AIはユートピアをつくるのか?
モヤモヤ感を大切に
先日、学生たちと、AIがグループディスカッションでのパフォーマンスを診断するサービスの体験会に参加した。オンラインで議論した内容をAIが解析し、診断する。出力されたレポートは各指標が定量化されたものだった。診断結果は、いちいち納得できるものだった。しかも、面接官が捉えきれないような点まで細かく網羅していた。音声を的確に解析するために、オンラインでなくてはならず、しかも音声がクリアに拾えるようなヘッドセットを使わなくてはならないなど制約はあるものの、極めて便利なツールだと感じた。
そういえば、最近、「マッチングアプリで恋人ができた」という話を若い人からごく自然に聞く機会が増えた。先日は「このアプリ、最高だよな」と言いつつ歩いている男女を見て、複雑な心境になった。古巣リクルートの、婚活関連のサービスを手掛ける方に話を聞いたことがあるが、AIやビッグデータを活用しており、マッチング精度は高いという。首をかしげる人もいるかもしれないが、忙しい中、ましてやコロナの影響の中で人と会えない中、普段の生活では出会えない、しかも相性のよい人との出会いがある。
AIの利活用が進んでいる。いや、実際にはもうあちらこちらでAIが動いている。「AIに人間が支配されるなんて、けしからん」という意見を言っている人に限って、いつの間にかAIに囲まれて生きている。日常生活においても、ビジネスにおいてもAIはすぐそばに存在する。
労働組合にとって、AIは踏み絵である。「AIが雇用を奪うのではないか」という不安が爆発したのが2010年代半ばだった。一方、AIは過酷な仕事から人間を解放したり、長時間労働是正に貢献するかもしれない。過労死・過労自死事件が起こるたびに、「なぜ、この業務を一人の人間が担っていたのか」と議論になることもある。ちょうど教え子たちが、保育、介護などケア労働でのAIの利活用について卒業論文を書いている。離職率が高いといわれる業界を劇的に変える可能性を秘めている。
しかし、モヤモヤする。AIに管理されるディストピアもすでに現実となっている。配達などの業務にかかわる人は、アプリの指示に従って配達を行う。最善のルートをAIが提案する。これは、仕事を楽にしているのか、過酷なものにしているのか。取り扱う荷物はECの成長とともに増えていく。ここでもAIが活用され、人間の欲望を刺激しモノが飛ぶように売れていく。
いつの間にか、私たちのデータが利活用されている。データを差し出すことによる恩恵もあるが、これはときに人権を侵害していないか。これにより、搾取、労働強化が進まないか。AIが採用、人事評価などに活用されるのは良いことなのか。政治、経済、社会問題に関する意見すらも、AIの表示ロジックが左右する。すでにAIに支配されていないか。
自分に関するデータがどう利用されるのか、敏感でありたい。踊らされている、何かおかしいと気付く、モヤモヤ感、人間の生の感性を大切にしたい。と言いつつも、今日もAIが実装されたアプリが詰まったスマートフォンを握るのだが。