお預かりできれば、働く人皆さんの声をタイムリーに政治に反映させたいと考えています。

安藤アメリカでは、バイデン政権が、「ミドルクラスを取り戻す」というメッセージを掲げ、労働者・労働組合寄りの政策を次々と打ち出しています。例えば、請負労働者の労働組合の組織化などを支援する団体権保護法案(ProAct法)や、連邦政府機関と契約する業者の最低賃金の引き上げなどがそうです。連邦政府機関の最低賃金の引き上げは、枝野代表が先ほど述べた国が直接かかわるエッセンシャルワーカーの処遇改善と同じ取り組みです。こうした取り組みの背景には、業務のアウトソーシング化と労働組合組織率の低下などが指摘されています。

日本でも労働組合の組織率は長らく低迷しています。労働者の底上げのためにも、労働組合を後押しする政策などが必要だと考えます。

枝野人件費を切り下げて、会社を成長させるというやり方が、あえて言えば時代遅れになっています。働く人たちを大事にすることによって、企業価値も上がるし、社会も経済も円滑に回っていく。こうした考え方は、バイデン政権や労働組合の皆さんとも共有していると思います。私たちもそうした政権をつくっていきます。

労働組合に対する支援としては、政府が直接的に介入することは難しい課題もあるので、一つには未組織労働者に対する啓発活動を進めていきます。

また近年、課題になっている個人事業主などの雇用類似の就労者の課題や、サプライチェーンの課題に対しても、検討を進めていきたいと思っています。

成長の核としてのICT政策

安藤成長の核となるICT政策についても、考えをお聞かせください。

枝野情報通信が大切ということは、政治的立場を超えて共有されています。なぜうまく進んでこなかったのかが問われるべきです。

ポイントの一つは、政府に対する信頼です。政府が個人情報を扱うことに対する不安が強いことが、行政のデジタル化が進まない理由の一つになっています。政府に対する信頼が高まる仕組みを整えていかなければいけません。

二つ目は、デジタルデバイド(情報格差)があまりにも大きいことです。例えば、コロナ禍でリモート授業が一部で導入されていますが、経済的にゆとりがあるかどうかで、利活用の度合いが大きく異なります。経済的な環境などにかかわらず、アクセスしやすい環境をつくるのが政治の役割だと考えています。

安藤行政のデジタル化を進めるにあたっては、情報サービスにかかわる公共調達の見直しも検討してほしいと思います。

民主党政権の反省

安藤民主党政権時代の政権運営をどう捉えていますか。

枝野いろいろな意味で拙速だったと思います。強い期待に応えなければいけないという思いで政治主導で取り組みましたが、結果的に官僚の皆さんとも敵対することになってしまいました。

辺野古や普天間の問題では、期限を区切ってしまったことで沖縄の皆さんの期待に応えられなかった。継続して交渉すべきだったと反省しています。

また、両院で多数を握っている自公政権でも、すべての法案を通しているわけではありません。法案審議でも拙速さがありました。

こうした三つの点で拙速だったことが一番の反省です。

次に政権をお預かりするにあたっては、無責任に大風呂敷を広げるのではなく、できることを最大限きっちりやっていくと申し上げるようにしています。民主党政権当時、大臣や副大臣、政務官など、政権の中にいた人は、党所属議員・候補予定者のうち約3割います。その経験を生かして、同じ失敗は絶対にしないという自信を持っています。

総選挙の争点は?

安藤次の総選挙の位置付けを教えてください。

枝野コロナ禍もあって、「自己責任」「競争重視」のままでは社会は成り立たない、したがって、政治を変えなければいけないという思いは、多くの国民の皆さんが持っているはずです。

ただし、私たちが、その思いをきちんと受け止められているかというと、十分ではない。

安藤立憲民主党の支持率が上がってこないことについては、どう見ていますか。

枝野私たちは、有権者の皆さんの思いに応えられると思っています。それをいかに知っていただくか。「立憲民主党政権に期待する」という選択肢をどう示していけるかだと思っています。

その期待感には、地域差があります。地域で地道に活動している地域では、私たちの訴えがかなり伝わってきている一方で、活動をはじめたばかりではそうはならない。政府・与党に対する不信感は強いのですが、私たちの訴えを発信しなければ、何も伝わりません。運動の熱量を増やしていくしかありません。

昨年9月に、立憲民主党を新たに立ち上げた際、総選挙までに政権の選択肢の一つに認めてもらうことが目標の一つでした。そこまではなんとか来れたのではないかと考えています。

日本は二院制の国ですから、衆議院議員選挙で政権を獲っても、参議院は自公が多数を占めている状況では、皆さんの期待に応えきるのはやはり難しいところがあります。衆議院と参議院をパッケージとして捉え、来年の参議院議員選挙も含め、2つの選挙を通じて政治を変えていくことが重要だと考えています。

安藤最後に労働組合や組合員に対するメッセージを。

枝野組合員の皆さんにはぜひ、各地域の候補者の訴えを読んだり聞いたりしてほしいと思います。「自己責任社会」から「支え合う社会」への転換が争点です。訴えを見たり、聞いたりしてもらえれば、ご支持いただけるという自信を持っています。

安藤今回の対談で、働く人たちを大事にする政治をめざすというビジョンが共有できたと思います。実現に向けて、ともに頑張りましょう。本日はお忙しい中、貴重なお時間をありがとうございました。

(対談:9月3日)
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