トピックス2021.11

連合芳野友子会長インタビュー
連合のあらゆる活動に
ジェンダー平等の視点を入れていく

2021/11/12
連合は10月6日、第17回定期大会で1991年の連合結成以来、初となる女性会長を選出した。芳野新会長は連合運動をどのように展開していくのか。会長就任後の多忙なスケジュールの合間を縫ってインタビューに協力してもらった。
よしの ともこ 1984年、ミシンメーカーのJUKI(株)入社。
2008年JAM中央執行委員。
2010年、JAM東京JUKI労働組合中央執行委員長、
2015年、JAM副会長、連合副会長などを経て、
2021年10月の連合定期大会で会長に選出される。

──本日はよろしくお願いします。

情報労連の先輩たちには、実はとてもお世話になったんです。私の出身単組で育児休業制度を導入できたのは、当時全電通にいた佐藤みつこさんのおかげといって過言ではありません。制度を導入したのは育児休業制度が法制化される前で、全電通の育児休業制度をモデルにさせてもらいました。

また、私が連合東京の女性委員会の委員長に就いたとき、全電通出身で当時、連合東京で組織局長をしていた遠藤幸男さんに4〜5時間かけて就任を説得されました。お二人がいなかったら、私は今、ここにいません。

──そうだったのですね。連合会長に就任されて2週間ほどが経ちました。今の心境は?

思った以上にメディアに取り上げられて驚いています。スケジュールも分単位で、怒涛の2週間を過ごしました。今はプレッシャーを感じている暇もないというのが正直なところです。

メディアの取材では、「ガラスの天井」と「連合のあらゆる活動にジェンダー平等の視点を入れる」話をいつもしています。

──「ガラスの天井」の話の反響はどうですか。

反響は大きいです。私の知っている女性役員の先輩たちの中には、「必ず出世する」という優秀な人がたくさんいましたが、みんな組織の事情で退任してしまいました。悔しくて一緒にお酒を飲みに行ったりもしました。そんな経験から、労働組合には「ガラスの天井」はあると感じていました。優秀な人材を取り込んでこなかったという意味で、労働運動にとってマイナスだったと思っています。

──連合運動のあらゆる活動にジェンダーの視点を入れると訴えています。どのように実行していきますか。

まず、一つには意思決定機関への女性の登用を増やしていきます。というのは、女性が意思決定の場にいないと、女性の抱えている課題解決のスピードが上がっていかないからです。また、女性役員の人数を増やすだけではなく、権利をしっかり主張できて、加盟組合の三役に登用されるような人材を育成していきたいと考えています。

そのためには、長いスパンで労働組合運動に携わる女性役員を増やす必要があります。男性役員が長いスパンで組合活動に携わる一方、女性役員は2期4年で退任してしまったり、妊娠・出産、育児を理由に執行部を降りてしまったりする現実があります。女性役員が賃金や交渉など、さまざまなポジションを経験して、上のポジションに上がっていくというキャリアプランを確立していくことが大切です。

──女性役員を育成するために、これまでの組合活動のあり方を見直す必要がありますか?

執行部の事情に合わせて活動を柔軟に見直していければいいと思います。男性役員でも小さいお子さんを抱えていれば、夜の活動が難しい場合もあります。

私も「組合活動は休みがなくて大変では」とよく聞かれます。でも、「今これをやりたい」と思ったときは、仕事が終わった後でも、休みの日でも組合活動が苦になったことはありませんでした。逆に、組合活動にやりがいを感じられないとつらくて仕方なくなってしまうのも理解できます。せっかく組合役員になったのだから、やりがいをもって取り組んでほしい。やりがいを持って活動できる環境を整えるのはリーダーの仕事です。

──家族やパートナーの理解も大切になりますね。

私は「仕事人間」なので、パートナーも「自分で決めるのでしょう」と私の意思を尊重してくれました。

家事などは、「やってくれて当たり前」と思われないために最初が肝心と先輩から教わりました。料理は得意なのですが、最初のうちはあえてしませんでした(笑)。

──芳野会長は組合活動にどのようなやりがいを感じてきましたか。

一番はじめは、会社の壁よりも執行部の壁を突破できたときの方が、「よしよし」と思いました。

単組で導入した育児休業は、実は1年目は執行部で承認してもらえずに、悔しい思いをしました。2年目に要求項目になんとか載せてもらって、それが会社にも受け入れられ育児休業制度が導入されることになりました。うれしかったですね。成功体験を積み重ねられる環境が大切だと思います。

──春闘にジェンダー平等の視点をどう盛り込んでいきますか。

まずは非正規雇用の労働条件の改善があります。最低賃金の引き上げや安定した雇用形態への転換など、取り組むべきことはたくさんあります。賃金だけではなく、人間関係をはじめ、働く環境の改善も労働組合の大切な役割です。

もう一つは、男女間賃金格差の是正です。これまでも方針に入れてきましたが、もう一段掘り下げたいと考えています。例えば、賃金や人事制度上、男女差別をするような規定がないから大丈夫というのではなく、結果的に男女間の賃金に差があるのなら、その差がなぜ生まれるのかを検証し、是正していく。そのためには、男女で仕事の割り振りに差がないかとか、育児休業のために昇進が遅れていないかなどの課題を把握し、検証していく必要があります。

──「安い日本」と言われるように、日本の賃金は伸び悩んでいます。

賃金が安いということは、働く人の価値が低いと言っているようなものです。私の出身産別のJAMでは、「価値を認めあう社会へ」というスローガンで、付加価値の適正分配や取引の適正化を訴えてきました。消費者の立場からすれば、安くていいものを求めることになりますが、一方で、そこには働く人たちの存在があります。製品やサービス、労働力の価値を認め合って、適正な価格で取り引きされる環境を整備していくことが大切です。難しいですが、避けては通れない課題です。

──組合活動で大切にしていることは?

現場主義です。私の労働運動の原点でもありますが、職場で働いている人たちの声を大切にすることです。職場での日常会話の中に、労働組合が取り上げるべき課題はたくさんあります。それに気付かないと「大変だったね」だけで終わってしまう。でも、それでは労働組合の価値がないので、感性豊かでありたいと思っています。職場の声を受け止められる感度を持つ。それが現場主義だと思っています。

──女性役員にメッセージを

女性から、自分に自信がないという声をよく聞きます。だから、女性役員の皆さんには勇気を持ってほしいと思います。

会長への就任がニュースで流れた際、多くの女性の仲間から、「勇気が出た」などと、激励のメッセージをもらいました。そういう反応を見て、この仕事を引き受けてよかったと思いました。でも、大変なのはこれからです。「女だからダメだ」なんてことを言われないように、頑張っていきます。

──どんな社会をめざしていきますか。

性別や国籍などにかかわりなく、一人ひとりが尊重されて生活しやすい社会です。

──私たちも連合運動をしっかり支えていきたいと思います。本日はありがとうございました。

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