トピックス2022.06

ダイバーシティ推進月間──(2)合理的配慮のポイントは?
障害者雇用はダイバーシティ経営力を高める

2022/06/14
障害者雇用促進法に基づき、雇用分野では企業に障害者に対する合理的配慮の提供が義務付けられている。ポイントを押さえつつ、障害者雇用の促進でダイバーシティ経営力を高めよう。
朝日 雅也 埼玉県立大学教授

合理的配慮とは?

2006年、国連総会で障害者権利条約が採択されました。この条約によって、障害のある人は保護の対象ではなく、権利を行使する主体であるという考え方に転換しました。また、障害者に合理的配慮をしないことは差別になると定められました。

日本は同条約を2014年に批准しました。2016年4月に施行された改正障害者雇用促進法では、雇用分野における合理的配慮の提供義務が定められ、2021年に改正された障害者差別禁止法では、民間事業者における合理的配慮の提供が義務化されました(2021年6月4日から起算して3年以内に施行)。

合理的配慮とは、障害者権利条約では、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されています。

このように合理的配慮には、「特定の場合」という条件がついています。例えば、職場ですべての障害者をいつでも受け入れられるように準備をしなければいけないのではなく、Aさんという特定の人が働く場合に必要な配慮を提供するということです。かつ、それが職場や企業にとって過度な負担にならない範囲で、とされています。

企業に求められること

障害を理由とした直接的な差別の禁止はもとより、障害以外を理由にした条件であっても、その条件によって結果的に障害のある人が不利益を被っている場合も間接的な差別として位置付けられます。加えて、合理的配慮を提供しないことも差別となることに留意しなければなりません。障害のある人が障害のない人と同じように働くために企業には調整が求められ、その対応の合理性が問われると捉えられるでしょう。

こうした考え方は、日本社会、とりわけ日本の職場では弱かったものなので、国内法の整備による導入には重要な意味を持ちます。

職場での合理的配慮は、採用から教育訓練、昇進・昇格、雇用終了に至るまで雇用にかかわるすべてのテーマについて求められます。

企業からすればどこまでの対応が求められるのかが気になるポイントだと思います。例えば、経営が傾くような状態は「過度な負担」と言える一方、今まで対応したことがないとか、少しでも負担になるからという理由で対応しないのは、合理的配慮を提供しておらず、差別に当たるとされるでしょう。

障害のある人からすれば、どういう配慮があればその会社で働けるのか、適切なサポートも得ながら、きちんと説明することが大切です。合理的配慮の提供が義務化されたからといって、何でも対応してもらえるわけではありません。事業者と話し合って決めることが大切です。

ダイバーシティ経営力を高める

障害者雇用に取り組むのは、法定雇用率を満たすためだけではありません。法定雇用率は手段であって目的ではないはずです。障害者雇用の目的は、障害のある人が障害のない人と同じように働く上での権利行使の主体となることです。

障害者雇用に取り組むことは企業のメリットにもなります。障害者雇用はダイバーシティ経営の力を高めます。障害のある人にきちんと対応できるということは、職場全体の従業員の満足度を高めることにつながります。つまり、障害のある人にきちんと対応できる会社は、障害のない従業員の課題にも対応できる支援力のある会社なのです。だから従業員満足度も上がります。

障害のある人は、ある意味、働きづらさを象徴する存在でもあります。そうなると障害者と外国人への対応方法は異なるように見えますが、通常のコミュニケーションでは伝わりにくく、どうすればスムーズになるかを考えるという点では、取り組み方の基盤は同じです。

障害のある人にどのように能力を発揮してもらうのか。適材適所で仕事とその人がうまく合えば、障害に関係なく能力を発揮してもらえます。

また、スキルの面で不十分であっても、向上心があったり、人とのかかわり方が上手で、結果的に職場全体のモラールを向上させるようなケースも少なくありません。これも障害のある人が持つ一つの「働く力」だと考えています。

その人が働くためにどうすればよいのか考え、工夫することが結果として職場全体の生産性を高めることにつながります。

三つのプレーヤーの連携

障害者雇用は、身体障害から知的障害、精神障害あるいは発達障害へと対象を広げてきました。特に見た目にはわかりにくい特性のある障害への対応には課題が残っています。

例えば、精神障害のある人の定着率は、他の障害に比べると低くなっています。離職もまた職業生活の一つの通過点と見ることも大切です。

一方、当事者にとっては転職を繰り返すことで働く条件が悪くなる場合もあるので、企業による定着のサポートはやはり必要です。とりわけ、目に見えにくい障害では、生活や健康面での支援も欠かせません。障害者就業・生活支援センターなどの外部の支援者と連携することも大事です。その際のポイントは、職場での出来事を障害当事者にも確認した上で外部の支援者とも共有すること。企業内の担当者だけで問題を抱え込まず、外部と連携した取り組みを行うことが大切です。

障害者雇用を確実にしていくためには、ポイントとして、三つのプレーヤーを認識することが重要です。すなわち障害のある人、事業主、支援者の3者です。

そのイメージは、本人が真ん中にいて、その周りに事業者や支援者がいるという構図です。気を付けてほしいのは、真ん中に置くのは本人ではなく、本人の課題だということです。そして、本人もその課題を解決するために一緒に考えるチームメンバーであると捉えてほしいと思います。

インクルーシブな職場へ

障害者雇用のあり方としては、障害のある従業員と障害のない従業員が同じ職場で働くインクルーシブな環境があるべき姿だと思います。その意味で、特例子会社で採用したので、雇用管理は親会社と異なるものの、親会社の従業員と同じ職場で仕事をするケースも増えています。一方、障害者雇用の外注ビジネスが広がっていて、親会社の従業員とまったく交わらないようなケースも増えています。同じ会社の一員として障害のある従業員と障害のない従業員が同じ職場で「働きあう」環境づくりが大切です。

労働組合の役割にはとても期待しています。労働組合の皆さんは、職場で「働きあう」仲間です。日本の教育事情などから、障害のある人と接する機会が少なく、同じ職場で働くことで戸惑いや意見の衝突があるかもしれません。それを単に避けるだけではなく、話し合い、調整する役割が労働組合には期待されます。障害のある人とともに働きあうことで、障害のない人たちも、障害に対する理解が深まります。それが、より豊かな社会の創造につながります。

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