【第5編】働く・2〜「F型」で考えてみましょうか〜F型は
どこに行った? 3
前回、メンバーシップ型雇用(MS)を拒絶したり嫌気が差したりして女性たちが企業の外へ出る話をしましたが、辞めずにMSの一員になる場合があります。辞めないけれど、企業の中にF型の陣地をつくるわけです。例えば、耐え忍んで正社員のままでいたり、正社員から転換した契約社員や、限定正社員で働いています。多様化する正社員、と呼ばれるものです。
M型は家族のこと、自分の身の回り一切をやってくれる、仕事だけになるのを支えてくれる女性付きの男性モデルそのものです。そのお付きの女性の負担の大きさ、ゆるさによって、企業の中のF型か、外のF型かに分かれる、と言えばわかりやすいでしょうか。もちろん、自分の身の回りくらいで済んだり、自分にも家族のお付きがいたりする女性はM型となり、つまりMSに入れます。
前回も紹介した本ですが、「非正規女性たちのキャリアのゆくえ」(『なぜ女性は仕事を辞めるのか』)」を書いた鈴木陽子さんによると、高学歴女性で最初から非正規で働くのは約2割で、年齢が低いほど割合が高まります。これにMSから逃げてきた女性が加わるため、女性の非正規割合は極度に高く、大きな年収格差を生み出しています。
よく働いてくれてしかも安く済むF型が企業の外に造成されているのなら、今すぐにでも自社のF型をやめてしまいたい、というのが企業の本音でしょう。MSあってのF型だということに気付いている企業ほど、何食わぬ顔で必死にMSを守ろうとするでしょう。追い出しながら女性の賃金を抑え付けているのに、大事なMS型を脅かすだけでなく、せっかくつくり込んできたF型まで失いそうな「同一労働同一賃金」なんか、とんでもない話でしょう。
だから、日本企業がMSをやめるというのはフィクションだと気付くべきです。MSを変えるのかどうかに注目するのに大きな意味はなく、F型を見よ、F型を変えよ、ということなのです。
日本労働ペンクラブ会員。主著に『女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』(旬報社)がある。