総選挙から参院選へ成長戦略を描き出し
中道の有権者にアピールを
──選挙結果の受け止めは?
「勝者なき選挙」と言えるでしょう。自民党が議席を減らした一方、最大野党の立憲民主党も議席を減らしました。日本維新の会(以下、維新)は、政権批判の受け皿として議席を伸ばしましたが、積極的支持の結果ではありませんでした。
立憲民主党が政権批判の受け皿になり得なかったのは、制度上の制約や限界もあります。
衆議院議員選挙の仕組みは、小選挙区比例代表並立制です。小選挙区制は、二大政党制にドライブをかける制度であり、候補者数を凝縮させる効果を持つ一方、比例代表制は多党化を促すという異なる効果を持っています。
こうした状況で野党ブロックは、小選挙区の候補者一本化を図りました。ただ、それは比例代表ブロックで相対する効果をもたらしました。
一般的に、有権者は、小選挙区と比例区で同じ政党に投票する傾向にあります。詳しい分析を待つ必要がありますが、非自民の無党派層は今回、小選挙区で立憲に、比例区では維新にと分割投票する割合が高かったのではないか。小選挙区では野党が候補者を一本化したことで統一候補に投票せざるを得ない。一方、比例区では小選挙区で選択肢が減った分、違う野党に投票したいという誘因が働き、維新に投票した。そうした可能性があったことは否定しきれません。
無党派層は「中道」に集中して存在します。立憲民主党が共産党と連携する中で、中道の有権者から立憲民主党は「左」に行き過ぎたとみなされた。そのため、非自民の無党派層は、比例ではより「中道」とみなされている維新を選択したという構図です。国民民主党もそうした期待の恩恵にあずかったと言えます。
小選挙区では、候補者の一本化は合理的な戦略でしたが、比例では違うロジックが働いたと総括できるのではないでしょうか。
──参議院議員選挙に向けて立憲民主党はどう立て直しを図れるでしょうか。
解散から投票日までの期間が最短だった今回の選挙に比べて、次の参議院議員選挙は日程が決まっています。その期間をどう生かすかがポイントです。
──どんな政策をアピールすべきでしょうか。
岸田政権が準公的部門の賃上げなど、野党寄りの政策を打ち出したことで、野党は与党との違いを示すのが難しくなっています。
このことは、政党間の政策競争が働いた結果と言え、プラスに評価できます。野党が練り上げた政策に与党が寄せてきたのですから、野党の政策を過少評価する必要はないでしょう。
野党は、アイデンティティや文化、憲法以外の分野で与党との対立軸をどうつくれるかがポイントになります。中道の無党派層の関心は、景気や雇用の分野に集積しています。立憲民主党がそこにどう切り込んでいけるかがポイントです。
──具体的にどのような政策が必要でしょうか。
今回の選挙は、日本社会の貧困化が実感される中での選挙でした。賃金の低迷が続き、OECD諸国の中での成長率は最底辺に位置しています。こうした状況では、生活をどう立て直すかをアピールしなければいけません。
大切なのは、成長の糧を生み出すことです。アベノミクスは、円安を誘導し、輸出業を優遇しましたが、潜在成長率は高まりませんでした。企業は投資をせず、内部留保を積み上げました。企業が投資をしないのは、投資先が見つからないからです。企業の投資を促進するための広い意味での成長戦略・産業政策が求められています。
成長戦略は、立憲民主党の固定的な支持層からすると、課税対象である企業への支援と見られがちですが、税収を上げるためにも十分な成長をする産業が必要です。
安倍自民党は、憲法改正を掲げて、「岩盤保守」の支持を得た上で、アベノミクスを打ち出し、過半数を得てきました。立憲民主党も岩盤リベラルを固めた上で、無党派層を振り向かせる経済政策がなければ、過半数を得るのは難しい。固定的な支持層の上に、ウイングをどう広げていくかが問われています。改革志向の有権者に働き掛けたり、成長戦略を提示したりすることも大切です。
──野党の連携はどう見ていますか。
非自民ブロックは、社会民主主義と新自由主義の潮流を合わせないと大きな勢力になれないというジレンマを抱えています。
日本の有権者マーケットでは、新自由主義的なアピールに共感する有権者は、2〜3割存在します。2009年の政権交代は、こうした層が大きな役割を果たしたことを想起すべきです。
自民党は、小泉政権後、こうした路線を後退させましたが、その有権者マーケットに最初に入ってきたのが、みんなの党でした。2012年以降、維新がそこに定着し、独自に活動するようになって、野党は大きなブロックをつくるのが難しくなりました。
立憲民主党としては、そうした層にウイングをどう広げていけるかでしょう。
──野党は批判ばかりという声もあります。野党第一党に期待される役割は?
野党第一党に期待される役割は、2009年のポスト55年体制以降、変化しています。かつての社会党のように政権に対するチェック・アンド・バランスの役割を果たすことに加え、現実主義的でより良いオルタナティブ足り得る政策を提示することが求められるようになりました。野党第一党には、二正面作戦を取ることが求められています。
──参議院選挙での野党連携をどのように見ていますか。
野党ブロックにとっては、1人区での候補者の一本化は不可欠です。一方で、比例区はイメージが左右するので、連携のあり方をブラッシュアップする必要があります。
──中・長期的にはどうでしょうか。
歴史的な視点で見ると、今回の選挙は、共産主義や共産党を既存の政治システムにどう受容するかが問われる選挙だったと言えます。
共産主義は19世紀後半から20世紀にかけての世界最大、最強のイデオロギーでした。しかし、共産主義は冷戦崩壊後、行き場を失い先進国では風前のともしびです。
日本共産党は、そもそも議会制民主主義を批判する反システム的な政党でしたが、強すぎる安倍政権を打倒するために、他党との連携の必要性を認識し、現実主義化するようになりました。こうした流れの中で、共産党を政党政治へと吸収するのかが問われるようになっています。
連合には歴史的な経緯も含め、共産党にアレルギーがあるのは当然です。ただし、共産党は高齢化が進み、勢力的な先細りも懸念されています。連合が、上手を取って味方につけるという視点も重要ではないでしょうか。
──労働組合への期待を。
投票行動論では、中間団体の衰退と投票率の低下は密接にかかわっているとされます。労働組合のような中間団体が盛んに活動し、人々が政治について語り合える場があることが民主主義にとってとても大切です。労働組合は、推薦候補者の当選をめざすだけではなく、民主主義を維持するための重要な役割を担っているという自覚と誇りを持ってほしいと思います。