特集2022.07

AIと人事・働き方
働く側はどう向き合うか
データ収集を巡り会社と協議
働く側の意見反映が欠かせない

2022/07/12
AI利活用の前提となるのがデータの収集だ。働き方や人事にかかわるデータ収集は各社ですでに行われている。労働組合がデータの集め方や運用方法などにかかわることが重要だ。KDDI労働組合の事例を報告する。

会社と細かい点まで協議

KDDIは、従業員の働き方に関する各種データを分析し、働き方の改善につなげる取り組みを実施している。この取り組みに対し、KDDI労働組合は、働き方のデータ収集や活用法などについて会社と積極的に協議し、働く側の意見を反映させている。

KDDIが取り組んでいるのは、メールや表計算、リモート会議システムなどの各種アプリケーションの利用状況などのデータを収集し、その結果を傾向として上司や本人にフィードバックし、働き方の見直しにつなげるというもの。実施にあたって労働組合は、制度設計などに関して会社と協議を重ねてきた。

KDDI労働組合の永渕達也政策局長は、「データ収集の大前提は本人同意があること。労働組合としてはこの点を前提に置き、その上で取得するデータの範囲や取り扱いについて会社と一つずつ確認してきた」と話す。具体的には、データ収集の範囲や開示する情報の範囲、取り扱い者の範囲など、細かい点まで会社と協議を繰り返した。

長谷川強副委員長は、「データ収集の目的は、社員の監視にあるのではなく、あくまで効率的な働き方をめざすこと。そのことが確認できたので労働組合としても協力することにした。それでも個人情報など踏み込んではいけない領域があるので、本人同意を必ず行うようにし、データ取得の範囲や取り扱いなどについて、想定し得る限りで会社と議論してきた」と話す。

その結果、会社はデータ取得の目的とその範囲を全社員に説明するとともに、データ収集を不同意にできる権利を担保し、個人情報にかかわる機微な情報は保護する仕組みを整えた。例えば、メールやチャットの件名や本文、アプリケーションのファイル名などはデータ分析から除外され、明かされない仕組みにした。また、この施策は人事評価に使うことが目的ではないことも労使で確認してきた。施策を運用する上で社員の信用が大事だと考えたからだ。

長谷川副委員長は「データ収集によって社員の自由なコミュニケーションを阻害するようでは本末転倒。データ収集にあたってはそのようなことがないように会社に要請してきた」と話す。

労働組合のない職場では、本人同意がないまま会社がデータ収集や分析を行う可能性も否定できない。データ収集への同意や収集の範囲、運用方法などに関して労働組合の関与があることは、AI活用の広がりを踏まえれば、極めて重要な取り組みだといえるだろう。

連合や情報労連の発信に期待

一般的にも今後、AIが人事データを分析し、会社施策に反映する動きが強まる可能性が高い。収集したデータをAIが分析し、人事評価などの場面で用いるケースが増える可能性もある。

こうした動きに対して永渕政策局長は、「AIを使うにしても最終的に社員に説明するのは上司。人がわかる言葉で説明してもらうことが大切」と話す。

長谷川副委員長は、「個人情報の取り扱い方やAI導入時の注意点などは現在、労使自治に委ねられている。AI活用が今後広がることを踏まえると、労使自治だけでは限界がある。連合や情報労連には、率先した議論と情報発信を引き続き期待している」と訴える。

ヨーロッパでは労働組合が率先してAI導入時における方針などを策定し、企業や経済団体に対してその履行を求めている。企業ごとの運用では、とりわけ労働組合のない職場でAI導入が個人情報の不当な取得など、働く側に不利に働く懸念もある。働く側の意見を反映したルールの策定が欠かせない。

特集 2022.07AIと人事・働き方
働く側はどう向き合うか
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー